第2話

 さて、俺はピンクの髪の女の子と一緒にウルフ退治をすることになったわけだが……。

「そういえば、名前。なんていうの?」

「え、私ですか? あの、前崎恵です」

「え、その名前って……もしかして、日本人?」

「あ、はい。そうです。貴方も?」

「そうそう。俺は、有馬行人。てか、随分と派手な髪してるな……」

 あ、言わなくてもいいことを言ってしまった。

「この髪ですか? えっと、生前の私と姿が全く違うんです」

「えっ、そうなの?」

「はい……どうやら、生前と全く変わらない人と、そうじゃない人がいるみたいで。胸もこんなに……」

 俺は、前者だったってことか……生前と姿は全く変わっていない。つか、胸って……またガン見しちゃったろ。でかすぎだろ、その乳。男の俺には刺激が強すぎる。

「そっか。悪かったな。ところで、何のスキルが使えるんだ?」

「スキル、ですか?」

「あー、言いたくないなら別にいいんだけど」

 たしかに自分が何のスキルを持っているか、赤の他人に話したくないしな。それも、『チートスキル』だったら、尚更だ。とはいえ、何のスキルを習得しているかわからないと、パーティーとしての機能が働かない気がする。

「えっと……回復スキルです。私、『ヒーラー』なので」

「へ?」

 ひ、ヒーラーだって!? おいおい……それ、一番いらない職業なんだけど……。いや、すまん。普通なら必須だと思う。パーティーに絶対必須な職業は普通ならヒーラーだ。が、俺はその『普通』に該当しない。

 何故なら、『無敵』だから。ダメージ受けないのに、ヒーラーなんか必要なわけがない。どっちかといえば、火力だ。大火力が欲しい。俺ごと巻き込んでも構わんしな。

「……あの、何か。まずかったんでしょうか?」

「い、いや……そういうわけじゃ」

「行人さんは何のスキルを持っているんですか?」

 やっべー、聞いてきたぞ。どうする? さすがにこのスキルを公表するわけにはいかないだろう。じゃあ、なんて言えばいいんだ? 実は何も持ってないんだ、あははー。とか言えと? 5秒でパーティー解散だな、こりゃ。

「……」

「あの?」

「……えーと、その、だな……」

「はい」

「ないんだ。スキル」

「え?」

「実は一つも持っていない」

「そうなん、ですか……」

「ああ。悪いな。嫌ならパーティー解散してもいいけど」

「えっ、いえ……私は別に構いませんけど」

「そ、そう? なら、いいけど……」

 何故かしらんが、解散にはならなかったようだ。お互い、初心者だしな。ソロプレイするよりは効率的と判断したのかもしれない。

「ま、とにかく行こうぜ。この先の森だったな」

「は、はいっ」



 森へとやってきた俺たちを待ち受けていたのは……犬っころ、じゃなくて……人間サイズのバケモンだった。

 おいおいおいおい! 聞いてないんですけど! 何アレ!? でかっ! あれって、ウルフじゃなくて、ウェアウルフだろ! 何、ウェアついちゃってんの! 人狼じゃん!

 しかも、めっちゃいるー! 伍、六人はいるんですけど! 勝てるわけないだろ! あんなの! こっちは、スキルゼロの最弱とヒーラー様だぞ!

「なんか、凄く強そうですね……」

「ああ……逃げた方がよさそうだ」

「逃げるんですか?」

「戦うつもりか? アレと」

「そうです、ね……」

「逃げろーーーーーーーっ!」

 俺たちは走った。一目散に。逃げ出した。そりゃそうだ。あんなもん、俺らの手に負えるか。こんな木刀一本で立ち向かえる敵じゃねーよ。スライムにしときゃよかった。

 がむしゃらに走っていたら、足が躓いた。

「やべっ……」

「行人さん!?」

 俺は思いっきり、コケた。体勢を立て直そうとしていると……鋭い爪が、一気に俺の首に突き刺さった。

「いやぁ!」

 が、俺の首に突き刺さらずにまるで寸止め状態のように皮膚一枚のところで爪がそれ以上、食い込んで行かなかった。

「ガゥ?」

 不思議そうな顔をするウェアウルフ。そりゃそうだ。こっちもびっくりだ。攻撃無効とは聞いてたけど……本当にダメージを受けないんだな。これなら、行けるか?

 そうと決まれば、反撃開始だ。俺は木刀を構えて、ウルフに突っかかる!

「行人さん!」

「グルルルルッ!」

「うおおおおおおおおっ!」

 こいつ、爪でガードしやがった! くそ、やっぱキツイか!? レベル1の平凡ステータスの俺じゃ、ウェアウルフは倒せねえってか!

 ウェアウルフのめった打ちが始まった。俺は完全にボコられていたが、全くのノーダメージ。よし、今なら行ける! 相手は隙だらけだ!

