第6話

缶詰と偏にいっても、種類は豊富だ。

鯖、秋刀魚、鮭といったオーソドックスな缶詰

焼き鳥、貝のような酒の肴にぴったりなもの

鰈の中骨、ハンバーガーの缶詰なんていった

風変わりなものまで、多種多様だ。


鞄の中に手を入れ、一つ目の缶詰を取り出しす。鯖の水煮だ。

塩茹でし、加工したシンプルな缶詰。ご飯のお供に、料理の材料にと

その万能感にお世話になった人も多いのではないだろうか。

今回はお供でも材料でもなく、こいつ単品でいただきますけどね。


俺は缶の表面に、錆や小さな穴が空いていないかを確認する。

缶詰は熱殺菌していて、非常に保存期間が長い。だが、一度空気に

触れてしまえば、普通の食品と意味は変わらない。腐敗してしまう。


どうやら錆や穴はない。これなら開けて食べられそうだ。


・・・


これ・・単体開封可能缶じゃない。缶切りが必要だ。

鞄に手を突っ込んでみる。


が、それらしい物が見当たらない。よく見れば、他の缶も缶切りが必要のようだ。

もしかしたら、さっきの男は、缶切りを探していたのかもしれないな。

しかし困ったな・・缶切りがなければ、食べられない。

都合よく探して見つかるようなものでも無いだろうし・・・


大体、缶詰が発明された随分後に、缶切りが出来たのもおかしな話だ。

それまでは、缶の中身を取り出すために、缶を壁にぶつけて破壊したり、

銃で撃っていたらしい。密閉する方法と同時に、取り出す方法も考えようよ。


と、愚痴ってもしかたがない。中身を取り出す方法を考えるんだ。



缶詰の蓋は確か、蓋をした際に缶と蓋の淵を巻き込み、圧着させる

二重巻締って加工方法だったはず。缶の淵、出っ張っている部分を

どうにか出来れば、開けられるはずだ。



・・・・・・・




シャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコシャコ・・・




俺は缶をひっくり返し、蓋の部分を地面に置き、上から手を乗せ

円を描くように擦り合わせた。


しばらくして、地面に中の液体が染み出す。

圧着していた部分が摩擦で磨り減り、蓋部分がゆるくなっている。

後は蓋部分を側面から押して・・・・


カパァッ


軽い音と共に、蓋が少し浮き上がった。

指を空いた隙間に引っ掛けて、缶は開いた。

ようやくぶりの食事だ。缶詰を食べるのに、これほど胸が踊るものなのか!

子供が大好物を前に、はしゃぐ感覚が今ならわかる!

空腹は最高のスパイスであるとは良く言ったものだ。


鯖の水煮。鯖の切り身が四等分され、骨ごと入っている

ちなみに缶詰に加工された骨は食べられる。これは加工段階で、

骨を形成しているリン酸カルシュウムとコラーゲンが熱で分離するかららしい。

まぁ理由はともかく、缶詰に加工された中身は、まるごと美味しく

頂けるって訳だ。


箸やフォークといった洒落たものは無いので、俺は指で一切れつまんで、

口の中にいれた。



鯖の身は柔らかく、ほんの少しの弾力があるものの、口の中ですぐに崩れる

ほのかに効いた塩味は、鯖の身の甘味を後押ししている。

鯖の腹部分の脂肪が乗っている部分は、特に甘味だ!

そして口の中で砕ける骨は、噛んだ時のいいアクセントになっている!


一緒に加工された


小さな背びれも


皮も


骨も


どこも無駄になっていない!!


美味しいッ! 本当に美味しいッ!!!



気が付くと、俺は鯖缶一つを食べきってしまっていた。

だが満腹には至らない。満足もできていない。

本当なら、後々の為に他の缶詰は残しておくべきだが、

掻き立てられた食欲は止まらない。


もう一つ、今度も同じ鯖缶なのだが、今度のは味噌煮だ

同じ方法で缶を開け、蓋を空ける

開けてすぐに分かる味噌の匂い。一口に俺は頬張った


柔く、舌の上で砕ける鯖の身の隙間を這うように伝う味噌の味。

その流れを崩すこと無く、匂いが鼻を抜ける!



噛む! 風味! 香り!



噛むッ!! 風味ッ!! 香りッ!!



って感じで!!!



完璧な三つの流れだ。あぁ・・・堪らないぜッ!!



ふぅ~・・・

満腹とはいかない。だけど食事にありつけた事。この事は大きい。

俺はペットボトルの水を飲み干した。


そういえばこれ・・・半分近く減ってたよな。

減ってるって事は、飲んでるってことだよな

あのおっさんの飲みかけを

今、俺は飲んで・・・






・・・いや、考えるのはやめよう


この状況だ。食えるものなら、何だっていいじゃないか。

俺はフードを被り、横になる。

早く寝て、明日は早くから探索をしよう。食料もこれで満足にあるとは言い難い。

目を閉じ、少しづつ意識が薄らいでゆく。そんな中で思う。

これからの事。前向きには考えているつもりだが、やはり不安は拭えない

ここはどこなのか? 見知らぬ土地。見知らぬ街・・・

何故ゾンビが居るのか? 俺もいずれ同じ様になるのか・・・

どこに行けばいいのか? 宛などない・・・

何をすればいいのか? こんな状況で何ができるのか・・・

そもそも自分は何者なのか? 手がかりと言えるものは

この焦げた顔写真の入ったカードだけ・・・







眠りにつく時、答えのでない疑問が頭を回る。


それでもとりあえずの目標は「明日も生き延びる」


これだけだ・・・


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