第21話

・・・・・



暗がりを通り、車の傍まできたが、これ以上は近づくのが難しい。向こうに近づける方法は

ないのか・・・



ガタン



モニタールームの扉が開き、二人が出てくる。二人の男は銃を構え、周囲を見ている。

戻ってこない事に警戒し始めたようだ。

まずいな・・・こんなに早く警戒されてしまうとは。

だが、落ち着け・・・考えるんだ。


二人が持つ銃は俺が奪った銃と同じ物に見える。力の有利、不利は無いはずだ。

俺が一人で、相手が二人だって点を除けばだが・・・

この状況をひっくり返して、俺が有利に立つには「奇襲」しかないだろう


そうこうしている間に、男達は俺の方に迫ってきている。このままでは見つかってしまう。

見つかれば奇襲はできない。正面切っての撃ち合いは分が悪い。

何か相手の気を・・・一瞬でいい、せめて一人でも別の方向に意識を向けなくては。

俺は近くにあった小さな石を投げた。


コンッ!


石はふたりの男を越え、ガソリンを注いでいたバンにぶつかる。小さく音が響く。

こんな小さな音でも、警戒している人間にとっては注視の対象になる。

二人の男は同時に振り返り、音のなる方向に銃を構えた。

背中を向けている! 俺との距離もそう遠くない! 今しかないッ!!

奇襲をかけるのは今だッ!!



俺は引き金を引いた! 響く轟音。その一発は、一人の後頭部を打ち抜いた。

この一発を撃った瞬間、不思議な感覚が俺を包んだ。頭を撃ち抜き崩れ落ちる男、

それに気づいて振り返ろうとする男、排出される薬莢・・・



全てが遅く、ゆっくりと・・・



まるで映画とかの演出であるスローモーションのようだった。何もかもが

呼吸すら遅く感じる。引き金を引く手を次の標的に合わせる。この瞬間

俺の中で湧き上がる 「確信」 俺は確実にこの撃ち合いに勝つ。

振り返った男は慌てていた。引き金を引くも、その狙いは定まっていない

あぁ・・当たらないな。俺にはこいつの弾が当たる気がしなかった。

一発、二発と男は撃つも、俺の背後の闇に飲まれていく。

俺は引き金を引いた。一発は胸元、鳩尾よりやや斜め上、

二発目は眉間、その位置よりやや上・・・二発の弾丸は俺が撃ちたい理想的な

位置に着弾する。目の前の男はぐらりとゆらぎ、そして倒れた。


頭を撃ち抜いた男が腰にぶら下げていたカンテラ。そのオイルが零れ、火が移り、

駐車場の暗闇を照らす・・・ほどなく男の服に引火した。

俺はその様子をぼーっと見ていた・・・

何度かゾンビは殺したが、「人」を手に掛けるのはこれが初めてだ。

不思議と実感がわかない。率直な気持ちを述べるなら

「あぁ・・・こんなものなのか」

そんな感じだ・・・ゾンビを殺すのと、そうは変わらない。

なんだか思い切ってみようなんて、覚悟を決めたのが馬鹿みたいだ・・・


さて、それじゃ車の中を拝見しようか。

俺は車のドアに手を掛け、扉を開けた。中は一人で使うには広いくらいだ。

これなら、安全な場所さえ確保できれば、暖も取れるし、ベッド替わりにもなる。

俺は運転席を見る。キーはかかったままだ。当然か、こんな所で盗みに

来る奴なんてそうはいないだろうからな。それより差しっぱなしにして置いて

すぐにエンジンを動かせる状態の方が都合がいい。

後部座席も見ておくか・・・

そこには小さなダンボールとポリタンク。中は水だ。これだけの水、どこで

用立てたんだ? まぁ使えるならなんでもいいか・・・さてダンボールの中身は・・・



ガウゥンッ!!



激しい銃声の瞬間、後部座席のガラスが吹き飛んできた!! 


まずいッ!! まだ仲間がいたのかッ!! 俺はすぐに運転席に飛び移り

エンジンを掛けた。掛かったと同時に、アクセルをめいいっぱい踏み込む!!

車は煙を吹きながら、急発進し、目の前のシャッターめがけて走る!!

俺は咄嗟にひしゃげている方へハンドルをきった。



ドオオオオオォォォォシャアアァァアアッッッ!!!!



シャッターをくぐり抜けると同時にフロントガラスにひびが入る!! だが

くぐり抜ける事ができた。これなら・・・


その時だった。目の前に意識を取り戻した男の姿が・・・




グュグウシュウウッ・・・・!!!




鈍い感覚が尻下から伝わってくる! 間違いなく挟まれて引きずる感覚。

初めてでも分かる、気持ち悪い感覚! だが、後ろには銃を持った男がいる。ここで

アクセルを緩める訳にはいかないッ!!


俺は踏み込んだままスロープを駆け抜けた。正面道路に出る時、車体が一度、二度と

跳ね上がった!! ・・・・・・・どうなったかは考えない方がいいだろう。

俺はそのまま走り抜けた・・・



しばらく車でのドライブ・・・辺は何も無い。あるのは空の廃墟と無造作に転がった

死体だけだ。とりあえず、この街一帯を抜けよう。そう考えていた。

ふと・・気づいた。手が震えている。今更になって自分がした行いに恐怖している?

それとも、これは銃撃を受けてビビってる・・・どっちだろうか?








まぁ・・・いいや どっちだって・・・・









少し車を止め、緑の瓶の薬を取り出す。三粒程水で喉に流し、再び俺は車を走らせた。

さて・・・何処か落ち着ける場所はあるだろうか・・・




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