第14話 実家にて。めぐみんとダクネス



「ただいま帰りました」




重厚な造りの門扉をくぐり、装飾きらびやかな木製の扉を開いた玄関ホールで両親に声をかける。


カズマがお金にものを言わせ、最高の職人と相当数の人員で短期間で造り上げた豪華な屋敷だ。ホールには、たくさんの見慣れない魔道具?みたいなものがところ狭しと陳列されており、どうやらお父さんが作った商品をここで展示販売したり、商談に使っているのだろうと思われる。


まぁ主にウィズにしか売れないだろうが…。


隣に居たダクネスも今は興味津々で、並べられた魔道具?の数々を手にとって見ている。

しばらくもすると、パタパタと奥からお母さんが出て来た。


「あらあらどうしたの?今日はダスティネス様までいらっしゃって。カズマさんとめあねすちゃんは?」

「今夜は一晩二人でお世話になりますよ。カズマとめあねすは置いて来ました」


そう答えると、お母さんは少々眉根を寄せて不思議そうな表情を浮かべ、私たちを居間に通してくれた。



****************



居間にはお父さんがソファでシュワシュワを片手に、何やら見慣れない物体をいじっていた。



「お父さん。ただいま帰りました。今夜はダクネスと二人でお世話になりますよ。」


と声をかけると、立ち上がり、怪訝な顔つきで言った。


「お前。まさかカズマさんに愛想尽かされて追い出されたんじゃないだろうな? まさかめあねすちゃんまで!?」


と言いながら若干青ざめる。


「失礼ですね!? カズマとは相変わらずの相思相愛ぶりですよ!? めあねすもかわりないです!」

「カズマさんのおかげでこんな贅沢三昧させて戴いてるんだ。頼むぞ。粗相のないようにな!」

「どんだけ卑屈なんですかお父さんは!? まったく…カズマみたいにちゃんと売れる商品作ればいいじゃないですか。ちょっとは見習ってちゃんとした仕事して下さいよ…」

「馬鹿を言うな!私はちゃんとした商品を作ってる!世間の見る目がないだけだ!!」


そうそう。ちゃんとウィズにしか売れない商品をね。


「まったく…。まぁとにかくそんな心配しなくても、ちゃんとカズマが頑張ってくれてますから、こちらで面倒みますよ。のんびりガラクタ作ってて下さいね」

「ガラクタ言うな!!」


そんなお父さんを放って、ダクネスを連れて二階の私の部屋にあがる。

一応、いつ帰って来ても良いようにお母さんが用意してくれてる部屋だ。


「とりあえずソファにでも座ってゆっくりしてて下さい。何か飲みますか?遠慮なく言って下さいね。カズマが作ったセラーにたぶんなんでも揃ってますので」


キョロキョロと落ち着かない風に辺りを見渡していたダクネスに、そう声をかける。


「めぐみんと同じでいい」

「わかりました。では私と同じ、今夜はシェリー酒にしましょうか」


そう言うとダクネスは

おだやかに微笑んだ。



****************



それから私たちは

昔、まるで屋敷で夜通し語り合ったあの頃に戻ったように 、たくさんのことを話し合った。


15年の月日の間に離れて歪んだ

お互いの時間と距離を埋める様に。



「──ははは。だから違うって言ったんだ。─―しかし…あれだな。めぐみんはちっとも変わってないんだな。安心したぞ」


さも楽しそうにそう言ってダクネスは微笑んだ。


「変わっていないのはあなたもですよダクネス。市政に宮仕えに大忙しですりきれていたんじゃないかと心配だったのに…安心しました」


音を軽く響かせて、二人で赤茶けたシェリーの入ったグラスを重ねる。

薄明かりに照らされる

ほんのり紅く頬を染め微笑むダクネスは、女の私から見ても本当に美しかった。


「あなたみたいに美しかったら、まわりの男はほっておかないでしょうに……」


ダクネスに見とれて、ため息混じりにそう言うと


「めぐみんほどではない。お前こそ本当に綺麗になった。まぁ昔からどこか儚げな美しさを持った少女だったが…。

カズマと連れ添い、めあねすが生まれた頃からはなんかこう…神々しいまでに美しい。私はお前が目標だったんだぞ」

「目標!?」

「そうだ。目標だ。女として、絶対不変の美しさを持っている。カズマは本当に幸せなやつだ。こんないい伴侶なんて捜して見つかるものではない。私はひとりの女としても親友としても、お前と出逢えたことを…ともに時を寄り添い生きていけることを、誇りに思っている」

「ダクネス……」


言葉にならない……


この私の親友は

本当に真っ直ぐに真摯に心の底から

私を尊敬し愛してくれている…。


涙が止まらなかった。


私は…

私はこんなにも…


嘘つきなのに……。



「ダクネス。私はあなたを愛しています。ともに戦った戦友として、ともに生きていく親友として」


ダクネスに真っ直ぐに向き直してそう言った。

ダクネスは微笑んで


「光栄だ。私もいつまでもお前とともに在ろう」


その言葉に私はひとつ頷き


「私を信じていて下さい。」


とだけ言って、ひとつだけ大きく深呼吸をすると

ゆっくりと上のほうを見据え、力強く叫ぶ。


「エリス!聞いていましたよね? 今すぐ降りてきて姿を現しなさい!」



「エリス!? エリス様だって!?…めぐみん!? お前一体何を……!?」

「ダクネスは黙って見ていて下さい」


私はダクネスの言葉にも目をそらさず、ひときわ紅く燃えた瞳で上のほう一点を見据え、そう言った。


しばらくすると

部屋中に光が溢れだした。


「なっ なんだ!?」


ダクネスがとっさに前に出て私を庇おうとする。

私は


「大丈夫です。ただの女神降臨ですよ。心配要りません」


とダクネスの肩に手を置いて、また光のほうを睨みつけた。





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