第3話
宿屋で俺は唸っていた。自分の不甲斐なさに。そして、アリサのことを思い浮かべてしまう……くっ、やべえ。カワイイ……あいつ、マジかわいいんだよな。何あの顔。ヤバくね? 一発でコロリかよ。アリの巣コロリってか。たしかに、甘い蜜のようだ。そんな惹きつけられる何かがある。元気な女っていいよな、なんかこう。引っ張られるっていうか。こっちまで明るくなれるというか。
おいおい、何マジ惚れしちゃってんの、俺? 出会って数時間の女に。
かぁ~、行けねえなぁ……こんなんじゃ、ダメだ。強くならねえと。あいつにも笑われちまう。よーし、頑張ろっ。明日から頑張るぞー。はい、これ絶対アカン奴だ。
明日から頑張るは頑張らないの証……。じゃあ、今やれよって言われたらやりたくねえし。いいじゃん、ちょっとずつでさー。
その時だった、ノックの音が聞こえてきたのは。
「おじゃまします~。行人さん、もう寝ちゃってました?」
「いや、まだ。どうかした?」
「いえ、なんとなくですけど……ちょっと、怖くて」
「あぁ……ウルフのこと?」
「はい……夢に出てきそうで。一緒に寝たら……ダメですか?」
「へ?」
一緒に寝るって……えぇ!? 俺と恵が!? その乳で!? いや、乳関係ねーだろ。いや、あるわ。でけーわ。デカすぎ。あんなので圧迫されたら、アリサの顔忘れちゃいそう……おいおい、所詮胸なのか? 俺は? 可愛けりゃなんでもいいのか? いいだろ、そりゃ。どこぞの主人公じゃあるまいし、いいものはいいし、一番好きな女と付き合うより、確実な女を選ぶ。そういう男だ、俺は。
「よし、寝よう」
キリっと、すまし顔で俺はそう言った。
「はい。じゃあ、行人さんは床でお願いしますね」
「よし、わかった。任せとけ! って、床ぁ!?」
「そのベッド……一人用のですし」
「そりゃそうだけど……そうじゃなくてさぁ」
「え? なんですか?」
一緒のベッドで寝るんじゃねえのかよ! とはさすがに言えない。この状況で言ったらドン引きだろう。その上、アリサにまで話が行ったら、ダブルアウトだ。ツーアウト、チェンジ。ノックアウト。九回裏、終了。
それは避けたい。ここは、我慢して床で寝るしかないだろう。とほほ……。
「もしかして……一緒に、寝たかったんですか?」
「はいそうですっ!」
「……やっぱり、そうなんだ」
「あっ……」
なんてこった。つい、うっかり! 口走ってしまったぁ! もうだめだー、おしまいだー!
そう思った俺だったが、恵は体をもじもじさせながら、
「その……変なこと、しませんよね?」
「しません!」
「ほ、本当ですか……?」
「はい! 決まって誓います!」
「は、はあ……じゃ、じゃあ……どうぞ」
「え、いいの? マジで?」
「はい……恥ずかしいですけど。元々は行人さんのベッドですし」
「あ、うん……じゃあ、失礼して」
「あっ……やっ」
変な声出さないでくれませんか! ドキっとするから! なんか卑猥だし!
「え、えっと……俺、後ろ向いてるから」
「は、はい……そ、それじゃ。おやすみなさい……」
「お、おやすみ……」
「……」
「……」
「……」
辺りが静寂に包まれる……虫の鳴き声が心地いい。段々と、闇が深くなって……眠りへと……なるかぁ! ボケェッ!
眠れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんッ!
眠れるか! こんなのっ!
「はぁ、はぁっ……」
思わず、起き上がってしまった。ふと隣を見ると、すでにぐーすかぴーの恵がそこにいた。どんだけ寝るの早いんだよ。そんなに信用されているのか、俺。
お前を襲わないとは限らんのだぞ、男だし。しないけど。
とかいいつつ、軽く肩を触ってみる。
「んっ……ふあっ……」
やべっ……萌える。可愛すぎ。つか、何この体温! 生暖かいんですけどー! 女の子の感触半端ねーっ! 最高っ! ピンクのパジャマがまたカワイイんですよ、これが。
やっぱり、ピンクは淫乱だな! きっと、パンツもピンクに違いない!
っておいおい、何無防備の女の子にいたずらしてんだよ、俺は……。
さすがに最低にも程がある。大人しく寝よう……って、だから寝れねえんだって。こんな状況で、ちょいちょい体が当たってさー。蛇の生殺しだよ、まったく。
一緒に寝ようなんて、言い出さなければよかった……すまん、アリサ。この浮気心の俺を許してくれ。別に恋人でもなんでもねーけど。
とかなんとか、考えている内に……まぶたが……。
朝チュン。目が覚めると、服が乱れて下着が見えている恵がいた。やはり、パンツの色はピンクで正解だった模様。いや、そうじゃない。ヤバイ。早く戻さないと。
どうにか俺は恵のズボンを元に戻そうとするが……重い。寝ている人間は普通に動かすよりも重くなる。その上、この乳だ。ボインだ。そりゃ、重いわ。なかなか……うご、かん! くそ、もっと力を入れるしかないか。おりゃ!
ぐいっと持ち上げたせいで、バランスを崩した俺。ヤバッ!
嫌な予感は的中し、俺は恵に思いっきり抱きついてしまった。上から。そりゃもう、盛大に。
当然、相手は起きる。
「んぅ……なんですかぁ……わたひ、朝はよわひんですぅ……ん? え? え? え? ええっ!?」
「よ、よう……恵。起きたか」
「な、なななななな! なんで行人さんがここに! あ、一緒に寝たからか……って、そうじゃなくて! なんで私に抱きついているんですかぁ!?」
「落ち着け、これは不幸な事故だ。俺はお前のズボンを元に戻そうと……」
はい、いらぬこと言った。地雷踏んだ。しんだ。ダメージを受けない俺でも、精神のダメージは受けるんだな。
「え、ズボン……ひっ……きゃあああああああああああああっ!」
はい。パンツ、見えてます。戻そうとしたけど、結局戻らなかったわけで。
「な、なんですかあああああああ! もぉおおおおおお! これはぁああああっ!?」
完全にテンパってます。恵さん。いや、俺も相当来てるけどね? 開き直ってるだけで。
はい、勿論。当然のように、お決まりの。
ビンタを喰らいましたとさ。ちゃんちゃん。
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