第19話

この高速道路。車があちらこちらに放置されている。何か役立つものがあるだろうか?

流しながらではあるが、車内を見ながら足を進める。とりあえずこの真っ直ぐに伸びた

高速道路を進もう・・・だが、答えはすぐに示される。


しばらく進むと、突然道路が無くなっている。俺は切れてしまった道の端に立ち、

下を覗き込んだ。どういう状況が起こればこんな事が起こるだろうか。

目の前に見えるのは、横倒しになった高速道路の姿だ。道路を支える根元がポッキリと折れ

横倒しになっている。その光景が先々の方まで伸びているのだ。

いつだったかニュースかネットで見た、震災の後に起こった光景に酷似している。

ここから先を目指すのは無理だな。俺は戻り、インターを降りる事にした。


道しるべとなる看板でも標識でも有ればいいのだが、そういった類のものは

読めないくらい汚れているか、錆び付いて役割を果たしていない。

インターを降りた先も例外なくそんな状況だ。

だが、少しばかり街並みが見える。ここならあるはずだ。まずは水・・・

兎に角、水だ・・・!


街の中は静まり返っている。こんなに明るい中で、物音一つもない街並みは不気味だ。

まぁ何かの音が聞こえたら、それはそれで困る。出会うのはロクでもない連中かゾンビくらいだしな。

俺はビルなどの物陰に隠れながら慎重に足を進めた。しかし本当に物音一つ無い・・・ゾンビの気配も。


ほどなく歩くと、一体、また一体と、死体を見つける。

かなり時間が経っているのだろう。表皮が乾燥しきって、まるで干物のようだ。

鈍器や鋭利な刃物でつけるような外傷は確認できないが、どれも苦悶の表情を浮かべて絶命している。

どの死体も死ぬ直前まで藻掻いたのだろう。地面に爪痕が残る。自分の喉を

引っ掻いたや奴もいる。夢中でひっかいたんだろうな・・手に中に肉の塊がある。

一体何があったんだろう・・・? 気にはなるが俺はさらに足を進めた。

このままじゃ俺がこいつらの二の舞になりそうだ。


大きな交差点。その交差点の中央に何かが少し傾いて突き刺さっている。

遠目からでも確認できるくらいには大きな物だ。興味を引かれる。俺はその交差点

中央に近づいてみた。何で出来ているのかは分からないが、

筒状で先端には無数の空気穴のようなものが開いている

外観からわかるのはそれぐらいか。埃まみれで、外装的な特徴は

確認できない。


・・・どうやら周りの死体の原因は『これ』のようだ。

汚れた部分を手で擦り落とす。大きなハザードシンボル。

俺は周りを見渡した・・・この中央だけじゃない。よく見れば

ビルの壁面、遠くの方に見える看板にも似たようなものが突き刺さっている。

事故・・いや、故意でなけらば考えにくいだろう。こんなものが街中に

突き刺さっているのは・・・おそらくこれは、何らかの化学兵器だ。

先端に空いた穴は、散布の為の排出口だろう。

これは故意にこの場所に落とされた。いや・・『撃ち込まれた』のだろう


これがゾンビを生んだ原因? ・・・いや、比較的新しいもののように感じる。

それに周りの死体。仮にこの死体が普通の人間であったなら、こんなものが降ってきた

時点で遠くの方に逃げるだろう。野次馬根性で近寄ってくる人間がいても、ガスが

吹き出した時点でパニック状態になる。もう少し周りが荒れていていいと思うが・・・

死体はこの近くにも確認出来る。


もしかして・・・ゾンビが初めから居る状況として、何らかの理由でゾンビを殺す為に

ここに撃ち込まれたのだとしたら? それならこんな状態でも不自然ではないだろう。

何にせよ、この街に長いはしない方が良さそうだな。


ザッ・・ザッ・・・


!? 足音がする。一つじゃない。複数の・・・俺は近くにあった植え込みの陰に

身を隠した。足音はだんだんと大きくなっている。近づいてきているのが分かる。

「ん~ここにはないかもな」

「あそこの車。あれしらべよーぜ」

「じゃ俺はここで待っているぜ」

男が会話している。声から推測するに、三人だな。三人はどういう集まりだろうか?

まぁ兎に角三人だ。話せばわかってくれるだろうか? いや、ここは大事をとって

隠れて、こいつらをやり過ごそう。


ごく・・・


植え込み近くに立っていた男が、腰につけた水筒を飲んでいる。そして男は

そのまま植え込みの淵に置いた! なにか声を掛け合っているようで

男が他ふたりの方を向いている。




・・・・




今だッ!! 



俺は淵に置かれた水筒に手を伸ばし、掴んだ! やった!! 水だ!!!!

俺はその水を飲んだ。旨い! あぁ~・・・張り付いていた喉が、ようやく

開放されたような感じだ。水はまだある。よし! このままいただいておくか

「・・・? ・・・・・ない。 ・・・・!? 無くなっている!!」

男が気づいたようだ。男の様子が変わったことに、他の二人も警戒し始めたようだ

彼らは腰に下げていた銃を抜き、構えている。


これは見つかったらヤバそうだな。俺は植え込みの陰を利用しつつ、近くにあった

建物へ逃げ込んだ。その建物二階まで俺は上がり、上から彼らの様子を伺う。

彼らの会話が聞こえる。

「くそッ!! 絶対盗まれた! 探してぶっ殺してやるッ!!」

その言葉に一人が疑問を投げる。

「盗まれたって・・見たのかよ? それにほんとにそこに置いたのか?」

「確かに俺はここに置いた! 間違いじゃねぇ!! 俺たちの他にいるんだ!」

もう一人が割って入る

「まぁいいじゃねぇか。戻れば水くらいはまだあるさ。そんなことより

今はガソリンを集めることが最優先だ。それと・・・居る可能性があるなら

この辺りを探さないとな。戦利品が増える」


何かを探しているようだったが『ガソリン』を探しているのか。

一体なんの為に? まぁそこはいい。俺が気になったのは『水くらい』って

言葉だ。それは他にもありますよって事だよな? 水以外の物も・・・


男達は見当違いな場所を探している。

気がすんだのだろう。男達は構えていた銃をしまい、再び歩き始めた。







さて・・・見失わないようにしないとな。



俺はこの男達を尾行し、その水以外を「盗む」事にした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る