第5話

足音が迫ってきている。一歩、一歩・・ゆっくりと・・確実に。


袋小路を前に、成す術がなかった。

どう考えたって無理だ。切り抜けようがない!

袋小路となった場所にはゴミが、積まれている。

そこに埋もれていた消化器を引き抜き、両手に抱えた。

別に何か考えがあったわけじゃない。咄嗟に引張ただけだ

通路側、壁を背に、ゆっくりと覗き込む。


ガウゥンッ!!!


覗き込んだ顔より少し上の壁が砕け、その破片が顔に降りかかる!

だめだ・・・視線はこっちに合わせている。どうする・・・?

視線・・・目を・・・一瞬でも目を眩ませる事ができれば!

手に持った消化器。いけるだろうか? 俺はピンに指を掛け・・・られない!?

ピンは既に抜けている。だが、まだだ! もしかしたら中身は使われて

いないかもしれない! このレバーを握れば消火剤を噴出し、一瞬の隙を

作れるかもしれない。考える暇はない! 迷う暇はないッ!! 俺はホース部分構え、

身を乗り出すと同時に、レバーを力いっぱい握った!!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




そんな気はしていた。そんな都合よくないよな



甘くないよな。



男が銃を構え、指が引き金に掛かるのが見えた。







・・・・・終わった













「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~ッッ!!!!!」



叫び声が路上に響く! 男の首元には一匹の男のゾンビが噛み付いている

男は銃を地面に落とし、噛み付かれた首元から、ゾンビを引き剥がそうとしている。

だが、男のゾンビの方が力が強いのだろう・・・もみ合いになっている。

じわじわと首元から服が紅く染まり、男がよろめくと、なだれ込むように

近くにあった建物内に転がる。

男の悲鳴は尚も続いた。俺は男とゾンビが入っていった建物を覗く


少し異様な行動のように感じた。

ゾンビは男に馬乗りになって、拳を振り上げ、男の顔面を激しく

殴打している。何度も振り上げられる拳。男も手を突き出し、抵抗していたが

ほどなく、男の手が力なく落ちる。

ピクリとも動かない男。そうしてようやく、ゾンビは男を殴打する事をやめた。

しばらく馬乗りになりながら、ゾンビは男を観ているようだった。

見えているのかは疑問だが、とにかくゾンビは男の顔に視線を送っている。

抵抗がない事に納得したのか、ゾンビは首元の顔を近づけていく。


ブチブチと肉の引き裂ける音が聞こえる・・。


どういう事だろうか? 一心不乱に噛み付くって感じじゃなかった。

抵抗された事を嫌がったのか? だからまず、殴って大人しくさせた?

ゾンビが嫌がるってのは考えづらいが、とにかくそんな行動に見えた。

ゾンビが効率のいい方法を思考する・・・まさかな・・


俺は地面に落ちた銃を拾う。弾はまだ一発はいっている。

今すぐここを離れたいが、あるものが手に入るかもしれない

今、目の前で、必死に男を貪っているゾンビの後頭部に

銃口を向ける。


ドゥンッ!!


鼻より上の部分が、綺麗に目の前に散らばる。

ゾンビは跳ね上がる様に目の前に崩れ落ちた・・・

流石に頭が無くなったら動くのは無理だろう。

俺は男の死体をひっくり返す。


「悪いな。もらってくよ」


死んでいる男に一言、声を掛け、俺は男の背負っていたバックを引き剥がした。

肩掛けのリュック。ワンショルダーバックだ。色はブラウン。

容量はそんなに入りそうにないが、これでポケットの中身もごちゃごちゃしないで

済むだろう。そして、俺はカバンの中身を確認する

入っているだろうか・・・


「やった!」


思わず声が出る。缶詰だ! 何個か入っているのを確認できる。

他に500mlペットボトルに入った水が三本。一本は半分近くなくなっているが・・

まぁ、これだけ有れば今は困らない。

俺はすぐに、この建物を離れた。


どのくらい時間がかかっただろうか・・・路地を抜ける頃には

空は紅く包まれていた。






男はこの付近を散策しているようだった。車を覗き込んだりした仕草から、

何か使えそうな物を、物色していたのだろう。

そして推測するに、仲間はいない。もし、仲間がいたのなら、危険なこの街を

一人で歩き回る事はしない。仮にするなら、何らかの連絡手段を持つはず。

そぅ・・・一人のはずだ。仲間はいない。いないはずだ。



もし・・・


もし、いたとしても・・・・・・


報復はされないとは思う・・・


そぅ・・・・思いたい・・・



まぁ、直接手を出した訳じゃないし、不可抗力というか、何というか・・・。

罪の意識を感じても始まらない。俺は今夜の寝床を探すことにした。

昨日、夜を明かした場所でも良かったんだが、空が暗くなってきている

ここから引き返したのでは、暗がりを進むことになる。危険だ。

だが、路地を歩き回った際、めぼしい建物が目にとまっていたので

そこを目指すことにした。


蔦と草が生い茂った住宅街。そこに悠然とそびえ立つひとつの建物。

コンクリート造りのドッシリとしたそれは、給水塔だ。

頂上には、遠くからでも分かる火見櫓ひのみやぐらが見える。

今晩はここで宿をとろうと思う。


梯子を上り、櫓を調べる。どうやら安全なようだ。扉に鍵がかからないのが

不安要素ではあるが・・・







カバンには缶詰がはいっている。ようやく食事にありつけるんだ・・・

俺はどれを食べようかと、懐中電灯の小さな灯りの中

カバンの中を物色し始めた・・・


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