第23話 献身




「カズマさん‼ 先輩‼

大変なことになり…………え!?……………きゃ‼」



「わっ!? エリス様っ!? 何!?」



エリスが突然現れて驚いて顔を背けて紅くなって固まっている。


カズマは私の身体ににシーツを被せ、急いでズボンを履いている。


「なっ なんでめぐみんさん!?

先輩…は…」


最後のほうはか細くなって聞こえなくなっている


「いやっ これは みんなで同意の上と言うか…その…」


カズマもしどろもどろだ。


「………………………。」


二人が重い空気の中、

私は魔法の詠唱を始める。


「………………………。」


「ん? めぐみんなんで詠唱してんだ…?」


「……………………。」


カズマの問いにも答えずに詠唱を続ける。


「…………………」


「えっ!?…え?…え!?」


自分に向けられるもの凄い圧力の私の魔力に驚きを隠せないエリスが、私とカズマの顔を交互にキョロキョロと見ながら怯える。


「…………………。」



「めぐみん!? どうするつもりだ!?

爆裂魔法を使うのか!? こんなとこで撃てばみんな死んでしまうぞ!?」


その言葉に私は低く答える


「カズマ。あなたを決して死なせはしません。アクアもダクネスもめあねすもです。私は今から最大魔力のゼロ距離爆裂魔法をこのクソ女神に撃ちます。

塵すら残さずに消してやります。

あなたはどうか逃げていてください。

そして、アクアとダクネスとめあねすをどうか護って下さい。

私の最初で最後のお願いです。

どうかお願いします。

あなたを心から愛しています。

時々でいいですから思い出して下さいね。」



そう言って詠唱に戻る。

全力で 全生命力を言霊に乗せて。


「……………………。」


部屋の次元が歪む。

ふふ。凄い魔力。


もう目もまともに見えないし

耳も役にたっていない。


そんなもの要らない。

とにかく全力でこのクソ女神を滅ぼしてやる。

この罪を償わせてやる。


私の瞳は生まれてから今までで一番紅く光っているに違いない


エリスが怯えている。

泣け。叫べ。お前を絶望の淵に立たせて全てを無に還してやろう。

お前はそれだけのことをしたのだから。


「――‼ 助け…先輩‼――助けて‼」


もう止まらない。

お前を滅ぼして私も消える。


カズマ―大好き――



「お願い待って‼めぐみん‼

止めて‼お願い‼ 私も謝ります‼

ごめんなさい。

本当に ごめんなさい。」


アクアが突然入ってきてエリスの前で庇う。


「退いてくださいアクア。こいつは…私の大切なものを……存在する意味を…ないがしろにしたのです…。…るさない…。…許さない…。殺す…。」


「…………ひっ……」


エリスがアクアの背中にすがりつき、怯えて震えながら涙をぼろぼろこぼしている。


憎悪に満ち、もはやとりつく島もない私を見て観念した様にアクアが言う。


「分かったわめぐみん。

本当にごめんなさい。

あなたをそこまでにしてしまったのは確かにエリスが悪いです。

でもそれは私の責任でもあります。

…エリスは私の妹みたいなものなの。

妹の犯した罪は、身内である私の罪。

もう許してなんて言わないし、あなたの想いを知ってる私から見れば、そんな言葉は言えないわ。

だから…どうか私を罰してください。

エリスには本当に悪気はないの。

一生懸命過ぎてたまに周りがよく見えない時があるの。

まだまだ未熟で、足りないところだらけかもしれないけど……

でも私が保証する。

エリスは必ずめぐみんの良い友人になれる。

必ずあなたたちの助けになるわ。

だから。私が。

妹の罰は私が受けます。

ごめんなさい。めぐみん。

ごめんなさい。」



あのアクアが

必死になって私に頭を下げ言葉を尽くしてエリスを庇っている。



もう…。 もぅ…。 もぉぉ…!



