第8話

キッチンペーパーに水を少しかけ、鍋の底を拭く。気持ち程度かもしれないが

綺麗にはなっているだろう。

見つけたパスタを早く食べたい。気持ちが逸る。

俺はキッチンにあるコンロのつまみをひねった。


・・・・


まぁ当然か。インフラは死んでいるんだ。着火用の口の長いライターはある

何か火種でも有れば。俺はテラスに目を向ける。そこにあるのは椅子とテーブル

これを潰して、薪にできないだろうか? 俺は自分の力でも解体出来そうな

椅子を探した。

腐食は、どの椅子も大なり小なりしてはいるが、特に侵食の強いものを選んだ。

継ぎ目がグラグラしていて、今にも朽ちてしまいそうだ。これにしよう。


バキッ! カッ・・・カッ・・バキャァアン!!


椅子を両手で持ち、何度か地面に打ち付けると、椅子の脚が外れる。

俺は解体した椅子をテラスの前の地面に置いた。

後は鍋を火の上に置けるように、焚き火の四隅を作るだけだ

俺はキッチンに戻ってその部品を用立てる。

錆びた空き缶・・・これならいいか。俺は四つほど抱えて缶詰を四隅に突き刺した。

歪いびつではあるが小さな火床の完成だ。後は火を入れるだけだ。

ライターの火を何度か薪に押し付ける。


・・・・・パチッ・・・・・パチッ!


ほんの少し火が写った。これならもう少し待っていれば、広がってくれるだろう

俺は火を絶やさないように薪を作るべく、残りの椅子を壊した。

額に汗がにじむ。そういえば、風呂に入っていないな。・・・入りたい。

せめて手持ちの水がもう少しあれば、湯を沸かして体を拭けるのにな。


薪はなんとか出来上がった。焚き火の側に、作った薪を無造作に置いた。

さて、調理の準備だな。俺はさっき拭いた鍋に、手持ちの水を入れ

焚き火の上に置いた。ほどなくして、ふつふつと泡か立ち始める。

俺はパスタの袋を開けた。


さて


パスタを湯がく時に、塩を入れる派&塩を入れない派なんて記事を観た事がある

なんでも専門家がTVか何かで

「茹でる際に塩を入れても入れなくてもパスタの味、食感は変わりません」

なんて発言したことが発端らしい。


下味を付ける為、茹でるお湯の沸点を上げる為、

食べた時に腰が違う、レシピに書いてあるから・・・etc.


様々な意見が飛び交っていた。そんな中で、俺が一番信ぴょう性があるかなと

思ったものが「浸透圧」という説だ。なんでも

茹でたパスタにソースを掛ける。ソースの塩分濃度とパスタの塩分濃度が

違うので、浸透圧のバランスを取る為に、パスタに含まれていた水分が流れ出し

ソースの味を薄めてしまう。パスタがモチモチの食感を保てないうえ、ソースが

薄まる最悪の展開になる。なので、それを防ぐ為に塩を入れる

・・・ということらしい。まぁ、ホントかウソか・・・


俺はパスタを適量手に取り、真ん中から折る。こうしないと、この鍋には入らないからだ。

次にあらかじめ開けておいた缶詰。この缶詰は直接食べるか迷ったが、

幸運にもパスタが手に入った。相性はいいはずだ。

それはカットトマトだ。カットトマトの缶詰。


俺はパスタが茹で上がったのを観て、そのままトマトをいれた。

ゆで汁は捨てないのかって? 貴重な水分だからそれはできない。しょうがないね。

再度、温度が上がるまで、しばらくフォークでかき混ぜながら待つ。





いい塩梅か?




俺は鍋を焚き火から外し、近くのテーブルに置いた。

出来上がった料理を、フォークで一口。
























んほほほほほほほほほほほほほほほほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!



おへえええええぇぇぇッ!!!!!!



しゅごいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!

このりょうりしゅごいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!




おくちでとろけるのほほほほほほほほほほほほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



























・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



























・・・まぁ、そうはならねぇよな。漫画じゃあるまいし・・・

いや、味自体は悪くは・・・ない。すごく薄いが。

元々カットトマトはシロップにつけ込まれていて

トマトの甘みと、シロップの味がついているが

正直、その味だけになってしまっていると言うべきか。

パスタは茹で時間の問題もあっただろうし、ゆで汁もそのまま使っているので

ブヨブヨと歯ごたえの無い物になっている。

せめて塩が有れば、こんな締まらない味にはならないだろうに・・・。

こんな状況でなかったら、間違いなく食べない。そんな料理に仕上がってしまった。

だが、贅沢を言える状況じゃない。文句はあるが、俺はこの料理を平らげた。

鍋底の汁も一滴と残すことなく。


「ぷは~・・・・」


味に不満はあっても、やはり満腹感にはかなわないものだ。

ようやくぶりに、俺は腹が満たされることになった。

椅子に寄りかかり空を見上げる。空はすっかり暗くなっている


よく見れば星が出ているのに気づく。こんな時に観ても綺麗だな・・・

食事も済ませた俺は、店内に置いていたバックを手にする。





ガサッ・・・ ガサッ・・・





物音が聞こえる。これは・・・足音ッ!!

俺はカウンターに身を隠し、そっと音がする方を覗き込んだ。

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