第9話

 宿屋にて。俺たちはユニオン結成の為、話し合いを行っているのだが……一人、不機嫌なお方がいらっしゃったようで。

「……どうして、もうレベル10になっているんですか」

「いや、だからそれは……」

「それに。どうして、女の子が増えているんですか?」

 そういって、ミトの方をちらりと見る恵。その視線を受けて、ミトは。

「どうも。ミト・フランツィスカです。行人さんのレベルアップにビッグな貢献をした者です。えっへん」

「ぷんすか、ぷんすか」

 怒っていらっしゃる。うーん、こっちはただ驚かせようと思っただけなんだがなぁ。

「行人さんなんて、知りません!」

「それより、ユニオン設立のことなんだが」

「それよりってなんですか!」

「いや、だから……」

 拉致があかない。どうも、俺が女の子……ミトをユニオンに誘ったことも不快の様子。困ったなあ。これから、仲間としてやっていくパーティーの一人なのに。

「はいはい。恵の気持ちは痛いほどよくわかるわ。けど、こいつにデリカシーなんてかけらもないんだから、いちいち怒っていたらキリないわよ。ユニオンの件だけど、設置場所はギルド本部内がいいと思うわ。部屋を借りる事も出来るだろうし。どこか、土地を購入して建てるとなると費用もかかるし、あんたらは今、色んな連中に目をつけられているから、ギルド本部内に設置した方が、危険が減るわ。さすがにギルド内で揉め事起こそうって奴はそういないだろうし」

 なるほど。アリサの言うことは最もだ。費用がないのも、事実。実際、今回の設立に関して、アリサやミトからもお金を貰っている。アリサはユニオンに入るわけじゃないのに、出してくれた。ほんと、面倒見のいい奴というか。

「私は特に否定するところはありませんけど、恵さんはいかがです?」

「……好きにすれば」

「まだ拗ねてるのかよ。いい加減にしないと、周りに迷惑だろ」

「むか……行人さんが悪いんじゃないですか!」

 火に油を注いでしまったようだ。どうも、自分に非があるとは思えないと、恵の方が意地になっているようにしか見えないんだよなぁ。俺もそこまで人間が出来てないからさ。笑顔で応対出来ないんですよ。

「反対意見もないようだし、ギルド本部内に設立するってことでいいな。よし、それじゃあ今からギルドに向かおう」

「今後はギルド内で生活した方がいいわよ。宿代も浮くし。わざわざ収集かけて集まる必要もなくなるしね」

「そうか。じゃあ、宿屋の店主に言っておかないとな。荷物も持っていくか」

「……私は物が多いから、一度には無理です。小分けして持って行かないと」

「手伝うよ」

「……別に、無理して手伝わなくてもいいですよ」

「まだ怒っているのかよ……」

「怒ってません」

「怒ってる」

「怒ってません」

「あー、もう。やめやめ! その辺にしなさい、二人共!」

「ふんっ」

「へっ」

 さすがの俺も怒っている。そんなにいつまでも拗ねることないだろ。何様だよ、まったく。恵の奴は。俺だって、ソロプレイしたい時だってあるっつーの! 結局、ソロじゃなくなってしまったが。

「まあまあ、飴でもどうぞ。行人さん」

「お、サンキュー、ミト。あむっ……うん、うめえ」

「それ、私が作ったんですよ。魔力が回復する効果もあります」

「へえ、すげえな。ミトは……エンチャンターが仲間に加わったのって、俺らにとって大分プラスじゃねえか?」

「そうね。エンチャンターはアイテムや武具の制作も出来て、それらに特別な力を付与することも出来る便利な職よ。メンテナンスも得意だし、パーティーやユニオンに一人は欲しい人材ね」

「えっへん。それほどでも、ありますよ?」

 そんな話をしつつ、ギルド本部に到着する。

「ユニオン設立の手続きですね……では、こちらにサインを。後、母印と……代表者の名前と……設立金は……はい、大丈夫ですね。ギルド本部に設立ですか? 少々お待ち下さい……空き部屋は……ありました。部屋をご案内致しますね」

 俺たちはギルド員さんの後を付いて行く。やがて、目的の部屋に到着した。

「こちらになります。十人ぐらいなら、住めるようになっていますよ。月々の料金は……になりますね。設備はトイレに、お風呂、訓練室、キッチン、いくつかのベッドルーム、会議室等……お好きにお使いください。それでは、これで失礼させて頂きますね」

