第20話

落ちているものでも、厳密にはまだ「誰か」の物である可能性がある。

それを断り無く、勝手に拝借するのは罪に当たるらしい。確か・・・

遺失物横領罪といったか・・・ 占有離脱物横領罪といったか・・・

まぁなんでもいいが、落ちてる物は勝手にどうのこうのとしてはいけない

ってのが、この国の法律だ。

そして、人が所有、または拾得した物を勝手に拝借してはいけないってのも

この国のルールにある。「窃盗」は罪だ。




そう・・・犯罪だ・・・

俺はこれから犯罪と知って行う訳だ・・・






法律の支配下でなら・・・俺は立派な犯罪者だ。 







法律の支配下であれば・・・










男達は気ままに何かを話しながら、道に放置されている車を積極的に見ている。

一人は脇に小さなポリタンクのような物を抱えている。 薄く白いポリタンクで

遠くからでも容量が分かる。あれは2L入のタンクだ。三分の一くらいか・・・

中身が入っている。どうやらあいつらの集めているガソリンだろう。


しばらく陰に隠れながら尾行していた。探索も一通り納得したのだろう。

男達は来た道を戻り始める。俺は距離を保ちつつ、物陰に隠れながら

後を付ける。ただ、その間も三人の内の一人は、しきりに周りを気にしている

ようだった。やはり水筒を奪われた事は引っかかっているようだ。

この一人には注意しなくては・・・もし、尾行に気づくとすれば

この男だろう・・・


どうやら寝座が近くだったようだ。男達は地下にある駐車場を降りていく。傾らかな

スロープの突き当たりには半分がひしゃげたシャッター。奥の広い駐車場が微かに

顔をのぞかせる。


ここが・・・俺はシャッターの近くまで来た。随分と広い。覗き込んだ中はかなり暗い

これは何か明かりになるものが必要だろう。男達の一人が、持ち物からライターを

取り出し、火を付ける。カンテラのようだ。どこでそんな物を拾ったんだか

だが、機会があれば、あれは頂いておけば使えそうだな。

中を歩くには明かりが必要だ。だが、俺がそんなことをすれば、一発で

侵入がバレてしまう・・・が、暗がりを利用して中に入れるチャンスでもあるな。


入る事は可能のようだ。俺の居る場所を警戒していない。しかし、迂闊には入れないな。

まず、奴らは何人構成なのか? 確認出来るだけでも三人・・・あまり人数が多いようなら

手を引くべきだ。そして駐車場の構造。まぁマンションの地下駐車場の構成なんて

どこもかしこも似たり寄ったりだろうが、遮蔽物が無い。放置された車が数台でもあれば

隠れ蓑にはなりそうだが。もし無かった場合、隠れて進む事もできないし、なにより

相手は銃持ちだ。盾になる物がないのは怖い。あいつらが何らかの手を加えて

内部をいじっている場合だってある。あまりに危険を感じるようなら

手を引くべきだろう。 だが、奴らの持っている物は気になる。みすみす

逃したくはない・・・・



さて・・・・・・




不安要素はあるが、俺は中に入ることにした。もちろん明かりは使えない。

なので、俺は手をつきながら、まずは柱の裏側に張り付いた。

駐車場の奥、明かりがついている。どうやら駐車場のシステムなどを管理する

モニタールームのような場所を寝座にしているようだ。

そこからほんの少しばかりの明かりが漏れ、駐車場内部を照らしている

なんとなくではあるが、中の様子は分かった。


思った以上には広くないが、男達の居る場所の近くには車が一台。それ以外は

無い。隠れて近づくのは難しいだろう。どうしたものか・・・

少し待つか・・何か動きがあってから行動でもいいだろう。ここは慎重にいきたい。



幾ばくか時間が過ぎた・・・モニタールームの扉が開き、二人が出てきた。

一人は警戒心が強かった男ともう一人、ポリタンクを持っている。

二人は近くの車に歩み寄る。バンタイプの飾り気の無い車だ。

その車の後部、車の給油口に手を伸ばし、持っていたポリタンクの中身を

注いでいる。微かに漂うガソリンの匂い・・・


車にガソリンを注いでいるって事は、あの車・・動かすことが出来るって事か!?

動く車がある。これはいい。これを奪おう。そうすればより広範囲に移動をする

事が可能になる。奪う機会を・・確実に奪うえる瞬間を見極めなくては・・

ガソリンを注ぎ終えた男の一人がこっちの方に歩いてくる。俺はさらに柱の裏に回り込んだ


目の前を通り過ぎて、シャッター外へと歩いていく。何をしたいのか分からないが

一人になった。チャンスだ! ここでこの男を行動不能にしておく!!

武器はない・・・なら、不意打ちだ。後ろから近づき、確実に仕留める。

俺は足音に注意を払いながら、その男の後ろをついてゆく。

男はスロープの外、植え込みがある部分まで来ると、チャックに手をかけた。

チャックを開き、男はまさぐり始める。小便か・・・





不意を突くなら今だッ!!









ガシィッッ!!!







左腕を喉元へ、左手は右腕へまわし、右手は後頭部を押しこむように、そして

渾身の力を込めて自分の胸元へ相手を抱き寄せる。







・・・



・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・グゥ・・










男は小さく唸ると、ぐったりとなり、全身の力が抜ける。足掻かなくなった途端に重さが

のしかかる。俺はすぐに、この男を地面に落とした。


・・・







死んではいない。息はある。意識を失っているだけに過ぎない。俺はこの男の

腰元に据えていた銃を奪い、再びシャッターの中へ足を進める。


連絡はとっていると考えられる。トイレに行く事を仲間は知っているだろう。

トイレに行った人間をどのくらいの時間で「何かあったのか?」と疑うだろうか。

3分・・いや、5分はあるだろうか? 警戒される前にやらなくてはならない。

俺は再びシャッター近くの柱に隠れる。  




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