◇ MMOな異世界へようこそ! ◇
くろね
第1話
解説しよう。俺は死んだ。そして、女神に会って転生した。そして、異世界にやって来た。
どうやら、この世界は俺以外にも死んで転生した奴らが山程いるらしい。そういう世界だ。どいつもこいつも、自分の生前の話を自慢気にしている。
話を聞くとロクな人生じゃないのだが、何故ああも自慢気に話すのだろうか。自虐でしかないのに。
人間ってやつは不思議なもんだな……。ああはなりたくない。
さて、俺のスキルだが……ステータス、オン。
有馬行人(ありまゆきひと)
HP:368
MP:285
力:35
魔力:80
防御:45
運:55
素早さ:72
至って平凡だ。平凡中の平凡。ま、生前も平凡な人生を送って来た俺にはちょうどいい。しかし、俺のステータス自体は平凡だったのだが、一つだけ違う部分があった。
それは、スキルだ。
スキル
攻撃無効:パッシブ
相手の攻撃を全て無効化する。
この相手の攻撃を『全て無効化』するってヤバクねえか? ヤバいだろ。ダメージ受けないってことじゃん。アクセラなんとかさんもびっくりの『チートスキル』だろ、これ。
話によると、この世界に転生された人間は最初必ずこの『始まりの街・ノルン』に飛ばされるらしい。つまり、スタート地点は誰もが一緒。
そして、ステータスかスキルに何かしらの特典が付くらしい。いきなり、チートステータスを手に入れる奴もいれば、チートスキルを手に入れる奴もいるってわけだ。俺はその後者らしい。
この世界はよくあるMMORPGのような世界に似ている。冒険者が多く、クエストを受けて生計を立てている者がほとんどだ。
自分でユニオンを立ち上げて徒党を組んで大儲けしている奴らや、ソロプレイヤー、強い奴にしがみつく寄生プレイヤーまで様々。
姫プレイで自分は何もせずに楽している奴もいる。
そんな欲望と野望と夢が渦巻く世界……わくわくするじゃないか。一攫千金を夢見るか、伝説の勇者にでもなるか、大物ギルドを目指すか、一国の王になるか。
選択肢は無限大だ。俺はどうするかって? そりゃあ……どうしような。いざ、考えると選択肢が多すぎて迷っちまう。
こういう時に生前の優柔不断なところが出てしまっていかんな。ま、深く考える必要もねーだろ。取り敢えずは、冒険でもしようか。
俺はギルドにクエストを受注する為に足を運んだ。
さて、どうするか……まずは、簡単なクエストから攻めて行こうと思う。いくら、『攻撃無効』のチートスキルがあるからって、俺のステータスは平凡のままだ。
しかも、他に攻撃スキルも一切ない。
傷つかないし、死ぬこともないのはでかいが、これはこれで大変そうだ。
一番いいのは、パーティーを組んで俺が『盾役』になることだろうな。なんていっても、俺は死なないわけだ。どんなに打たれても。
この手の世界でパーティーに必須の職業といえば、そりゃガードだろう。相手の注意を惹きつけて、壁になる。これが出来る奴は引っ張りだこだ。
が、俺は残念ながらコミュ能力がない。ゲームならチャットで書き込むだけのことだが、リアルじゃそうもいかない。自分の足で声をかけていくなんて、とてもじゃないが出来そうもない。取り敢えずはソロで始めて行こうと思うわけ。
えーっと、どれにしようかな……スライム退治……5ルビー。やっす。今日の宿すら泊まれねーぞ、これじゃ。つっても、敵の強さがわかんねえからなぁ。
こっちは……ウルフ退治。50ルビー。宿代が30ルビーだから、20は残るか……装備は木刀しかないが……まあ、犬っころぐらいなんとかなるだろ。これにするか。
そう思って俺はクエストのチラシを手に取ろうとした時だった。
「あっ」
「えっ」
そのクエスト用紙を同時に手に取った者がいた。女の子だ。ピンクのロングヘアで、胸がデカい……思わずガン見してしまった。って、いかんいかん。
「……えっと」
「……あの」
さて、どうしよう。どっちが先に手にしたかなんてわからない。譲るべきかどうかってことだが……せっかく、決意して手にとったクエストを譲りたくはない。
「その、俺……このクエスト、受けたいんだけど……」
「あの、私も……そのクエスト、受けようと思ってたんですけど……」
「……」
「……」
平行線だ。拉致があかない。どうする? 諦めるか? いや、どうして俺が。あっちが諦めろよ。ねーよ。さっさとどけよな、ホント。
……ダメだ。相手も諦める気はなさそうだ。持久戦になるなこれは。このまま、無言の空間に居続けるのも、嫌だし……どうすんだよ、これ。
「何、やってんの。あんたら」
「えっ」
「きゃっ」
「こんな紙切れ一枚取り合っちゃってさ。バカみたい」
「お前な……!」
突然、クエスト用紙を取り上げられた俺は、またしても現れた謎の女性を睨みつけていた。
こっちは赤髪のツインテール女だった。くそ、割りとカワイイのがムカつく。俺好みの女だった。ますますムカつく。
「おい、返せよ」
「何々……ウルフを退治せよ。報酬は50ルビー……うわ、やっす。あんた、こんなの受ける気なの? 男なのに」
「男かどうかは関係ないだろ……俺は初心者なんだよ」
「わ、私も初心者で……どうしたらいいか、わからなくて……それを」
「ははーん。なるほどね。たしかにいかにも、『初心者』って感じするわー、あんたら」
「……うるさいな。お前はどうなんだよ」
「私? まあ、私もまだここへ来て一週間程度の『転生者』だけど……あんたらよりは詳しいわよ? レベルもすでに12だし」
いるよなぁ、こういうちょっと自分が早く始めたからって自慢気にそのゲームの話をしようとする奴。誰でも少しすれば知ることになるような初歩の情報片手に偉そうにしてさ……。
「何よ? その顔は」
「どーでもいいから、それ、返せよ」
「いやよ」
「ハァ?」
「つーか、こんな紙切れ取り合ってないで、さっさと『パーティー』を組めばいいだけのことじゃない。報酬内容が変わるわけじゃあるまいし」
「パーティー……ですか?」
「そ」
それが出来たら苦労しねーんだよ。って、パーティーか……うーん、どうする? この流れだ。さすがの俺も、一言で済むぐらいの発言なら出来るだろう。言うか?
「……」
「じれったいわねぇ! さっさとする!」
「ああもう! パーティーな! パーティー! わかったよ! そこまで言うなら組んでやらぁ!」
「私は別にあんたと組みたいなんて、言ってないんだけど」
「ハァ? お前が言ったんじゃねえか!」
「私が行くとは行ってないでしょうが。その子と行きなさいよ」
「えっ」
「あっ」
そうやって、お互い。顔を見合わせた。完全に同タイミングだったので、目と目が合ってかなり恥ずかしい。ドキっとした。
「えーと……」
「その……」
「「パーティーを組みませんか!」」
ハモった。綺麗にハモった。こりゃ恥ずかしい。
「最初から、そうすりゃよかったのよ。じゃあねー、私は行くから」
そう言って、手を軽く振って立ち去った赤い髪の女……なんだったんだ、あいつは。
「あー、その……これから、よろしく」
「は、はいっ! よろしくお願いしまっ……しゅ!」
噛んだ。噛んじゃったぁ……。気まずい空気が流れてるー。
「は、はは……」
「うう……恥ずかしい」
そうして、俺とピンクの髪をした女の子との初パーティー、そして初クエストが始まったのだった。
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