第12話

湯煎・・・だと・・・


湯煎にかけれるほどの水もなければ、道具もない。しかし腹は減っている。

そんな調理をしなくても食べられるんじゃないか? 

俺は、しいたけ飯の缶詰を開けた。開けて理解した。これは調理無しには食べられそうにない。


いや、この考え方は正確ではない。無理をして口に運べばいけるかもしれないが、

すごく硬い。見た目も服の袖口について、長い間 気がつかなかった状態のように

なっている。そんな状態の米を口に運ぶのは、何分勇気がいるが・・・


俺は思い切って口の中に小さな欠片を押し込んだ。




うん





硬い






口の中が痛い・・・食べれなくはないんだ・・食べれなくは・・・

ただ、どうしてもこの硬さが気になってしまう。慎重に噛まないと、

歯の間に挟まって歯茎にダメージを与えてしまう。出血するかも。

俺は口に残った米を慎重に転がしながら噛んだ。

味はいい・・・もちろん炊きたての米には勝てないが、それでも十分な

ものだ。もう一口を口に入れる。だが、一口目で顎が疲れている。

口に入ったものの、どうするか。俺は口の中で、米の塊を遊ばせる


ん?


待てよ・・・米が唾液を吸ったのか、噛んだ時、ほんの少し柔らかく感じた。

吸う・・・米・・・待てよ? もしかして・・・

俺はペットボトルの水を、しいたけ飯の缶詰に注いだ。こうして水をある程度

入れておけば、乾燥した米が吸水し、安心して食べられる硬さになっているかもしれない。

さて、ただ待つのもいいが、ここは手に入れた米以外の缶詰も食べることにしよう。


まずはこの缶詰。漬物の中でも王道を征く、たくあん漬けだ。

俺は缶を開ける。缶の中にビッシリ敷き詰められた黄色いたくあん。つけ汁はたくあんが

浸るまで入っている。切り方は大胆で、大きめに切られ、食べごたえのある一口サイズ。

いい匂いだ。早速、一切れを口の中へ入れる。

一切れに厚みがあり、噛みごたえは十分。ひと噛みごとに濃縮された大根の味と

甘み。ちょっとピリッっとした唐辛子のアクセントが効いている。なにより

しっかりと「食べた」と胃に感じる。これは米が欲しくなるな。

缶底に敷かれた昆布も美味しい。




そういえば漬物とみて、ふと思い出した話がある

なんでも店で出される漬物などの箸休めは、必ず「二切れ」で出されていたらしい。

それは江戸の時代、武士が縁起にこだわっていたからだとか。


一切れ=人斬れ

三切れ=身切れ

四切れ=死着れ


のような事で、語呂が悪い、ひいては縁起が悪いからだとか。じゃあ5切れでいいじゃん

ってそれは箸休めとして、客に出すには多いから無理だとか。てなわけで縁起とも語呂とも

引っかからなかった「二切れ」が店で採用された。


人斬れ、三切れ、死着れ・・・


今の俺には、どれも縁がありそうで嫌だな。




さて次はウインナーソーセージと書いてある缶詰だ。

まず缶を開けて驚くのは入り方だ。縦に入って、缶に敷き詰められている状態なのだ。

こういった入れ方はあまり見ないな。俺は一本引き抜く。側面は茶色い

中は完全なスリ身状態だ。臭いは燻製の匂いがしている。割と強めに匂う。

早速一口、俺は口の中で噛み始めた。

噛めば燻製のいい匂いが、すぐに鼻へ抜ける。噛みごたえもいい。

皮のあるタイプではないのだが、噛めばプリッとした食感を残す。

舌触りはなめらかだ。このソーセージは何の肉なんだろう?

肉らしい肉といった感じではない。なんというか・・・

この感じは魚のすり身みたいだ。なんにせよコレも美味しい

が、ちょっとしょっぱいかな。これは主食の米やパンと一緒に食べるべきだな。


そうこうしている内に、俺は米がどうなっているか確認した。


ほ~ えぇやん


少なくとも初めに開けた状態よりは、改善されたように見える。

俺は恐る恐る一口入れる。さっきとは明らかに違う。噛めばちゃんとお米としての

モチモチの食感を得ている。しいたけもほどよく柔らかい。油揚げも

この米と椎茸を引き立たている。味付けは決して主張しない醤油味。

だがこの缶、結構なボリュームなので、このくらいがちょうどいい

これなら他のたくあん、ウインナーソーセージとも相性がいいぞ


ふぅ・・ 食べ終わった。


特筆すべきものではないが、ちゃんとした「夕食」を味わった気がした。

主食があって、オカズがあって・・・満足のいく食事だったな。


雨はさらに激しさを増している。時折、閃光が窓から差し込み、眼を細める

明日は止んでくれるだろうか? 雨の中歩き回れば、体温が奪われ、体力が落ちる

疲れも倍ぐらい違うだろうから、止んでいてほしいな。

俺は寝る準備をする為、一階や二階を見て回り、大きめのがれきを集めた。

こういった都合のいいものは意外とどこにでもあるものだな。

ちょっと大きめのテーブル。それから厚手の毛布。


何もない部屋。俺は内側からテーブルを立てかけ、突っかえさせる。

埃っぽい毛布にくるまり、静かに眼を閉じた。

意識せずとも聞こえてくる雨の音が響き、雷が空気を揺らす。








・・・・






あ! あそこにあった枕も取ってこれば良かったかな・・・




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