第18話

日が昇り、眼に差し込む光に、眉を顰める。歩きながら朝を迎えていた。

俺は目にした道を歩いている。だが、これが何処につながっているのか、検討すらつかない。

街を目指していたはずだが、今はその方角もわからない。


ほんと・・どうしてこうなったのか


空腹を感じる。喉の渇きも気になる。だが食料と呼べるものは全て奪われてしまった。

空腹を満たせるものは無い。白く目の前に見える息を見ながら、俺はうなだれていた。

空腹に加え、寒さが体に堪える。鼻のてっぺんはすっかり冷えてしまっている。指先も同様、

肌の露出している部分は、冷たく氷のようだ。俺は少しでも寒さを凌ぎたいと思い、指先を

ポケットの中に入れた。


・・・ん? ポケットになにか入っている。


俺は手に当たった物を取り出した。それはチョコバーだ。これは確か・・・

思い出した! 確か山田に出会ったコンビニで拾っていた物だ!

どうやらあいつも俺の体までは調べなかったんだな。俺は早速、チョコバーを食べることにした。


包装の色は茶色。青色の商品名が目を引く。どうやら海外のお菓子のようだ。袋の上からでもわかる

ゴツゴツとしている手触り、棒状だがズングリとした見た目、なによりこの大きさで、

ずっしりとした重量感がある。とりあえず封を切ってみるか。


棒状の全体をチョコレートで覆っている。いい匂いだ。甘くて・・・

俺は一口かじりついた


!?


か・・硬い。チョコバーは意外と固く、力を入れて噛み切らないといけないぐらいの

硬さだ。


ボリボリボリボリ・・・


全体を覆っているのはミルクチョコレート。中はいくつかの層になっている。

まずはピーナッツ。そのピーナッツを練りこんだ柔らかいキャラメル。しかも

このキャラメルはかなり粘り気がある。そして一番下の層にはドライフルーツを

練りこんだソフトキャンディーだ。


なんてパンチの効いたチョコバーなんだ。おいしい。おいしいのだが、この

チョコバー・・・思ったより・・重い。全体的に甘い。いや、

チョコバーというお菓子だから、甘いのは当然なのだが、非常に甘いのだ。

口の中でまとわりつく。そして飲み下すにも、喉でまとわりつく・・・

ちょっと食べるのに時間と水が必要だ。だが、これだけの甘さなら、エネルギーは

相当なものだろう。どっかの軍隊ではチョコバーを簡易的なレーションとして

食べていたって聞いたこともある。しばらくは、これでお腹も満たせるだろう。

だがここで、新たな問題が発生したことに気がついた。





喉が・・・・渇く!!




喉の渇きは深刻だ。大量の酒を飲んだ寝起きの如く、今の俺の喉は「水」を

欲している。だが、水は無い。・・・いや、探せ。探すんだ!

何処かに水くらい落ちてるはずだ!


俺は喉の渇きを感じつつ、足を進めた。坂になった道を登り、まっすぐ突き抜ける道を歩く。

そしてようやく見えてきた。どうやら何かしらの施設のようだ。

多くの駐車場、隅っこの方に小さな建物が見える。それと大量の自動販売機。

どうやらここはパーキングエリアだった所のようだ。


ここも荒れ果てている。出口付近には押し込まれでもしたかのように、車が隙間なく

渋滞している。建物は比較的綺麗ではあるが、薄暗い中には何も無いようだ。

PAには飲食が出来る場所が多い。以前のこの場所も例外なくそうであっただろう。

何かあるだろう。俺は調理場に足を踏み入れる。


中は蛻の空だ。よく見れば、戸棚や冷蔵庫が開けっ放しになっている。

どうやら先客がいたらしい。一応、俺は中を探してみた・・



やはりない・・・

もちろん水も・・・ これだけの場所なのにないのか・・・


困惑していたが、ここでの飲食物の調達を諦めて他へ行くしかないか。

俺は建物を出た。そこで眼に止まった。それは外に大量に並んだ自動販売機

もしかしたら、缶飲料ぐらいは残っているだろうか?

どれも荒らされている。無理やりこじ開けたのだろうか? 一部が破壊されている

よく見るとお金の投入口まで壊してある。金なんているのか? 

まぁそれはどうでもいいが、俺は自販機を探してみた。


どれも駄目だ。中は片っ端から壊され、中を抜き取られている。

はぁ・・・ダメか。


ふと見つめるPAのトイレ。その片隅、そこにも自販機がある。

見れば比較的綺麗で、荒らされた様子はない。そして幸運にも自販機の

鍵が壊されて、半開き状態になっている。俺は自販機を開け中を覗いた。


どうやらいくつかの缶は残っている。おそらく、全てを持って行く事ができなかったのだろう

いくつか残っている。だが自販機のペットボトルの状態は悪い。どれも飲めそうにない

だが缶飲料はいけそうだ。黄色い缶が3個ほど残っている。


どうやらコーヒーのようだ。まぁ今は喉と口の中が甘々な状態。苦いコーヒーは

願ったり叶ったりだ。俺は一つ、缶を手に取る。


このデザインはあまり見たことがない。地方限定品だろうか? 

缶は黄色い色にMAXとデザインされた、簡素なデザインだ。容量は250。

コーヒーで長細い缶はあまり使わないイメージだが。まぁ飲んでみるか。




グビ・・グビ・・・









うん・・・









コーヒー・・・・・・・・









そうだね・・・・・


コーヒーは珈琲豆を焙煎して挽いた粉末を、お湯なんかで抽出した飲み物で

少し苦味があるのが特徴だ。様々な国で愛飲されていて、この国でも親しまれている

そう・・・コーヒーは日常でもよく飲むものだから、味くらいは俺の脳の

奥底に刷り込まれている。


記憶が定かでない俺でも、これだけはわかる。














甘いッッ!!


甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘い!!!!!!




甘すぎるッ!!!!!!


いやちょっとまって、流石に甘すぎるでしょ!! なにこれ!? 口に入れた瞬間

初めに感じる、砂糖を直接口にぶち込んだような甘さ。それだけじゃない、ミルク

臭いというのだろうか。隠し味のつもりで、しっかり隠れていないこの味は

練乳を彷彿とさせる。その双方が甘さと甘さで層となり、口の中、そして喉を舐める

ように通り、腹に来る。飲んだ後も消えない甘さ、口の中、舌はもちろん、喉、食道、胃

全てでへばりつく甘さ! さっきのチョコバーを飲んでるみたいだ!

どこにコーヒーの要素があるんだよ!! カフェインだのコーヒーの成分が一gでも

入ってるからコーヒーと名乗っていますってか!? ふざけんじゃないよッッ!!!


甘い甘い甘いッッッッッ!!!

甘すぎるッッッッッ!!!



流石にこれ以上は飲めない・・・やばい、余計に喉が渇いてきた。


俺は飲みかけのコーヒーと名乗る物を、ここにスッと置いた。






さて・・・とりあえずこの道路をまっすぐ進むか。

喉の渇きを抱えながら、俺は高速道路をまっすぐ進むことにした。



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