第10話

粗末なバリケードの中で目を覚ます。どうやら寝ている間に襲われはしなかったらしい

いっそ、寝ている合間に首でも掻っ切ってくれれば楽なんだが。

そうは思っても、目の覚めた現実に安心しているのも事実。

俺は家の裏手、近くの草むらで用を済ませ、一人歩き始めた。


別段変わらない風景。

どこを観ても、朽ちた建物、手入れのなされていない道路が続く

この方向で街には着くはずだが、一向に建物が見当たらない。

不安に駆られながら俺は、前に前にと足を進める。随分と歩いたと思うが・・・


流石に少し疲れてきた。何時間くらい歩いたのか分からない。

だが、太陽はまだ頭上にあり、俺を照らしている。昼ぐらいかな・・・

電柱が等間隔で並び、ぽつんと置いてあるバスの停留所。ベンチが置いてある

俺はバックからペットボトルに入った水を取り出す。

もうこの一本しかない。大切に飲まないと。一口水を含み、俺は飲み込んだ。

大きく出るため息。日中でも、少し肌寒く感じるな・・・

バス停から見る道は、どこまでも続いているように見える。


ん・・?


等間隔に並ぶ電柱、少し離れた電柱があるが、そこに何かがぶら下がっている。

大きな布が覆いかぶさるように、てっぺんから引っかかっているのが分かる。

まさか・・俺は駆け寄った


落下傘だ。深い緑の落下傘。その傘部分がてっぺんに引っかかっていたのだ。

先端には何かがくくりつけられている。この高さなら、少し登れば手が届きそうだ。

俺は登り、手に取る。大きめの袋だ。かなり厳重にくくってあるな

時間がかかったが、俺はその場で袋を開けた。

袋の中には赤い小さなバッグ。中には傷薬や綺麗な包帯などが入っている!

簡易的にではあるが、手当を行える物がそこには入っていた。

これで少しの傷なら大丈夫だろうか? 俺は赤いバックの取っ手を腰の部分に引っ掛ける

そしてもう一つ。思わぬ収穫だ。


 それは缶切り、そして缶詰だ!


すごくシンプルな外装だが、間違いなくそれは缶詰とわかるものだ。

缶が膨らんだりしていないので、中身は傷んだりはしていないだろう。

しかしシンプルすぎる。缶の側面に「しいたけ飯」としか

書かれていない。他にも小さな缶詰が数個あるが、

どれも「ウインナーソーセージ」や「たくあん漬け」などの表記だ。

まぁ、中身が分かればなんでもいい話だ。俺は残りの缶詰をそそくさとバックに

詰め込み、この場所を後にした。


俺は再び歩きながら考えていた。先ほどの落下傘だ。傘が傷ついてはいたものの

比較的新しく感じた。明確には分からないが、ここ数ヶ月中にあの場所に

落とされた可能性が高い。あんな場所に落下傘での物資投下は、航空機でなければ無理なはず。

航空支援を行い、そして中身は簡易医療キットや食料・・・生存者の為の物資援助?

それとも、この場所で活動する同じ部隊のため?

もしそういった部隊がいるならば、その活動はなんだろう?

あの街中で徘徊するゾンビの駆逐かな? それとも救助活動か・・

ってことは「救助」の可能性は少なからずあるんじゃないか?


しかし疑問が残る。状況がわかっているなら、

ヘリでもなんでも寄越してやればいい。拡声器なんかで

「生存者はいないか」そう言って

大声で飛び回れば済むはずだ。街にはまだ生存者が居るかもしれないのに・・

考えても分からないが、とにかく「救助」の可能性はある。生き延びれば

助かる・・・そう考えると、ここ数日の疲れも、少し軽くなったように思えた。


鬱蒼と生い茂る木々の隙間、遠くの方に薄らと街の影が見え始める。

もぅだいぶ日が傾いている。急がないと・・


バラバラバラバラバラ・・・


聞きなれない風切り音が、ゆっくりと近づいてくる。この音は・・・間違いない!

ヘリだ! 俺は木々を抜け、近くにある開けた場所で両腕を振った!


「お~~~~~いッ!! ここだ~~~~~~~~~~~ッ!!!」


叫んだ。必死に・・・跳ねながら、体を大きく見せるように両腕を広げた。

そうだ! 暗くて気づかれないかもしれないと思い、俺は懐中電灯を点け、

空に向かって振り回した。大声で「ここだッ!」と叫びながら


近づいてくる! ずんぐりとした本体にプロペラが前後ふたつ付いた大きなヘリだ!

俺の正面にまっすぐ向かってくる! ハッキリと視認できる距離まで来た!

助かるんだ! 思わず笑がこぼれた。これで怯えなくて済む!

平穏な毎日がやってくる。ここともおさらばだ!

あぁ・・・助かった・・・


ヘリは俺の頭上を通過し、そのまま後方に飛んでいく・・・





は?





嘘だろ・・・・嘘だろッ!! 待てよ! 待ってくれッ!!


俺はヘリが通過した方へ、必死に走った。その間も手には懐中電灯を

持ち、必死に振り回しながら。だがそのヘリが止まることはなかった。

プロペラの風を切る音が辺りに虚しく響き渡る・・・




「ふざけるなあぁぁぁぁッッ!!」




大声で叫んだ。ゾンビが居るかもしれないこんな状況で。

そんな声も、ただ虚しく響く。体の力が抜け、その場に膝を崩す。

見えてたはずだ。分かったはずだ。俺は見捨てられたのか・・・?

いや、きっとタイミングが悪くて、それで通り過ぎてしまったんだ

待っていれば引き返してくるかもしれない

前向きな考えと、後ろ向きな考えが頭の中でぶつかる。


遠く見えなくなるまでヘリを見つめた後

歯を食いしばり、しばらく俯いた。



「・・・・なんだこれ・・・・」



大粒の涙が頬を流れている・・・


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