 そういって、ギルド員さんは去っていった。

「うへぇ……すげえ広さだな」

「あんたたち三人のままならそう感じるだろうけど、十人ぐらいなるとそうは見えなくなると思うわよ。それだけ人の行き来が激しくなるだろうし」

「メンバーが十人を超えたらどうするんだ?」

「その時は、別の部屋を借りるか、土地を購入して建てるかしかないわね。十人超えるようなら、資金を出しあって土地を購入した方がいいと思うけど」

「その時になったら、考えりゃいいか。イヤッホー!」

 そういって、俺はベッドにダイビングする。一度やって見たかったんだよなぁ。バカでかいベッドにダイブするのって。

「子供か。それより、あんた。ドラゴンゾンビに挑んだんですって? よく、無事でいられたわね。あいつの毒を受けたら、あんたじゃ一溜りもなかったでしょうに」

「ああ。ミトが頑張ってくれたからな」

 そういって、ミトの頭を撫でる。

「あの……勝手に撫でないで下さい。びっくりします」

「おっと、悪い。なんかミトの頭がちょうど、撫でやすい位置にあるというか」

 ミトは小柄で身長も低い。その為、頭一つ分ぐらい違う。ちょうど手が届きやすい位置にあるのだ。身長のことは、気にしている可能性もあるし、口に出さないようにはしているが。

「む。どういう意味ですか。私の身長が低いとそう仰りたいわけですか。行人さんは」

 ほら、やっぱり。気にしてるくさい。

「いや、そういうわけじゃ」

「じゃあ、どういうわけでしょうか」

「そのままの意味だよ。それ以上の意味はない」

「むう……納得行きませんが、まあいいです。スモールな問題をいつまでも口にしていても仕方ありません」

 ミトは、恵よりはまだ理解が早いというか……沸点が高いのかな。切り替えが早いというか。その辺は助かる。

 エンチャンターという職種にも影響しているかもしれないな。そういう性格は。

「ふぅん……あなた、レベルは?」

「教えません」

「……」

「こういう奴なんだ。どうも、色々と秘密にしておきたい性格らしい」

「はい。人は秘密がある方がミステリアスですから」

「そんなもんかね……」

「そんなもんです」

「ま、ドラゴンゾンビを軽く倒すぐらいならそれなりのレベルと経験があるってことね。それに、エンチャンターっていう珍しい職種にもついているし。あんたのルーンスタッフを作ったのも、彼女なんですってね」

「ふっふふ……もっと、褒めるがいいです」

「調子に乗るな」

「あうっ……叩かないで下さいよ」

 微妙に偉そうにしたがるのも、こいつの癖だろう。別にそこは嫌いじゃないのだが……。

「なんですか、皆して。ミトさん、ミトさんって……ぶつぶつ」

 なんか病んできてないか……恵の奴。

「どうして欲しいんだ、恵は」

「えっ……」

「お前の気が済むには、どうしたらいいんだ」

「……それは。別に……」

 やれやれだな……まったく。そう思った俺は、恵の頭をぽんっと撫でた。

「あっ……」

「まあ、なんだ。俺も悪かったよ。ちょっと驚かせようと思っただけなんだ。今度からは相談するからさ、それでいいだろ?」

「……はい」

「むう……ビッグなお世話してますね、行人さん」

「あら、妬いてんの?」

「まさか。貴方こそ、どうなんです?」

「私? そんなこと、考えたこともなかったわね」

 あのー、聞こえてるんですけど。マジ? 何の感情もないんですか、俺に。いやー、唐突のカミングアウトで、大ショックなんですけど、俺。アリサさんはどんな男がタイプなんですか? ねえ? ねえねえねえ。とほほ……。

「仲直りも終わったところで、修練でもする? ちょうど、訓練室もあることだし」

「お、いいなそれ。アリサ、やろうぜ!」

「私はそこのミトとしてみたいわ。あんたは恵としなさいよ」

「えぇ……まあ、いいか。じゃあ、恵。やろうぜ」

「はい、行人さん!」

 訓練室へと移動した俺ら。さすが、ギルドに設置されているだけあって、設備も凄いな……ユニオン用の部屋に設置してあるのでこれだ。本部に設置してある訓練場はどれだけ凄いのだろうか。そういえば、そういう施設とか利用したことなかったな……毎日が実戦でのレベルアップばかりで。今後はそういう訓練施設も利用した方がいいのかもしれない。

 さて、恵と修練するのは、いいんだが……俺的には、ミトとアリサの戦闘が気になる。アリサのレベルは日々アップしている。対して、ミトの動きも凄かった。高レベルモンスターを楽々倒す実力……正直、観戦したい。