「出来るわけないでしょう!?――莫迦アクア‼……ばか ばか ばか ばか 莫迦ぁあ‼」



「―――――んっ‼」


私は窓から爆裂魔法を投げ棄てた。


意識が薄れ行く中、

カズマがそっと

倒れゆく身体を受けとめてくれたのがわかった。



****************



朦朧とする意識の外で

エリスが泣きじゃくっているのが聞こえる。


「先輩。恐かったぁぁ。―ひっく―本当…に―ひっく―恐かったぁ―ひっく―け 消されるかと―ひっく―思った―ひっく―。」


「よしよし。分かったから。よしよし。」


アクアがそれを慰めているみたいだ。


―そりゃ私が命までつぎ込んで練った最大級の爆裂魔法ですからね。

神にも止められませんよ…


…にしても身体が重い…。

全身を激しい倦怠感が襲う。


…でもなんか温かいですね…。気持ちいい…。

微かに戻ってる視力で見渡すと

どうやらカズマが抱きかかえてくれてるみたいだ。


「…カズマ。すみません。

…辛くないですか…?」


「莫迦はお前だ。このばか。

俺の心配なんてしてんじゃねーよ莫迦!」


あなたの他に何も要らないだけ。

あなたの心配するのは私にとって息をするのと同じことですよ?

馬鹿ですけど…。


「また邪魔されちゃいましたね。

ふふふ。あなたと私はえっちぃことが出来ない運命なのかもしれませんね。」


もう可笑しくて笑いが。


「そうだな。ははは。

でも本当に、これはマジで土下座してでもお願いしたいけど…」


言い淀むカズマに


「けど…なんです?」


カズマは顔を紅くして


「……いつか絶対にしような。」


あはは。耳まで真っ赤っか。

可愛過ぎる。


「…だめって言うわけないじゃないですか。命までかけて邪魔されたのを怒った女の子捕まえて何言ってるんですか。

それに、あなたがしたい以上に私だってあなたとしたいんですから。

こちらからお願いしたいですよ。

何時でもどこでも、私をあなたのしたいようにしてください。

台所でも、トイレでも、散歩の途中でも、ダンジョンの中でだって、24時間 何時でもです。何時でも私の中に入ってきて下さいね。」


「は 鼻血出そう…。

実は…さ。俺、

めぐみんの身体が一番のタイプなんだよな。

これ アクアにも言ったことあるんだけどさ。

お前の身体見てたら…なんかこぅ…

綺麗過ぎて俺にビンゴ過ぎてもぅたまんねーんだ。

ぶっちゃけ

サキュバスに頼んでんのいつもお前だったしな…。

あっ。ロリコンじゃないぜ?ぜんぜん。」


「私の身体に言いたいことがあるならじっくりと聞こうじゃないか。」



――そんなこと想ってくれてたんだ!嬉しい。


でもでも嬉しいんだけど…

なんかだんだんムカついてきた…。


いや。いや。ムカつく‼


「カズマ?…いやいやカズマ!?

そんな私の身体が好きだなんて、綺麗だなんて、いやいやいやいや。

じゃあなんで襲ってくれなかったんですか?

夜這いでもかけてくれればよかったじゃないですか!?

何時だって待ってたんですよ!?


毎晩毎晩毎晩

ひとりで寝てる時に

カズマ来てくれないかなぁとか…

もぅ…もぅ…もぅ…ずっとずっとずっと待ってたんですよ!?

なんでサキュバスのアバズレクソ悪魔なんかにくれてやってんですか!?もったいない‼

わ 私にくれたら……私に出してくれたら…いいじゃないですかぁ……ずっとずっとずっとずっと待ってたのに………ばか……ばか!

カズマのバカぁ‼」


悔しくて涙がとまらない。


さびしかったのに……もぉぉ

さびしかったのに‼


アクアやエリスが退いてる

いいや。もう。この鎖は解けない。



「……すみません。

取り乱してしまって……。

…ということです。

私はサキュバスの夢以下なのです。

決して私の身体はよくありません。

ちゃんと知ってるんです。

だって、15年見てきましたから。


綺麗だなんて……言わなくても大丈夫です。

私はカズマを心から愛しています。

この身体はあなたのものですから、そんなこと言わなくても、何時だって好きに使ってください。

それで私は大丈夫です。」


私はのろのろと起き上がり

ワンピースをかぶる


エリスに礼をして

アクアにハグを。


給仕ワゴンにコーヒーセットと皿を積んで

一度だけ振り返り


「居間にお茶淹れておきますので、良ければどうぞ。

エリス。ごめんなさいね。あなたも飲んでいって下さいね。」


と言って部屋をあとにした。



****************





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