第8話
結局、なし崩し的にパーティーを結成してしまったわけだが……よかったのだろうか。今更、どうこう言っても始まらねえか。それより、集中した方がいい。ここはもう、高レベルフィールドだ……いつどこで、何が襲ってくるかわからない。集中しろ……落ち着け。大丈夫だ。敵の状態異常攻撃だけに気をつけるんだ。なぁに、装備はレベル30に匹敵するルーンスタッフがあるじゃないか。
……スキルは初期のしか覚えてねえけど。
「おや、その杖……」
「お? なんだ? わかるか。いいだろ、この杖。ルーンスタッフって言ってな。ルーン文字で魔力が増強出来て、魔属性でほとんどの敵にダメージが通る優れものなんだぞ。なんと、25万ルビーもしたんだ! すげえだろ!」
この初心者丸出しの会話である。仕方ねえだろ。自分の装備を人に自慢したくなるのは。誰にだってあるだろ、それぐらい。
「はぁ……」
「なんだよ、そのため息は。俺の愛用品だぞ。毎日、手入れを欠かさずにやっているんだ。この面倒くさがりの俺が、だぞ?」
そういって、俺は杖を頬でさする。うーん、俺のルーンスタッフちゃん。すりすり。
「いえ、そうじゃなくて……」
「なんだよ? さっきから。いくらお前でも、俺の装備にまでケチつけるなんて、許さねーぞ」
「だから……そうじゃなくて。それ、『私が』エンチャントした杖なんですよ」
「そうそう、お前が……はぁ? エンチャントって……え、えぇ? お、お前がぁ!?」
なんてこった……。おいおい、俺はさっきまで何を言ってた? 何をした? やっべえ……くっそ、はずいんだけど……作った本人の目の前で……何をやってんだぁあああああああああっ!
その場に崩れ落ちる俺。
「……そんなに、大事に扱ってくれてるなら。制作冥利につきますけど……び、ビッグな感謝、しても……いい、ですよ?」
恥ずかしそうにいうミト。くっそ、かわいいんだけど……。いかんいかん。俺にはアリサが……いや、可愛けりゃ誰でもいいんだけど。節操なしか!
だー! 一人でノリツッコミしてる場合じゃねえだろ! 気を引き締めろ!
「……ところで、エンチャントって。どういった職業なんだ?」
「そのままですよ。エンチャンター。アイテム制作や、装備制作はもちろん、それらに特殊な能力を付与することが出来る職種です」
「へえ。そんなのあったんだな。って、それって戦闘能力は……大丈夫なのか?」
ミトはジト目で、面倒くさそうな顔をして息を吐く。
「ま、見ていればわかるんじゃないですか」
その時だった。モンスター達が現れたのは。紫色の毒の沼から湧き出てきたのは、ゾンビ達。あれに触れたら、毒を受けるな……離れて戦った方がよさそうだ。
俺の職業は魔法使い……ウィザードのままだ。遠距離は得意中の得意。
「よし、行くぞ! ミト!」
「言われなくても、やりますよ」
そういって、ミトは飛び出していった。早い!
俺も詠唱を開始する。ミトは両手が光っていた。なんだ、あの光は……魔法、か?
「『筋力増加』を付与……『脚力』増強……武器に光属性を付与……!」
もしかして、あれが……エンチャント!?
短剣が光り輝く!
「ホーリーエッジッ!」
「GYAAAAAAAAAAAAA!」
ゾンビが一撃で……すげえ。あれが……エンチャント。自身にも能力付与出来るのか。武器にも瞬時に付与していたし……あれなら、十分戦力になるな。って、俺がそもそも戦力外のよーな……い、いや! 俺だって!
「風よ、全てを切り裂け! ウィンドブレード!」
俺の放った魔法は、ゾンビの体をズタズタに切り裂いた。
「へえ、スモールにやりますね」
「ありがとうよ!」
俺たちは自然に、背を向け合って武器を構えていた。近づいてくるゾンビたちを全て倒していく。大丈夫だ。レベル差はこの武器が補ってくれている……ミトがエンチャントしたこの武器が。
「そろそろ来ますよ。この沼の主が」
「えっ……」
グオォオオオオオという叫び声と共に、毒の沼から飛び出して来たのは……ドラゴンゾンビだった。で、でけえ……なんて迫力だ。骨のドラゴン……毒の沼に浸かっているからか、骨も紫色だった。
「ビッグに気をつけて下さい。奴の吐くブレスは、強い毒性があります。ポイズンブレス……高レベルのヒーラーか、ガーディアンでもなければ、受けきれませんよ」
食らったら、アウト……か。それは、勿論。俺も例外じゃない、今回は。俺の状態異常耐性は死耐性を除けばゼロ。その死耐性も低いわけだが……毒を受けたらひとたまりもないってことだ。ミトの口ぶりからすれば、ミトもただでは済まないようだが。
つまり、奴のブレスを警戒しながら、戦うしかないってことだ。
そんなことを考えていると、さっそく大きな咆哮。
「来ますよ。ビッグに避けて下さい!」
「くっ……!」
俺たちは左右に回避する。その直後。ポイズンブレスが飛んできた。しかも、それを奴は首を振り回して、そこら中に撒き散らす。なんて奴だ。くそったれ。
「行人さん。私が囮になります。あなたはビッグな魔法であいつに攻撃して下さい」
「任せろっ!」
とはいったものの、俺のスキルはウィンドブレードしかないわけだが……どうすんの、これ。さすがに、あいつに通用するとは思えない。どうする……考えろ。
ミトは俺に託したんだ。あいつの期待に応えないと男じゃないだろ!
