第2話 ダスティネス家にて



「……ふぅ」



そうして

今日の1日が始まってからほんの数時間しか経ってない間に数えきれないほどについた嘆息をまたひとつこぼしながら、この美しい碧眼金髪の美女は呟いた。


「まったく…どこに行ったのだあのバカ娘は…?」


両手に、その絶世の容姿にはどこをどう間違っても似つかわしくない練習用の木剣を握りしめ、漆黒に光る美しいフルアーマーを身にまとい、その碧眼美女は叫びながらドスドスと長い廊下を駆けていく。


「めあねす! めあねすっ‼ 何処だーっ!」



****************



昨夜

いつものように屋敷の執務室で、山の様に積み上げられた書類と格闘していたら、突然カズマとめぐみんがめあねすを連れテレポートで現れ、めあねすを頼むと置いてった。


なんでもまた異世界無双アイテムのアイディアが浮かんだから、その材料を取りに、何日かあの最深のダンジョンに夫婦そろって向かうらしい。今度のアイテムもバカ売れ間違いなしだそうだ。


――現在カズマは


魔王討伐の栄誉も名誉もきっぱりすっきりと辞退し、鍛冶屋スキルを利用して、アクセルのあの屋敷でひっそりと魔道具職人をしながら暮らしている。

かなり色々な方面の人間に惜しまれたが、めぐみんはそれには何も言わず、「カズマが生きたい様にすれば良いのです。カズマが行きたいところが私の行く場所ですから。」と。


奇しくも

めぐみんの父親ひょいさぶろーと同じ職に就いた訳だが、父親と違いカズマの作るアイテムはどれもこれも大ヒットし、今では魔王討伐の報償金と合わせて、軽く王国の国家予算を超えている。


今ではまったくクエストもせず、毎日毎日働かず、やりたいように、傍目からみればヒキニートと化しているが、それでも本人たち曰く、毎日を慎ましやかに、精一杯働いて、楽しんで、爆裂して、暮らしているらしい。


私は、魔王討伐の功績から、王家の懐刀の威信を取り戻したダスティネス家の当主として、王室大臣という大役を賜った。

それからはまわりが忙しく動きだし、あっという間に時が経ってしまった。


──あれからもう15年か……。


魔王討伐後

カズマはめぐみんを選んだ。


それに関しては、私も平静ではいられないことも確かに何日もあったが、今となって考えれば、何にも変わらなかった。

私は私の精一杯でカズマを愛していたし、それとは違うベクトルの同じ想いで、めぐみんも愛していることに気づいた。

そしてカズマも、めぐみんも、同じくらいに私を愛してくれていると信じている。

私たちはお互い何度となく、背中を預け、命を預け合い、守り抜いてきた仲間だ。その愛情は何ひとつ変わらない。


そう

何にも変わらない。


そしてここに


私たちの

血より濃いその絆を承けた

青い髪で紅い瞳の天使が居る―。


──アクア……


私は

他教徒の身でありながら

心の中でその誰より優しい女神の名前を呼ぶ。


その大事な宝物を

私たちに授けてくれたこと。


「心から感謝します。アクア」


そう口にして私はまた忙しく、私たちの大切な愛娘を追いかける。

今日は愛娘に、両手剣のマスタークラスである私の剣技を指南する約束なのだから。

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