第21話 姉妹の絆




「今夜カズマ貸して下さい。」


居間の暖炉のソファで、めあねすの帽子を手編みしているアクアに言った。


―今 私たちは

前みたいにそれぞれの部屋で暮らしている。

これはアクアの希望で、私やダクネスの気持ちもあるから、みんなフェアな状態で生活しようということになっている。


謀らずも、カズマにとってはハーレムみたいなものになってしまってることになる。

でも、私たち三人はそれでもいいとお互いに思っている。


お互いに愛した男が、たまたま世間一般の男の数千倍ではきかないほどに格好いいんだから仕方がないと。

また、その甲斐性もカズマはしっかりと持っていると自信をもって言える程に、私たちの生活基盤はすべて彼が自分の能力と才能でしっかり構築したものだ。

私たちがおかしいなら好きなだけそう騒げばいい。

あなたたちが一生かかっても見つけられないくらいの幸せを私たちは持ってるのだから。―



「いいわよ。何?めぐみん。とうとうヤりたくなっちゃった?」


アクアがにやにやとそう言う。


「ほんと女神ですかあなたは!?

……まぁヤりたくないと言えば嘘になりますけど…。」


「ほら? 痛くないといいわね。私は最初から気持ちよかったけどね。女神だから。」


と自慢気に言うアクアに


「それが女神の言葉ですか!?

愛さえあれば痛くても大丈夫です。

我慢出来ます。

でも前アクアにカズマのを挿れられた時は頭がおかしくなるくらい気持ちよかったですけど…」


「あれは私の感覚が半分だったからよ。ほんと、死ぬかと思うくらい気持ちいいわよねー。びっくりだったもん。身体の相性ってほんとにあるのね。」


実際あれは、ハマってしまうんじゃないかと半分怖い。

あんなのが一晩中続いたら本当に気が狂ってしまう。

世の中の女の人たちを心から尊敬する。


「まぁ、ほどほどにね。めぐみんはまだ15歳なんだしね。」


アクアはそう言ってまた編み物に目を落とした。


「じゃぁ今夜私の部屋にお借りします。」


と言って居間をあとにした。


****************



「さて。次はダクネスですね。」


正直、ダクネスに関しては少々気が引けていた。

彼女の立場は私と同じ位置にあるのだから。

始めてなのは同じだし、互いに心底同じ男に心酔してしまっている。


―泣き虫だからなぁ…ダクネス。


先を越されるとか取った取らないとか言い出すなんて心配は微塵も無い。

彼女ならきっとあの気高い天使の様な微笑みで喜んで了承してくれるだろう。そんなことは分かってる。

だけど

私がこのまま何も言わずにカズマと関係を持ってしまったら、少なからず彼女は哀しむ。

それが嫌なのだ。


ダクネスは私たちの最強の盾だ。


いや、世界中のどこを隈なく探したところでこんな頑強な盾など在りはしない。

他人を護る。そのことだけに特化した最強の盾。世界最強にして最高峰のクルセイダー。


でも、

彼女は他人は完璧に護れても

自分は護れないのだ。


いつも自分が傷ついて、いつも自分が血を流す。

それでも彼女は庇う手を退こうとしない。

どんなに痛くても、どんなに苦しくても、私の全力の爆裂魔法で撃たれても、たとえ死んでも、

私たちの愛する親友は、怯むことなく、決して私たちの前から退いてくれないのだ。


―彼女は私が護らないと。


世界最強の盾にして世界最高峰のクルセイダーは世界一の泣き虫なのだから。



ダクネスの部屋の前に来る。


「ダクネスー。入っても良いですかー?」


ノックして伺うと。

ガタガタガッシャーンと。


「ぅわぇ!? め めぐみん!?

