第16話

霧深い中を歩くと、水滴が付き、体が濡れる。気温も低い。今日はあまり長く歩き回らない方が

いいだろうか? 俺はこの辺で安全そうな場所を探すことにした。


この辺りで目に付く建物といえば、倉庫のような建物。どうやらこの辺はどこかの

会社の跡地のようだ。看板などは上がっていないが、小さなコンテナがいくつもある。

空いているコンテナを覗くと、小さなプラスチック容器のような物が散乱している。

コンテナ近くの建物は工場だろうか? トラックが搬入口として使っている所が

大きく壊れ、中がむき出しとなっている。


工場内を見てみるか。俺は銃を構えながら、慎重に中を探る。

中には大きなタンク。ベルトコンベア、そして水槽? のようなもの・・・

どういう物を作っていたかは想像できないが、ここは食品加工していた

工場だろう。もしかしたら、なにか食べれる物があるかも・・・


工場倉庫内、残念ながらカラだ。なにかを置いていたであろうパレットは複数あるが

何も載っていない・・・いや、一つ乗っているものがあった。

「ウゥ・・・」

ゾンビだ。寝転がっていたが、俺に気づいて体を起こしてきた。

引き金を引こうと考えたが、ふと頭に「節約」の文字が浮かぶ

構えた銃を肩に掛け、俺は近くにあった壊れた木製パレットの一片を剥ぎ取り、

力いっぱいゾンビの頭めがけて振り下ろす!


ガァッ!!!


体を起こそうとしているゾンビに命中。頭を押さえ悶えている。

俺は間髪入れずさらに殴打を加える。


バキィッ!!


パレット片が砕けた。ゾンビはピクリとも動かなくなっていた。どうやら

うまくいったらしい。俺は手に握った木片を捨てる。

チャリッ・・・

響く金属音・・。ゾンビのポケットから何かが零れ落ちたようだ。

俺は拾い上げる。どうやら鍵のようだ。どこの鍵だろう。

あまり関心はなかったのだが、俺は鍵をポケットに入れ、この場を離れる。


工場内にある階段は二回へと続いている。そこには事務所があるようだ。

俺はそこに向かう。ドアノブを回すも、鍵が掛かっている。

・・・まさかな。俺はさっき拾い上げた鍵を差し込む。

どうやらこの鍵であっているらしい。偶然ってのはあるものだな。

俺は中へと入った。


閑散とした部屋。何かの書類だろうか? あたり一面の床に散らばっている。

転々と置かれたオフィスデスク。飲み残しの紙コップ。部屋の隅にはウォーターサーバー

残念ながら中はカラのようだ。奥にはロッカーが数個置いてあり、開けると

煤けた作業着が何着か掛かっている。どうやらこの部屋なら安全に過ごせそうだな。

俺は鍵を掛け、いつものようバリケードを築く。これならゾンビは入ってこれない。


さて、今晩のメニューは・・・


まずはこの「せきはん飯」からだ。この前の「しいたけ飯」のように、水をたっぷり

加えてから待つ。その間に違う物を開けよう。今回はこの「味付けハンバーグ」だ

ハンバーグ・・・言わずと知れた、夕食にこれが出ると子供が狂喜乱舞する

定番にして、王道を征くオカズの王様だ。

できることなら、俺はこれをフレッシュトマトやレタスなんかと一緒にパンに挟んで

かぶりつきたい! ・・・まぁ今は食えるだけで良しとするか。

さっそく俺は缶を明ける。汁に満たされた肉の塊。上にはグリンピースが

複数乗っている。見た目はイマイチかもしれないが、こういうものに限って

忘れられないような味を記憶に残してくれるのだ! 早速一口・・・


・・・・うん


まぁ・・・・・ね・・・・・


えぇ・・おいしい・・・・かな?


タレのベースは醤油。噛みごたえがあり、肉を頬張っているという弾力は申し分ないが、

それくらいだ。肉のジューシーさに欠け、ややパサついたように感じる。

醤油ベースのタレも味が濃く、喉を通るまでに「くどい」と感じてしまう。

水が欲しくなるな。まぁ酒には合いそうな感じだが・・・


さて、続いては、この「まぐろ味付け」だ。


カパッ! 


まず、目に飛び込んでくるのは、スライスされたマッシュルーム。

その下にマグロの切り身が入っている。では一口・・・


うん・・・おいしい。


なんというか・・・普通だな。いや本当に想像する通りの味付けだ。

これも醤油ベースのタレだが、甘味が強い。ご飯に合いそうだな。


さて、そうこう言う間に、せきはん飯も食べごろとなっているだろう。

俺は赤飯を一口、口に入れる。




いい歯ごたえ・・・・



いや、率直に言うと硬い。どうやら前回の飯とは違い、言うほど待っても

水を吸収していないみたいだ。ただ、歯が立たないなんて事は無い。

十分に食べられる硬さだ。せきはんと一緒に入った小豆はいい感じ。

しばらく口の中で噛めば、そこはやはり赤飯だ。もち米の弾力と甘み。それが

口の中を満たしてくれる。もっちりとした食感。喉を通り、胃に入る時には

ちゃんと「食べた」という感覚を与えてくれる。

それがしっかり400グラム。今日も腹が満たされそうだ。



ふぅ・・・・・


腹いっぱいだ。さて、今回はちょっといいものが手に入っているから、本番は

ここからだな・・・口にしたいなとは思っていたけど、なかなかこんな状況じゃ

手に入らない。でも今日! それが手に入った! 晩酌と行きますか!



俺は以前手に入れた手羽先を取り出し、封を切る。そして、酒の入った小瓶を

右手に取り、・・・ゆっくり、ゆっくり、口の中に注ぐ。





~~~~~~~~~~~~ッッパァアァァァァ・・・・





うまいッ! うますぎるッ!! 舌にくる刺激、鼻に抜ける香り、そして

ガツンと胸にくる熱さ! 酒が体の通る場所で訴えてくるものが違うんだ!

五臓六腑に酒の確かな旨さが染み込んでくる!! 

これだよこれ! これが欲しかった・・・あぁ・・・生きているって

素晴らしい!!そして手羽先、少し濃い目の味が、また酒を欲しくさせる。


どの位飲み進めただろうか? 気分が良くなってきた。当然か。

久しぶりのお酒が手に入ったんだ。こんなに気持ちのいいことなんて

この生存競争の中でなかったんだから・・・

ずっと我慢をしてきたんだ。今日くらいは何も考えずにただ

酒の味に酔いしれたい。明日からまた生き抜く為、足を棒になるまで

使うんだ。今日くらい・・・今日くらいは・・・


そう思いながら、まどろみの中に俺はいる。

疲れもあるだろう、だんだんと眠りに落ちてゆく・・・





ただ・・・・






今にして思えば・・・・・・


















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もっと疑うべきだった。



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