第88話 軽率な発言?
そこには、
ただ、その前には、一度は逃げ出した黒服達が、更に仲間をかき集めたのか、ズラズラリと立ち並び、これ以上の侵入は許さぬと言わんばかりの表情で待ち構えていた。
「なんか、気迫を感じるわね」
「それも仕方ないのですね。だって、この状況だと王手みたいなものなのですね」
「でも、チェックメイトまでに、もう少し時間が掛かりそう」
「まあ、こっちには魔神がいるからな。安心してぶち壊そうぜ!」
「よっしゃ! 気合をいれていくぞ!」
まるで御殿を囲う塀の如く立ち並ぶ黒服達を目の当たりにして、由華、ナナ、サクラ、久美子、蘭の五人が思い思いの気持ちを口にした。
――百人くらいは居そうだな......蘭がまた騒ぎ出しそうだけど、ここは俺が先制攻撃を掛けた方が良さそうだ。
由華達と同じように敵を眺めたスバルは、彼女達の言葉を聞きながら頭の中で作戦を組み立てる。
「俺が奴等の出鼻を挫くから、その隙を狙ってくれ」
「ま、またかよ! またスバルの一人取りか!?」
「蘭! うるさいわよ。新藤君、それでいいわ」
スバルが作戦を口にすると、案の定、蘭が騒ぎ始めたが、直ぐにサクラがそれを黙らせた。
そんなサクラに感謝しながら、スバルは一つ頷く。そして、続けて地面を蹴る。
「アースクエイク!」
能力の発動と同時に、黒服の居る場所に土の棘が突き立つが、それを見て誰もが驚きを露にする。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ~、どうやって察知したのよ!」
「避けた......あの攻撃を?」
「こりゃ、厄介そうだな」
「フフフッ、とうとうオレの時代がきたか!」
由華とサクラが驚きの表情を露にし、久美子は眉間に皺を刻む。
ただ、蘭だけは、なぜか嬉しそうに吠えた。
勿論、他の者達から白眼の眼差しを向けられたのは言うまでもないだろう。
「全員じゃないが、かなり避けられたな」
そう、スバルがアースクエイクと呼んでいる地槍でやられたのは、残念ながら数人だけだったのだ。
それを訝しむスバルだったが、ナナが己の考えを告げてきた。
「多分、思考を読む者がいるのですね。こちらも閉心術を使わないと、簡単に攻撃を見透かされてしまうのですね」
思考を読む能力を持つからこそ、相手の能力に気付いたのだろう。ナナは淡々と敵が回避した理由と対策を口にした。
しかし、スバルは直ぐに顔を顰める。
「そら、無理だ......」
「そうね。私も無理そうだわ」
「あたいも......」
肩を竦めるスバルに続いて、由華と久美子が眦を下げる。
その途端、鬼の首を取ったかのように、蘭が薄い胸を張った。
「オレは全然平気だぜ! 閉心術なんて簡単なもんさ」
自慢げな蘭を見たスバルは、その視線を薄い胸に向けて北沢のことを考える。
――北沢さんって貧乳フェチだったんだな。まあ、俺と好みが被らなくて良かったよ......いてっ!
失礼というか、完全に場違いなことを考えるスバルだったが、そこにナナからの脛蹴りがヒットした。
「空気を読むのですね。というか、どさくさに紛れて由華の胸を切り落としたいのですね」
勿論、戦闘中ということで、ナナもスバルの思考を読んでいるのだ。
それ故に、スバルの巨乳好き発言が許せなかったのだろう。
しかし、身内から攻撃を喰らったスバルは、それに文句を言うのを堪えて、すぐさまサクラに視線を向けた。
「じゃ、サクラも問題ないのか?」
「はい。私も訓練で身に付けましたから大丈夫です」
蘭ほど自慢げではないが、スバルから尊敬の眼差しを向けられたサクラは、少し嬉しそうに返事をする。
その表情からして、どうやら満更ではなさそうだ。
ただ、スバルは直ぐに思考を入れ替えたのか、視線を全員に向けると、作戦に変更がないことを告げた。
「かんけ~ね~さ! 作戦は予定通りだ。どうせ俺達に頭を使った攻撃なんて向いてないんだ。本能のままにぶちかませ」
「おおっ! いいじゃね~か! そういうところが好きだぜ!」
全く以てスバルらしい脳筋的な発言が発せられると、まさに脳筋の蘭が食いついた。
ただ、周囲の者からすると、その台詞が気になったのだろう。透かさずツッコミが入る。
「蘭子、北沢さんに言いつけるぞ!」
「そうね。北沢さんが悲しむわね」
「破局もあるのですね」
「というか、抑々、北沢さんは蘭の何が良くて......七不思議のひとつよね?」
久美子、由華、ナナの三人が冷やかす中、サクラだけが複雑な表情で自分の想いを告げると、蘭はムキになって反論する。
「こら、まてっ! 今のは言葉の綾だ。てか、サクラ、それは愚問だぞ! だって、オレにはいい処ばっかじゃね~か」
ただ、サクラに向けた台詞が拙かったのだろう。
誰もが呆れて肩を竦めた。
「病んでるな......」
「病んでるわね......」
「重症なのですね......」
「蘭......他人の振りしていい? 元同僚なのが恥ずかしくなってきたわ」
「こら! なんでそうなるんだ!」
久美子、由華、ナナ、サクラの四人から、完全に重症患者と認定された蘭が憤慨するが、そこでスバルの声が放たれた。
「
さすがに、黒服達もいつまでも呑気に眺める気はないようで、氷や炎の攻撃を仕掛けてきた。