「なあ、恵」

「なんですか? 行人さん? あ、もしかして……」

 お? 俺の思っていることが恵にも伝わっていたのか。

「私と修練するの、嫌だったんですか?」

「え、いや。そうじゃなくて」

「じゃあ、なんなんですか?」

「だから……ちょっと、アリサ達のことが気になってさ」

「……そうなんだ」

 え? なんで、落ち込んでるのか。よくわからないんだが。

「恵は気にならないか? あいつらの戦闘」

「あ、戦闘か……えーと。そうですね、私も気になりますよ。ちょっとは。見たいんですか?」

「そうなんだよ。ちょっといいか? 先にあいつらの戦闘見てからでも」

「ええ、構いませんよ」

 よし。恵の許可も得た。さて、どういった戦いになるかな……。

 そう思って、二人の方を見に行くと、すでに戦闘中だった。

「はっ!」

「ふっ!」

 アリサはフレイムスラッシュで攻撃を仕掛けていたが、ミトはそれをひらりと回避。万が一を考えて水属性を装備に付与していたようだ。そうすることで、当たったとしても、ダメージを最小限に抑えるつもりだったわけか。なるほど。

「走れ……ウェーブブレードォ!」

 あれは……かまいたちか? 真空の刃が地面から走り出して、ミトに襲いかかる!

 ミトはジャンプしてそれを回避しようとするが……。

「甘いわね!」

 真空波がミトの真下に到達した瞬間、それが爆ぜた。

「!」

 そして、分散した刃の一つがミトに再び襲いかかる。

 ミトは、ナイフに風属性を付与。それを振ってアリサの真空波を相殺した。

「やるわね……!」

「そちらも、中々ロングに考えてますね」

 アリサは走りだした。ミトが地上に降りる前に、身動きの取れないところを狙うつもりか。

 ミトもそれは承知のようだった。アリサが接近して来た瞬間、マントを脱ぎ去ってアリサに向けて落とした。

「えっ……!」

 アリサにしてみたら、予想外の出来事だったらしい。慌ててそのマントを剣で切り払ったが、すでにその場にミトはいなかった。

「いない!?」

 ミトはすでに背後に回っていた。早い。アリサは防御態勢に回ったが、防戦一方に。

「この……いい加減に、しなさいよ!」

 アリサは、大きく振りかぶって剣を振り下ろした! それをミトは……ガードしない!?

 ミトはガードせずに、アリサに攻撃を加えた。二人の攻撃はほぼ同時に激突する……。

 どうなった……?

「ぐ……な、んで……」

 そういって、アリサが倒れた。

「まだまだ経験不足ですね。どうして、私がガードしなかったかわかりますか?」

「う……攻撃が、効いてない?」

「そういうことです。さっき私が貴方に投げつけたマント……あれに、攻撃ダウンのエンチャントを付与しておきました。貴方はあれをマトモに受けたんです。対して私はさらに、防御を上げるエンチャントを自分にかけておきました。結果、ほとんどダメージを受けなかったというわけです」

「……そういうこと、ね。負けたわ」

「はー……すげえな、あっちは。ミトが勝ったけど、アリサも負けてなかった。俺らも頑張らないとな、恵」

「そうですね、行人さん。でも、私たちは私たちのペースでいいんじゃないですか? 無理して強くなろうとするのはよくないと思うんですよ」

「まあ、たしかに。とりあえず、俺らも修練始めるか」

「はい!」

 俺と恵の修練はそんな言葉にするほど凄いものではない。そもそも、恵はヒーラーだ。攻撃は光魔法があるが、今の俺は魔法の専門家だ。この時点で、俺の方に大きなアドバンテージがある。そもそも、ダメージを受けないのだ。恵が俺に勝てることは不可能に近い。方法があるとすれば、状態異常を付与している武器を使うことぐらいだろうか。

 それか、アイテムで状態異常を与えてくるとか。

 当然、恵はそれらを用意していない。だからこの修練はあまり意味のないものになりそうだ。とはいえ、恵の方には良い修練になるかもしれないが。

 しかし、俺も緊張感を持って修練したいので恵にスカルブレイドを投げつけた。そう、アリサがくれた毒を与える剣だ。

「えっ……これって」

「それを使えよ。見ての通り、俺はダメージを受けない。だから、それで攻撃することで俺に毒を与える事ができるだろ?」

「そうですね……わかりました」

 そんな感じで俺と恵の修練はそこそこの攻防をして終わった。俺の経験値は上がっているので、剣なんて持ったことのない恵の攻撃が当たるはずもなかったのだ。

 別に恵が弱いと言っているわけじゃない。役割の問題だ。ヒーラーがウィザードに勝てたらそりゃおかしい。状況によってはあるかもしれないが、俺のような特殊なスキルを持ち合わせている場合は、無理だろう。

 それだけの話。

「あんた達も終わったの?」

「ああ、そっちも見てたけど、凄いな」

「ん……まあ、自分の力不足を思い知ったわね」

「反省できるだけマシです。そういう人は、学習出来ますから」

「うっさい」

 そういって、軽くミトの頭を小突くアリサ。すっかり、仲良くなっているようだった。

「次は俺ともやろうぜ」

「いいわよ」

 そうして、俺達はお互いに試合を行って、修練したのだった。

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