第4話

渇きは満たされた。後は何か食べるものを見つけたい。

だが、この状況で食べ物を見つけるのは、かなり難しい事かもしれない。

ほかの場所も、ここのように電気は通っていない可能性を考えると、

生鮮食品は絶望的だと考えて間違いないだろう。

調達するには・・・そういえば海が近かったはず・・・

釣りができれば、少しはなんとかなるだろうか?

しかし随分と反対方面に歩いてきている。今からでは難しいだろう


俺はさらにこの家の中を物色することにした。もしかしたら、必要な

物が手に入るかもしれない。懐中電灯をつけながら

薄暗い家の中を見て回る。


カウンターよりすぐの部屋。一階の客間だろうか?

物が散乱していて、畳には無数の足跡がついている。

めぼしい物はなさそうだ。俺は二階に足を進めた。

二階は比較的綺麗だ。俺は二階の一室にあるタンスを漁る。

緑のチェック柄のシャツ。他の物と比べると綺麗だ。

黄色いフードのついたジャンバーコート。ほころびもなく、使えそうだ。

俺はシャツとコートを拝借して行くことにした。暖かい。これなら

寒さはしのげそうだ。他にめぼしい物は・・・


タンスの脇、片隅に見慣れない物がある。それを手に取ってみる。

赤色の鮮やかな筒だ。英語が書いてあるが、俺の頭じゃ理解できないな。

真ん中に大きく「8」と書かれてい、筒の片方には金色の蓋みたいなものが

くっついている。俺はこういったものには詳しくないが、なんとなくわかる。

これは銃の弾だ。狩猟やクレー射撃の競技なんかで使う。何故こんなところに・・・


とても一般家庭にあるようなものじゃない。だが考察は後だ。

この銃の弾をポケットに詰めた。全部で六発。

ここに銃の弾がある、と言うことは、銃だってあるかもしれない。

俺はこの家をくまなく探してみた


・・が・・・・見つからなかった・・・


銃本体がなければ、使いようがない。だが、もしかしたらこの先

何か機会はあるかもしれない

俺はこの家を出ようと二階廊下に

足を進めた。その時・・


ギギィ・・・ ギギィ・・


こんな目の前に近づくまで気がつかなかった。

小柄な女性のゾンビだ・・・

目が合う。白く濁った精気の無い目。数秒間の沈黙が

そのゾンビと俺の間に流れる。

背中、首筋、額にいたるまで汗が溢れ出す!

何をどう対処したらいいのか咄嗟の事で頭が回っていない


ダメだッ! 殺されるッ!!


・・・が、その小柄な女性のゾンビは俺の横脇を通り過ぎてゆく。

そして俺が漁っていた部屋へと入り、ヘタるように座り込んだ。

何が起きたかわからなかったが、このゾンビは俺を襲ってこない。

目は合ったはずだ。認識できなかったのか?

なんにせよ、俺に関心がないなら好都合。

俺は早々とこの家を後にする


その後、俺は何件かの家を回った。だが、これといった食べ物を

見つけられなかった。ハラが減って死にそうだ。

せめて移動手段がほしい・・・


街には車がそこかしこに放置されている。もちろん

窓ガラスが割れ、ドアはサビつき、タイヤはパンクしている。

とても走行できる状態のものじゃないだろう。

そんな車を見ていると、遠くの方で何かが動いている。ゾンビか?

俺は車の陰に隠れ、覗き込む・・・


我が目を疑った・・・人だ!


肌の血色もゾンビとはちがう。虚ろに歩いているわけじゃない

少し小太りの中年らしき男性だ!

その男性は放置された車の中を、覗いている。

助かるかもしれない・・助けてくれるかもしれない!

俺は車の陰から身を乗り出した。向こうもこちらに気づいたようだ

手を上げ、声を出そうと・・・



ガゥンッ!!



激しい音が響く。その瞬間、目の前の車のフロントガラスが、

勢いよく地面に散らばる! 俺は再び車の陰に隠れる!

考えたくはないが、俺は今・・・撃たれた?

ゾンビと勘違いされたのか・・・一発だけなら誤射かもしれない

俺は隠れたまま、大声で男に叫んだ。


「待ってくれ! 俺はゾンビじゃないッ! 人間だッッ!!」


叫んだ次の瞬間、二発目の轟音が鳴り響く!

無数の穴が車のドアに空き、ドアは地面に転がった。


「あぁッ!? それで騙せると思ってんのかッッ!!!」


騙す? 何を騙すんだ? 初対面の人間を? 

それとも、おしゃべりで騙すゾンビでもいるってのか? 訳が分からない。

とにかく話を聞いて欲しい! 俺は車に張り付きながら必死で声を上げた!


「ゾンビじゃない! こうやって会話できてるだろ!? 人間だッ!」


覗くと、男は銃を構えながら、ゆっくりこちらに歩いてきている。


「だからだろうがッ!!」


だから・・・? 人間だから・・・? この男の言葉が一体

何を指しているのか分からない。だが、話し合いができない状態で

ある事は俺でも理解できる。

クソッ! どうすりゃいいんだよ!!

俺は姿勢を低くし、周囲を見る。

目に止まったのは、家と家の隙間にある路地。

俺はその路地に駆け込んだ! 響く銃声・・・


路地は狭い。人がすれ違うのがやっとの狭さ。

何かの看板、提灯、それに石畳・・・

汚れ、苔生し、蔦が生い茂っている。

俺はその中を、全力で走った。

どう走ったのか、自分でもよく分からない。

気が付くとそこは行き止まり・・袋小路だ。





男の持つ銃の音が聞こえる

カチャ・・・カチャ・・・

銃弾を込める音が・・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る