 俺は勢い良く木刀を前に突き出してウェアウルフの胸を一突きした。

「ガアアアアァ!」

「やったか!」

「グウゥウウウウ……フシュウウ」

「まだ、ダメか。あんな程度じゃ」

「行人さん、大丈夫ですか! 今、回復を!」

「それはいいから、お前は逃げろ!」

「でも……」

「倒せるかどうかわかんねえ。俺は見ての通り、平気だ。お前だけでも、逃げろっ!」

「そんな……嫌です! 行人さんを置いて、行けません!」

 馬鹿野郎……俺は平気だつっってんだろ。この通り、ピンピンしてらぁ。見りゃわかんだろーが。お前は俺と違って、ダメージ受けたらそれが致命傷になりかねねえ。あの鋭い爪でやられたら、おしまいだろーよ。血まみれの惨状なんて、見たくねーつってんだ、わからねえのかよ!

「くそっ……!」

 俺は必死にウェアウルフ達に襲いかかるが、相手の数は圧倒的だ。ほとんど攻撃を与えられない。ボコボコにされるだけだ。

「早く……逃げろっ!」

「行人さんっ!」

 全くダメージを受けない俺の様子にウェアウルフは苛立ったのか、目標を恵の方に移し替えたようだった。ヤバイ!

「えっ……きゃあ!」

「恵!」

 その時だった。一閃が走ったのは。瞬間、ウェアウルフは音もなく、崩れ落ちた。

「お前……」

「ったく、何やってんのよ。あんたら」

 そこにいたのは、あの時、俺たちにいらぬ世話をしてきた赤い髪の女だった。

「こんな奴らに苦戦して……だらしないわねぇ」

「うるせえ。お前と違ってこっちはレベル1の初心者だぞ」

「私はレベル1の時、もっと高ランクのクエストに成功してんですけどー」

「……うぜえ」

「はいはい。ま、ヘタレのあんたにしては頑張った方でしょ。女の子を逃がそうとした努力だけは褒めてやるわ」

 いつから見ていたんだよ、こいつ。いたんなら、さっさと助けろよ。

「うるさいわね。見てなさい! 我が紅蓮の炎に焼かれて死ぬがいいわ! フレイムスラッシュッ!」

 中級スキルのフレイムスラッシュ!? 始めて一週間の奴がもう、そんなスキルを!?

 炎に包まれた剣がウェアウルフを燃やし尽くした。凄い……。カッケエ……。

 それに比べて、俺のザマはなんだろうな……まあ、レベル1だし、スキルもなんもねーし。当然か。ステータスも平凡だしな。

 チャキっと剣をしまいこんだ女はこちらを見た。

「ふん……だらしないわねえ。女の子一人守れないんじゃ、世話ないわよ」

「言いたい放題だな……でも、まあ。助かったよ、サンキューな」

「え、ええ……そ、それほどでもないけど」

 なんだ? 照れてんのか? こいつ。

「助かりましたぁ~、ありがとうございますぅ」

 涙ながらに、赤い髪の女に抱きつく恵。まあ、たしかにちょっとしたトラウマになりかねないぐらいの迫力はあったよな。こんなんが低クエストって……上はどんなのがあるんだか。

「そりゃ、ドラゴンとか。グリフォンとか、サタンとか」

「……聞いただけでもヤバそうなのが伝わってくるな。ところで、お前……何者なんだ?」

「え? 私? あぁ……そういや、まだ名乗ってなかったかしら。ユニオン『紅魔ノ光』に所属するアリサ・リステインよ。よろしくね」

 すでにユニオンにも所属しているらしい。手が早いことだ。一週間でレベル12って早い方なんだろうか。さっきのウェアウルフ達の習得EXPは全員に配布されたはずだ。にも関わらず、レベルは上がっていない。1レベルすら上がらないのか……ゲージを見ると全然進んでいない。マジか。レベル上げ、滅茶苦茶きっついんじゃねえ、このゲーム……って、ゲームじゃねえよ、リアルだよ。現実だよ。

「やれやれね。そんなんじゃ、この世界で生きて行けないわよ」

「かもな……」

「ですね……」

 二人して、しょぼくれていた。

 そんな俺らの様子を見たアリサは。

「はぁ……ったく、しょうがないわねぇ。私が面倒見てあげるわ」

「「え?」」

「なによ? 不満?」

「そうじゃねぇけど……いいのか?」

「これも、成り行きってやつよ。仕方ないからしばらくは付き合ってあげるわ」

 なんだ、意外と良い奴じゃん。ちょっとエラそうなのが、玉にキズだが。もしかしたら、アリサの奴も転生したばかりの頃、こうやって助けて貰ったのかもな。だから、同じような境遇の奴を見捨てておけないとか……俺の勝手な妄想だが。

「あぁ、よろしく頼むぜ。アリサ」

「よろしくお願いしますね、アリサさん!」

「任せておきなさいっ!」

 そうして、俺らのパーティーに早くも新しい仲間が追加されたのだった。

「あ、報酬は山分けね」

「……」

「なによ、私が助けてやったんだから、当然でしょ!」

 ちゃっかりしてやがるぜ、こいつ。たかが、50ルビーじゃなかったのかよ。

「ちりも積もればなんとやらっていうしね」

 がめつい女だ……この先、やっていけるのだろうか。早くも少し不安な俺だった。

 けど、この満面の笑みを見て、俺は……こいつに惚れちまったのかも、しれない。

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