第17話
どのくらい寝ていたのだろう? まだ部屋の中は暗い。おそらくそんなに時間は
経っていないはず・・・・。
頭が・・・痛い・・・寒い・・・・
酒を飲んだからか? いや・・・二日酔いとは少し違う気がする。妙に頭が痛い。
それに何処か息苦しい。どういう事だ。手足のしびれ、まぶたが重い。
舌先に感覚が無い。口がうまく開かない。どうしたんだ?
一体、俺の体に何が起こっているんだ?
ガザ・・・ガザ・・・
なんの音だ? 近づいてくる。 俺は必死で目を開けようとするが、うまく開かない
やっとの思いで開いても、視界はぼんやりとしている。何かが近づく
散らばった書類を踏み歩く音。歩く・・・ッ! まずいッ!!
バリケードを突破された!? ゾンビにはいられたのか!
なんとかしないとッ! しかし意識とは裏腹に、体は言う事を聞かない!!
このままじゃ・・・食い殺されるッ!
ゴロンと視界が動く! なんだ? 何かに体を転がされた! はっきりとしない視界に
飛び込んできたのは、かがみ込んだ人間の下半身。そいつは何度か俺の顔の前で、手を
振って見せる。何かを確認しているのか?
バグァアアァァッ!!!
次の瞬間、衝撃が顔に走る! 殴られたのか、それとも蹴られたのか? 分からないが
兎に角、強い衝撃があった。ほどなく、鼻から生暖かいものが流れ、口の中は鉄の味に変わる
そんな俺を目の前の奴は見下ろしている。口元が動いているから、何かを話しかけてきているのか?
それともただの独り言か? わからない。声が聞こえない。声だけじゃない・・周りの音も
遠くなっていっている。 少しの間、俺を見下ろした後、そいつは振り返り、遠ざかっていく。
助かったのか? だが・・・駄目だ・・・もう意識が・・・
かすれていく意識の中で、メガネと無精髭、そして男が何かを手にしているのが見えた。
それは見覚えがある。意識がはっきりとしなくても、これだけは分かる。
それは俺のカバンだ。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぅ・・・
鼻と口周りに激痛が走る中、俺は意識を取り戻した。散らばった書類のうえに横たわる状態で
下の書類は血で真っ赤だ。助かったのか? しかしあれは一体・・・
差し込む風。二階の窓が割られ開いている。どうやらさっきの奴はそこから入って来たようだ。
一体何だったんだ? ともかく、こんな事があった場所に、長居はしていられないか。
俺はカバンを手に・・・手に・・・あれ?
おかしい・・・いつも手元に置いてあったカバンが無い
俺は辺りを見回す。カバンは俺から少し離れた場所にあった。だが、おかしい。
カバンが開いている・・・まさかッ!! 一気に血の気が引いた。 俺は急いで
カバンの中身を見る!
無い・・
無いッ!!
無いぃッッ!!!!
無くなっているッ!! 缶詰も水も、・・・ッ!! 護身用の銃、その弾も無いッ!
懐中電灯と薬・・・それ以外は全て無くなっている!! クソッ!! やられたッ!!
どういう事なんだ・・何なんだよ・・・ッ!!
全て取られたかと思ったが、一つ残されたものがある。
カバンに残された酒の小瓶・・
・・・不自然だ
他の食料や銃が消えたのに、酒だけ残っているなんて。持っていった奴が酒が嫌いって
理由も考えられるが、他に使い道もありそうなのに・・。そう思った瞬間、思い出した。
これをもらった経緯。あのコンビニ・・確か山田とか名乗った男。
薄ぼんやりとした意識で見た、メガネと無精髭が、記憶の男とハッキリ重なる。
間違いない。あの顔はコンビニで出会った山田だ! あの男ッ!! あの男だッ!!
きっと俺の事を尾行していたんだ! そして頃合を見計らって行動を起こした。
でなければ、こんなにも都合よく現れるはずがない!
パチッ・・・パチパチ・・・
ん? 何か匂う。何かが焼けたような匂い。バリケードで塞いでいた扉付近から
煙が立ち込め、黒い煙は瞬く間に部屋の天井に溜まっていく。
これは・・・火事!? 何故火がッ!? いや、今は
考える前に、ここから離れないといけない。俺は周囲を見回した。
窓がある。ここからなら出れそうだ。ほとんど空になったカバンを担ぎ
俺は窓から身を乗り出した。
窓の外、すぐ下はトタン張りの屋根がある。トタン屋根は、なだらかな傾斜が付いていて
滑り落ちないように、慎重に足を進めた。これ以上はいけないか。
俺は屋根から下を見下ろす。無理をすれば飛び降りれなくはないが、怪我の
一つは負いそうだ。何か安全に降りる手立てはないか・・・。
ゆっくり考えたいところだが、火は二階まで来ており、煙は窓からモウモウと上がっている
何か・・・何かないのか・・・!? ん? よく見るとトタン屋根の隅に、梯子らしきものが
ある。普段は使わない非常用の梯子だ。あれなら降りられるか。
俺は梯子を使い降りる・・
ガシャ!!
降りている最中に、梯子が途中から崩れ、そのまま地面に背中をぶつけた。
痛い・・痛いが、どうってことはなさそうだ。俺は辺りを見回した。
そこは工場の裏手の空き地のようだ。助かった・・・
・・・と、思いたかったが、暗がりの中にゾンビの姿が浮かび上がる。
大きな工場の火災に引き寄せられたのだろうか? どこからとゾンビが
囲うように近づいてきている。何をするでもなく、ボーっと火を見つめ突っ立っている
ゾンビは実にシュールだ。理由は分からないが「火に近寄ってくる」習性でも
あるのかもしれない。火に気を取られているなら、駆け抜けるのは簡単だ。
俺は火災とは反対方向に全力で駆け抜けた。途中、何度かゾンビに掴みかかられそうには
なるが、上手く振りはらう事が出来た。
どのくらい走っただろう。朝の日の光が、空をゆっくり明るくしていく。
散々な目に合ったな。カバンの中の物は取られ、銃までも取られた。
山田・・・くそッ! あいつだ。あいつの・・・
ただ、見ず知らずの相手からもらった者を、安易に口にしたのは、俺のミスだ。
もっと疑うべきだった。そぅ・・・なんとなく分かった。この世界じゃ
「易々と人を信用してはいけない」ということが・・・・
俺は鼻と口周りについていた血を、袖口で拭った。
山田・・・・
一つ、この生存競争で目標ができたな・・・
この報復はさせてもらうぞ。
明け始めた朝の日を背に、俺は再び歩き出す・・・
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