しかし、スバルはそれを障壁で遮ると、透かさずやんややんやと騒がしい少女達に喝を入れた。
「す、すまね。おらっ! 爆裂!」
久美子はスバルに謝りつつも、地槍を避けた敵に向けて爆裂の能力を発動させる。
すると、スバルの攻撃を避けたことで隙ができたのだろう。幾人かが爆発に巻き込まれる。
ただ、瞬時に見えない障壁を展開していたのか、やはり直ぐに戦うべく立ち上がった。
ところが、次の瞬間、額から鮮血を噴き上げて倒れる。
「さすがに爆発の後は隙だらけなのですね。さあ、次は誰ですかね!」
そう、爆発から身を守っり、なんとか立ち上がった処で額を撃ち抜かれたのだ。
「やるわね。ナナ。私も負けられないわ......と言いたいんだけど......まあ、この状況じゃ、私の出番はないのよね......って! うわっ! なにっ!」
接近戦を得意とする――しかできない由華は、ナナの手際を称賛していたのだが、突如として足元の地面が盛り上がった所為で、驚愕しながら飛び退ることになった。
次の瞬間、盛り上がった土は爆発するかのように飛び散り、そこから刀を持った黒服がゾロゾロと湧き出してきた。
「死ね! この無法者!」
「死あるのみ!」
「この不埒者が!」
湧き出た黒服達は、罵声を吐き散らしながら日本刀で由華達に斬り掛かる。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ~~、どっから出てくるのよ! 嫌らしい!」
「なんて卑猥な。あなた達の方が不埒じゃないですか!」
後ろに下がった由華が、斬り掛かってくる男達に向けて、スカートの裾を抑えながら場違いな罵り声を上げると、サクラも即座に後退しながら罵声を投げつける。
――てかさ......だいたい、なんでお前等二人はミニスカートなんだ?
予想外の責めを喰らった黒服達が怯む姿を眺めながら、スバルはこれって理不尽なんじゃないのかと考える。
そう、久美子と蘭に関しては七分丈のパンツルックなのだが、なぜか由華とサクラはミニスカートなのだ。
ああ、ナナに関しては、いつもの幼児用ワンピースである。
――どちらにしろ、許せんな! 由華のパンツ姿を拝むのは俺だけだ!
由華とサクラの恰好に疑問を感じるスバルだったが、メラメラと燃え盛る怒りを感じていた。
「俺の女のパンツを見たな! その目玉を繰り抜いてやる! アースクエイク!」
「うぎゃ!」
「ぐあっ!」
「ぐほっ!」
「あぎゃ!」
無数に生えた地槍に貫かれ、黒服達が呻き声をあげる。
ところが、独占欲を露にしたスバルを見て、由華はそんな者達など気にすることなく、瞬時に気色を示す。
「あはっ! スバル、最高!」
「うっ......それって、私は含まれてないのよね......」
嬉しそうにする由華と対照的に、喜ぶ彼女を見たサクラが、とても寂しそうな表情で落ち込む姿を見せる。
――やべ、サクラが落ち込んでる......しゃ~ね~、ここはニンジンを......
このままでは戦いに支障がでると考えたのか、スバルがニンジンをぶら下げるつもりでとんでもないことを口にする。
「いや、サクラも入ってるぞ!」
「「「「「えっ!?」」」」」
誰もが戦っている手を止めて驚きを露にするが、サクラは直ぐに嬉しそうな表情で手を振った。
「ほ、本当ですか!?」
「ぐぎゃ!」
心底嬉しそうなサクラに切り裂かれた男が呻き声を上げる。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ~~、スバル、それってどういうことよ!」
「ぐあーーーーーーーーーーっ!」
怒りに眦を吊り上げた由華の鉄拳を喰らって、刀を持った男が遥か彼方に飛んで行く。
「あ、あたいは? なあ、スバル、あたいもいいだろ? サクラ子だけなんてずるいぞ。吹き飛べ! 爆裂!」
なぜ、サクラに子を付けるのかは意味不明だが、敵に爆裂を放ちながら久美子が自分も加えろと要求する。
「だ、ダメなのですね。まだ、私の貫通式すら終わってないのに! 絶対にダメなのですね。あ~ウザいのですね。大人しく逝くのですね!」
怒りを露にしたナナが、まるで八つ当たりするかのように、久美子が吹き飛ばした黒服達の眉間に弾丸をぶち込む。
勿論、北沢という二枚目の彼氏ができた蘭は、苦言を漏らすことなど無かった。
――ぐあっ、不味ったかな......でも、あのままだと戦闘に支障がありそうだったし......ちょっと、甘く考え過ぎたか......
ニコニコとするサクラを他所に、鬼気迫る勢いで責め立ててくる由華達三人を見て、スバルは敵を倒しつつも軽率な判断だったと思い知る。
――とにかく、ここは何とか誤魔化そう......
戦闘中であることも踏まえ、有耶無耶になる事を願いつつ、スバルは由華達に告げる。
「い、今はそんなことで揉めてる場合じゃない――アースクエイク! とにかく、敵を倒してからだ」
群がる敵を屠りながら、スバルはこの件を先送してしまう。
ただ、現時点のスバルにとって、それが後々に己の首を絞める行為だと知る由もなかったのだった。
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