第7話
今日の俺は、一人でクエストを受ける為に、ギルドに足を運んでいた。どうして、一人なのかって? そりゃ、俺だって毎日毎日、恵とパーティーを組んでいるわけじゃないさ。
最初のうちはレベルも低いし、お互いで狩りをしないと危なっかしいことも多かったが、今はそうじゃない。もうすぐレベル10だ。ソロプレイだって怖くないさ。
ま、こっそりレベルを10にして恵を驚かせてやろうという俺の粋な計らいなのだが……。
「つってもなぁ、高ランクのクエはまだちょっと怖いし。かといって、低ランクじゃレベルが上がらない……けど、ソロで行けそうなクエなんて限られているしなぁ。即席のパーティーでも組むか? ソロでやるつもりだったんだが……おっと」
俺があれこれ悩んでいると、横から小さな女の子が、こちらを見上げていたのだ。
「え、えーと……なに、かな?」
「さっきから、ぶつぶつぶつぶつと。邪魔なのですよ、あなた。ビッグな邪魔なのです。どいてくれませんか?」
「び、ビッグ? あ、ああ……」
俺はその場を少しだけ離れる。すると、俺が先程まで突っ立っていた場所に女の子が移動して、ゆっくりと……手を伸ばした。
「……」
「んっ……えいっ。とおっ。そいっ!」
「……」
どうやら、クエストを受けに来たようだが……目的のクエスト表に手を伸ばしても、届いていない。
「届かないです」
「……」
すると、こちらをギロッと睨みつけて。
「届かないです」
「……えーと。取ってやろうか?」
「ビッグなお世話なのです」
「あ、そう。じゃ、俺はこれで……」
がしっと。服を掴まれた。
「……おーい」
「届かないです」
「……ああ、もう! 取ってやるから!」
俺はちょいキレ気味に、クエスト表をバリっと引きちぎった。
「ほらよ」
「ふん。ビッグなお世話です。ですが、受け取ってやるのですよ」
「何様だ……お前は」
「スモールな感謝です。では、私はこれで……」
そういって、少女は立ち去っていった。
「やれやれ……なんだかなぁ。出鼻をくじかれたというか。どうすっかなぁ、もう今日はやめておくか? うーん、でもなぁ……」
すたすたすた。すた。
「ん?」
「デンジャラスなピンチです」
「……また、お前か」
「デンジャラスな……」
「あー、わかった。今度はなんだ? トイレか? それならあっちに……」
「違います。何を言っているのですか、あなたは。そんなことより、デンジャラスなピンチなのです。このクエスト。ソロプレイ出来ないんです」
「へ?」
「ですから、パーティーを組まないと出来ないクエストなんです」
「ああ、そうなんだ。じゃ、他のにしたら?」
「出来ないんです」
「……俺にどうしろと」
「ですから、その……タッグなパーティーを……」
「俺にパーティーを組めって言ってんの?」
「……嫌なら。別に……他の人を探しますから」
そういって、後ろを振り向く少女。少し、俯き加減だ。俺も甘いな……女に。
「あー、待て待て。引き受けてやるから。とりあえずその用紙を見せてくれ」
「はい、どうぞ」
手のひら返しで、用紙を渡してくる女の子。はやっ。
「えー、何々……ドラゴンゾンビの討伐……推奨レベル25。って、25ぉ!?」
「なんですか?」
「いや、俺……レベル9なんだけど」
「……ビッグな邪魔者ですね。ま、あなたのレベルはどうでもいいです。元々、ソロで行くつもりでしたので。邪魔しないように付いて来るだけで構いません」
「いやいやいや、俺の意思は!? 拒否権は!?」
「ありません」
……どうしてこう、女って奴は。わがままなんだろう……。しかも、初対面の人間だぞ。俺は。やれやれ。ま、俺なら死ぬことはねーから、どうにかなるかって……おいおい。この前、アリサから色々聞いたばっかだろ。状態異常とかはヤバイって。相手はドラゴンゾンビだぞ……見るからにそういう状態異常して来そうだ……。
考えられるのは、毒……ゾンビ化、呪い、即死……この辺か。どれもアウトじゃねーか。俺の状態異常耐性は見事にゼロ。つまり、今までみたいに相手の攻撃をマトモに受けるのは無理ということだ。その上、レベル差が酷い。死ににいくようなものじゃないか。
大体、こいつのレベルはいくつなんだ? 本当に大丈夫なのか?
「なあ、お前のレベルいくつなんだ?」
「教えません」
「……」
「じゃあ、名前は?」
「言いたくありません」
「……検索すれば、出ることだぞ。名前は。そもそも、パーティーを組む時に表示されるだろうが」
「人のプライバシーを勝手に……許せません」
「帰っていいか?」
「ダメです。ビッグなダメです。あなたは私とパーティーを組むディスティニーなのです」
「うぜえ……言い回しがいちいち、うぜえ」
「いいから、行きますよ」
「お、おいっ……引っ張るな!」
そういって、少女は俺の手を引っ張る。何故だか、嫌じゃなかった。流されやすいのかね、俺って。だめじゃん。
「……私の名前は、ミト。ミト・フランツィスカです。ミトでもフランでも好きに呼んで下さい」
「俺は、行人。有馬行人。よろしくな、ミト」
「呼び捨てですか」
「……ミト、さん」
「冗談ですよ。よろしくお願いしますね、行人さん」
「──」
振り返ったミトの笑顔に、俺は心を奪われていた。いや、決して惚れたとか。そういうわけじゃなく。ただ単に……そう、天使のようだと。そう、思っただけだった。
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