ちょっ ちょっと待ってくれ今開けるからっ!」

と。


訝しげな雰囲気に待ってると

鍵が開いてダクネスが顔を覗かせた。


「ま 待たせて悪かった。少々片付けものをしてたんだ。どうぞ。」


と何やら肩で息をしながら私を招き入れてくれた。

私は窓際の椅子に座り部屋を見渡す。


―乱れたシーツ

慌てて跳ねあげたかのような布団。

敷き布団の中央に窪みが…

何やらうっすらと濡れているように…


私はジト目をしながらダクネスに向き直り

「ダクネス。あなた。独りでヤってましたね?」


ビクンとダクネスの肩が跳ね上がり

みるみる顔が紅く染まる。


「だだだ だって…だって…。」


もはや半泣きだ。


「だだだだってじゃありません。いやらしい娘ですねまったく…

19歳の身空であなたは夕方からいったい何をやってるんですか…!?ほんとにもう。」


15歳の小娘に言われることもないだろうに。


「…さっきあいつが…

カズマが私を…褒めてくれたんだ…。

司政の合間によくやってくれてるなって…私を抱きしめてくれたんだ。

それで…我慢が…こぅ…。」


私は大きく嘆息する。

あの男はほんとに…。

マメなのか気が効いているのか…

私にプロポーズめいたことを言った舌も乾かないうちにこれか。

別に怒る気はしないが素直に容認するのも、彼を愛するひとりとしてどうかとも思う。


これから年齢を重ねていって落ち着きが出てきたらきっと名うてのジゴロになるに違いない。

目を光らせておかないと…。


「まぁ良いんですよダクネス。

あなたの酸っぱいにおいをかぎながら話しても特に問題はありません。」


「――――っ‼

酸っぱいとか…もぅっ…めぐみんの意地悪っ‼」


真っ赤な顔をさらに真っ赤にして

顔を押さえてうずくまる。

いじめるとほんと可愛い。


私はそんなダクネスを正面の椅子に座らせ、丸いテーブルを挟んで向き合った。


「ダクネス。私は今夜カズマを襲います。良いですか?」


そう言うとダクネスは突然の申し出に肝を抜かれたように何度か目をしばたかせ、すぐに微笑んで


「好きにするといい。私は大丈夫だ。」

と穏やかに言った。


私はそれを聞いて

ゆっくりと大きなため息をついて

目の前の、大が付くほどに馬鹿な優しい親友を見て言った。


「泣いていることに気づかないくらいに苦しいのなら、笑って送り出さないで下さい。」


慌てて自分の頬を触って驚くダクネスの目から堰を切ったように次々と涙が溢れだす。


「す すまんめぐみん…。こんなつもりじゃぁ…。すまん。」


首を振りながら何度も謝るダクネスを手で制し


「わかっていますよ。私もきっと同じです。だからダクネス。

じゃんけんをしましょう。」


「は…? え!?…」


呆気にとられるダクネスに私は真面目な顔で大きく頷いて繰り返す。


「ええ。じゃんけんをしましょう。

わたしが勝てば、今夜先にヤっちゃいます。

あなたが勝てば、ぜひ今夜先にヤっちゃって下さい。私はあと挿しで大丈夫です。」


「えっ? えぇっ!? え?…」


「煮え切らない娘ですね。

ちゃんとしようと言ってるのです。

つべこべ言わない。さぁ。じゃーんけん…」


無理矢理じゃんけんに持ち込む私をダクネスがぶんぶんと手を振って止めながら


「待て! ちょっと待ってくれめぐみんっ‼ 心の…心の準備をさせてくれ‼」


と叫ぶ。

私は肩をすくめて


「やれやれ。とんだ根性なしクルセイダーですね。カズマへの愛はそんなものなのですかあなたは。」


「違う‼ 私の愛に偽りはない‼

毎晩毎晩私はそのカズマへ愛の強さに身を焦がす想いで…」


激昂するダクネスの言葉を遮る様に


「独りでしちゃうんですね? やっぱり恥女ネスじゃないですか。ダークネスでエロネスな恥女ネス。」


「よくもめぐみん…。よし。勝負しようめぐみん。お前と私のどちらの愛が本物か。ここではっきりとさせてやろう…。」


「望むところですよエロネス。」


「えっ エロネス言うなーっ‼」



ゴゴゴゴと音がするような空気の中、両手を拡げるダクネスに

両手をを前に軽く握り、ムエタイのハイキックを打つ前みたいな姿勢で迎え撃つ私。


窓を叩く雨と、轟く雷鳴が屋敷を揺らし――…うん。気のせいか。


やがてお互いに間合いを詰めていき

…どちらともなく勝負は火蓋を切られる。


「「じゃーんけーん・ほいっ‼」


勝負は一瞬で決まった。

彼女が床に崩れ落ちる。


彼女は紙。私は研ぎ澄まされた魔女の鋏でそれを粉々に切り裂いてやった。



****************




「いい闘いでしたねダクネス。勝ちは勝ちです。私は今夜彼を襲いに行きますよ良いですね?」


ダクネスは

「完敗だめぐみん。約束だ。お前の好きにしろ。だが、私の愛はお前にだって負けはしない。」


私たちはお互いに見つめあって

やがてどちらともなく堪えきれなくなって笑い始める。


「――――――」



お腹を抱えて

肩を叩きあって

いつまでも いつまでも二人で笑い続けた。



****************



やがて

笑い疲れて落ち着いた頃に

改めて言った。


「ダクネス大丈夫ですか? 辛くないですか? あなたが辛いなら…」


それをダクネスが遮る。


「良いんだめぐみん。 むしろお前が勝負として煽ってくれて助かったよ。礼を言う。ありがとう。」


「ダクネス…。」


「それに本気で私はお前が先でも私が先でも良いんだ。そんな小さなことなんかどうでもいい。

それよりも私が堪えたのは、お前に先を越されることじゃなく、お前とこうして笑って馬鹿やって…お前とこうして姉妹のように成長してきた幼かった時間が終わって、

二人とも大人になっていくんだなと想って、なんだか…寂しくなったんだ。

お前も私もこうやって旅立って行かねばいけないのかなと……。」


そう語るダクネスの瞳は涙でいっぱいで 、本気でそれを寂しそうに想ってくれているようだった。


「…あなたはやっぱり大馬鹿です。

恋敵を単純に愛さないで下さいよ…ほんとにもう…。

……莫迦なんですから…。」


この優しい莫迦正直クルセイダーが愛おしくて 愛おしくてしょうがない。

私はダクネスを抱きしめて


「目を閉じて下さい。

いいと言うまで決して開けないで下さい。

分かりましたか?」


と言うとダクネスは黙って素直に頷くと目を閉じた。


それを待ってから、私は持っていたペンで彼女の頬に……


「なっ!? 何をしてるんだめぐみん!?」


焦るダクネスを制して。


「黙って目を閉じてて下さい。ズレてしまうから……よしっと。まだ目は閉じてて下さいね。」


と言って一旦ダクネスから離れて、

ダクネスが頬を触るのを見て


「私が部屋を出るまで目を閉じてて下さいね。出たら鏡でもなんでも見てくれたら良いですから。

それと、ちょっとだけ上を向いて下さい。」


「こ…こうか?……。」


それにも素直に応じるダクネス。

ほんと可愛い。


「じゃぁ出ますね。夕食はあなたの好きなメニューにしときますから適当に降りてきて下さいね。」


と言ってから

椅子に座ったまま目を閉じて上を向く大好きな莫迦クルセイダーの唇にそっとキスをして

私は部屋をあとにした。



その頬には



[お姉ちゃん大好き‼ ありがとう。]



と残して――。




****************






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る