第13話

ドン! ・・ドン! ドンッ!!


激しい音で目が覚める! ドアに突っ返させていた机が、今にも俺の方へ

飛んできそうだ! 咄嗟の事で状況が分からないが、何者かがこの部屋に侵入しようと

している! まぁこの状況なら、ゾンビでまず間違いはないだろうが。

兎に角、何らかの対処をしなければならない!


俺には銃がある。寝ぼけ眼で弾が装填されているかの確認する。

よし!弾は入っているな。

もし相手が一匹なら、対処は容易だ。このドア越しからでも、銃を構え、引き金を引く

それだけで解決できる。だが複数だった場合、逃げる方が得策だ。何せ弾も四発しかない。

だが、唯一の逃げ道である部屋入口が塞がれている。


そうこう考えている間にも、ドアを叩く音は激しくなっていく。もう扉が破れてしまいそうだ

こういった行動の結果次第で、窮地になるような状況は嫌いなんだが、もう考えている暇は無い!

俺は銃を構え、激しく揺れるドアめがけ、引き金を引いた!


ドズゥンッ!


手応えというのだろうか。 確かに「当たった」という感覚があった。ドサッと大きな物が

倒れるような音がした途端、ドアを叩く音は無くなり、静寂が戻る。どうやら感覚は

間違ってはいなかったようだ。深いため息と共に、俺は銃を下ろした。

ドアに空いた拳台ほどの大きさの穴。この穴から廊下の様子が見れそうだな。

体位を横にしつつ、片目をつぶり、覗き込んだ。飛び散った血液が点々と視界に入る。


その瞬間、視界が暗転する。何が起きたんだ? 次の瞬間、覗く俺の瞳を覗く瞳・・・


驚きのあまり、俺は腰が抜けて、尻を地面に打ち付ける!

今にも目玉がこちらに入ってこようとするくらい、空いたドアの穴に顔を押し付ける

謎の人物。


なんだ!? こいつは・・


男か女かは分からないが、異常なのは分かる。背筋に、額に汗がにじむ。こいつは

やばいッ! 直感で分かる! 危機を感じ、再び銃を構え、引き金を引いた。


ドゥンッ!!!


散弾がドアをぶち破り、破片が飛び散り、粉塵が宙に舞う。

・・・手応えがない。当たらなかった! 俺はすぐに銃に弾を込める。

込めている最中に、俺は視線を感じ、その方を観る。

より大きく空いたドアの穴。そこからこちらを覗く不気味な顔。

一見スキンヘッドに見えるが、無数のシワ、そして幾つもの溝、縫い合わせた後、

異様なそれは、紬合わせた何らかの生き物の皮のように見える。

そしてそれを目出し帽のように被っていのだ!

その顔に睨まれ、思わず固まった。早く次の弾を込めなくてはならないと、頭では

分かっていても、指が動かない! しばらく目と目があった状態になる・・。

覗き込む目玉は、キョロキョロと動き、部屋を舐めるように観た後、視線は

一点に止まる


「ねェ・・・? うマい? ネぇ?」


うすら笑いを浮かべながら、低く野太い声で、俺にそう問いかけてきた。

やばいッ! 絶対にやばいッ! 動け! 俺の体ッ!!

弾を込め、引き金に指をかけた・・・瞬間、男の顔が引っ込んだ。

構えた体制のまま、俺は動けずにいた。だがまもなく、トントントンっと

軽い音が聞こえた。足音だ。次第に音は遠く離れてゆく・・

落ち着け・・落ち着くんだ。慌てるな。絶対に慌てるな。

深呼吸をして息を整え、自分を落ち着かせる・・・こんな時こそ

冷静でなくてはならないんだ。


ドアノブに手を掛け、隙間から廊下を伺う。

大量の血痕。昨日にはなかったものだ。今しがた付いたばかり。壁に飛び散って

へばりついた肉片と血は、壁を擦るように垂れる。発砲した散弾は間違いなく

当たったはずだ。だが、どういう訳か、死体がない。この血液量だぞ?

どう考えたって、まともに当たっている。仮に死んでいないとしても

重症だ。おいそれと体を動かせる訳が無い。どういうことだ?

さっきの不気味顔の男に当たった訳じゃないのか? 何か別の・・・



俺は廊下でしばらく立ち尽くしていた。考えても分からない答えを思案しながら



泥濘んだ道、歩けば泥が靴やズボンに跳ね、一歩一歩が重くなる。

あれは一体なんだったのか? それにあの言葉。

うまい? 何を指しての言葉なのか?

そういえば覗き込んできた時、妙に部屋の中を覗き込んでいたな。

視線が一瞬、何かに止まったように見えた。だが部屋には何もなかったはずだ。

あったものは拾ってきたドアの支え用の机と毛布。それから・・・



・・・・・缶詰か・・・



あの部屋でうまいという言葉とくくりつけられる物なんて、それくらいしかない。

食べ終わった空の缶詰。それに目が向いての言葉。まぁ、うまかったが・・・

考えても仕方がないか。こんな状況だ。あんな変わり種もいるってくらいには

頭の片隅にでもとどめておくか。真っ当でない者。

出来れば二度と出会いたくは無いが、まだこの近辺をうろついているかもしれない。

十分に警戒していかないとな。


自然と歩くペースが早くなる。




銃を胸元に抱えながら、目玉をしきりに動かす俺の姿は、他人が見たらどう思うだろう?

さっきの不気味顔の男と変わらないかもしれない





そんな不審人物のような行動を取りながら、俺は街を目指す。




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