ドラゴンゾンビの弱点は恐らく光属性だ……こんな時に、恵がいてくれたらなって……あいつをこんな危険な所に連れて来れるわけないだろ! そうじゃなくて!
ん? ふと、俺は自身のステータスウィンドウが光っていることに気づく……最小化していたから、わからなかったが。そうか。レベルが上がったのか! さっきのゾンビを倒したEXPがかなり多かったんだな。
ということは、俺のレベルは10! たしか、10レベルで習得出来る魔法スキルがあったはず……これだ!
俺は詠唱を開始する。
「我が命ずるは、光の裁き! サンダーボルトォオオオオオッ!」
俺が指先を振り下ろすと、天空から稲妻が降り注ぐ。それは、ドラゴンゾンビの頭に直撃した。
「グオォオオオオオオオオッ!」
やったか!? いや、ダメだ! まだ、息がある! そもそもゾンビなのだが……それはいい! まずい!
「ミト!」
ミトは短剣を逆さに持ち替えて、走っていた。周りのゾンビを全て切り裂いて、ドラゴンゾンビに向かっていく。
そして、苦しむドラゴンゾンビの頭上にジャンプして勢い良く短剣を突きつけた。
ドラゴンゾンビは絶叫し、その骨がボロボロと朽ちていった。
「やった……のか」
「はい。グレートにやりました。ビッグなチャンスをどうもです。行人さん」
「あ、ああ……」
「なんですか? まさか、ご自身で倒すつもりだった。とか、ビッグな自惚れしてませんよね?」
「……う」
「して、いませんよねえ?」
ずいっと、顔を近づけてくるミト。お、おい。そんな顔近づけたら……口が……。
「あっ……」
「……」
見つめ合う俺と、ミト。やべえ、はずい。顔真っ赤じゃねえの、俺。ドキドキしてきた。ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。
ばっと、後ろに下がるミト。少し、恥ずかしそうに。
「正直、目眩ましになる程度の仕事さえしてくれればよかったのです。ですが……ドラゴンゾンビにあれほどのダメージを与えるとは……やりますね」
「お……」
あのミトが、俺を認めて、くれたのか?
「やりますね、さすが私がエンチャントした装備です」
「……そういうことかよ」
「他に何が? レベル9だか、10だかのド素人のあなたがここまで戦えたのは、何のおかげだと思っているんです?」
「……ミトさんの装備のおかげです、はい」
「そうです。えっへん。ビッグな感謝して下さい」
「はいはい。感謝感謝」
そういって、俺はミトの頭をなでた。
「あっ……」
「ん? あ……っと、すまん。嫌だったか?」
「いえ……別に。スモールに嬉しいだけです」
「そっか」
「はい……」
そうして、俺達のドラゴンゾンビ退治は幕を閉じたのであった。
「そういえば、どうしてドラゴンゾンビの討伐を受けようとしていたんだ?」
「エンチャント素材集めですよ。こいつの骨が必要だったのです。見ての通り、倒した後はすぐボロボロと朽ちていきますから、すぐに硬化させないと行けませんけどね」
「ふーん」
「ああ、そうそう。今度からその杖のメンテナンス。私が見てあげてもいいですよ」
「え、本当か?」
「はい。私の作った杖ですから。その杖のことは私が一番よく知ってます。それと……その。たまには、パーティーとか、その……組んであげても、いいですよ?」
「ああ、助かるよ。お前みたいに強い奴が仲間だと、素直に心強い」
「そう、ですか……」
「どうした?」
「いえ……なんでもありません」
照れてんのか? こいつも、可愛らしいところあるじゃん。
「そういえば、ミトってどっかのユニオンに所属しているのか?」
「いえ……私はずっと、ソロプレイをして来ましたから。それが、何か」
「いや、ほら。俺って10レベルになったじゃん? ユニオンを設立しようと思ってさ。よかったら、入らないか? メンバーは、俺ともう一人、恵って奴がいるんだけど」
恵って名前を聞いた途端、ミトは眉をひそめたが……。
「ビッグなお世話です……が、入っても、構いませんよ?」
「お、そうか! じゃ、改めてよろしくな。ミト!」
「はい。よろしくお願いします。行人さん」
俺たちは握手を交わす。
そうして、俺たちの新しい仲間にミトが加わったのであった。
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