捧げる想い

@kudo_miu

捧げる想い

ここに来るのはいつも大抵、なにかを想っているとき。

わたしはひとり、海の浜辺に来ていた。



波の音は緩やかで、空には星が瞬いている。

静かな時が流れていた。



わたしは波打ち際まで近寄り、境目を歩いた。

足に当たる前に波は引いてゆく。

立ち止まり、波の音の中へ耳を澄ませてみた。



聞こえてきたのはきみのこえ。

清んだ響きに胸が締まる。



「あなたが行ってしまってからの私は」



そっと胸に両手を添えてみる。



思い出すのはあなたがわたしにいつも声をかけてくれたこと。

優しい響きでそっと励ましてくれた。

今でもひとつひとつが思い浮かぶ。



「あなたは今どこで…」



空を眺めては、星空が潤んで見えてしまう。



言えなかった想いが溢れてきた。

どうしても伝えたかったことがある。



「わたしはあなたのことが…」



けれども、あなたはもういない。

言葉にできない想いを、砂の上に想いを綴るけど、すぐに流されてしまう。



「聞こえる?わたしはここにいるよ」

「あなたが好きだったこの場所にずっといるよ」



あの時の約束がまだだよ。



あれから何年もの月日が過ぎたよね。

いろんなことがあったけど、わたしはあなたとの記憶をずっと思い返している。

わたしはこの記憶だけを抱いていたい。



想いの内に沈んでゆく。



わたしは宙に放たれた。

満天の星空にひとり漂う。



世界は知っている以上に広い。

自分の存在なんてちっぽけなほど小さく感じてしまう。



わたしは流されて蒼く輝く星まできた。

きっとシリウスだ。



ここで願えば、届くのかもしれない。

あなたに会いたいってこと。

いろんな感情を教えてくれて、ありがとってことを。

だから伝えよう。



「聞こえますか?わたしはここにいるよ」

「この青い光のもとに、わたしはいるよ」

「あなたはどこにいるの?」


目を閉じて、わたしは伝え続ける。

気がつけば、あなたはそばまできていた。



何も言わずにあなたは手を握ってくれて、わたしを見つめてくれる。

過ぎ去った時間と私の想いなんて無かったかのように。



やっと、来てくれたのね。



わたしはその手をぎゅっと包み込む。

少しだけあたたかい。



このあたたかさにいつも救われた。

何も無かったわたしに、いつも手を差し伸べてくれたよね。



どこにも行ってしまわないように。

ずっとそばにいてくれるように。



「もうすれちがうことなんてないよね」

「いつまでそばにいたい」



みつめた瞳はどこか悲しげで、やさしい色をしていた。

あなたの力になりたい。

あなたがしてくれたようにわたしも。



だけどあなたは目を逸らしてしまう。



霞のように薄れていく。

温かい感触はもう感じない。



わたしは一人のこされた。



また行ってしまうのね。

すべきことでいっぱいだから。



あなたはそらを流れてゆく。



蒼い光だけが満ちていた。



きっと、また会えるだろう。



わたしはここにいるから。

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