第86話 次なる敵は?


 目に見えない攻撃が群がる警備員たちを殴り飛ばす。

 それだけでも堪ったものではないのだが、次の瞬間には爆発に見舞われ灼熱の熱さを浴びると共に吹き飛ばされる。


 呻き声や叫び声が轟く中、それに巻き込まれなかった者達が平穏だったかというと、全く以て否である。

 他の者達も額に弾丸をぶち込まれ、無残な屍となっていく末路が残されているだけだ。

 その光景は、凄惨そのものであり、それを成す者達は間違いなく残虐だと言えるだろう。

 それでも、その光景に顔を顰める者は二人しか居なかった。


「ちょっと遣り過ぎじゃない?」


「私も少し気が引けるのですが......」


 スバルが作り上げた土壁の陰に身を潜めている由華とサクラが、あまりの残忍さに両眉を下げて弱音を吐く。

 そう、その二人は接近戦を得意としてるため、現在は見学となっているのだ。


 ――由華とサクラは真面目だからな......てか、それが普通なんだよな。まあ、二人にはあんまり酷い事はさせられんか......今度からはなるべく戦闘に連れてこないようにしないと......


 由華とサクラにチラリと視線を向けたスバルは、二人の気持ちを推し量る。

 そして、二人の優しさはそのままで良いと判断する。


「お前等は手出しする必要ないぞ! 守りだけ固めてくれ」


「あっ、私も問題ないのですね」


「あたいも全然気にならないよ」


「オレもだ! もっとかかってこい!」


 無理をさせたくないと考えたスバルが、戦わなくていいと告げると、ナナ、久美子、蘭がそれに反論した。


 ――どうやら、この三人は俺同様に壊れてるみたいだな。


 三人の返事にニヤリとしたスバルは、彼女達を同類だと考えたようだ。

 ただ、そこで両手で銃を撃ち放っているナナが、由華とサクラを責め立てた。


「というか、だったら、なにをしに来たのですかね。初めから来なければ良かったのですね」


「その通りだよな。なにしにきたんだ?」


「そうだぜ、留守番しとけば良かったんだよ」


 ナナが由華とサクラに向けて毒を吐くと、透かさず久美子と蘭がそれに賛同する。

 その途端、由華とサクラの眦が吊り上がった。


 ――おいおい、こんなとこで揉めてくれるなよ? その方が戦わないよりも拙い展開だぞ。


 由華とサクラの形相を見て、スバルは内心で冷や冷やとするが、二人はグッと堪えたようで、何も言い返したりはしなかった。

 それを見たスバルはホッとしながらも、由華に現在地を尋ねる。


「今どの辺りだ?」


「まだ、四分の一もきてないわよ?」


「そうか、少しピッチをあげないと、日が暮れそうだな......」


「そうね。まだお昼になってないけど、この調子だとかなり時間が掛かりそうね」


 倒しても倒しても、どこから湧き出るのか、次々に警備員が現れる。

 それを見て、さっさと終わらせたいと考えたのだろう。スバルが一歩前に出た。


「しゃ~ね~、俺も加勢するか」


「ま、まてっ! 止めろ! オレの取り分が減るじゃんか!」


 スバルが前に出た途端、蘭が顔を青くする。

 何故なら、スバルが戦い始めれば、自分の役目が終わりだと知っているからだ。


「こら、スバルっ! お前は引っ込んでろ! オレがペースを上げるから! なっ! なっ! 頼むぜ!」


「でもな~、この調子じゃ明るい内に終わりそうにないぞ? アースクエイク!」


「こらーーーー! やるなってーーーー!」


 必死に頼み込む蘭を無視して、スバルは土の棘を広範囲に作り出す。

 その範囲はニ十メートル四方になろうかという広さであり、切り立つ棘は一メートルを超えていた。

 そう、まるで巨大な剣山を造り出したかのようだった。

 集まってきた警備員は、ものの見事に串刺しとなり、様々な呻き声を上げたかと思うと、あっという間に沈黙してしまった。


「これはヤバすぎるわ」


「神の所業、いえ、魔神の所業ですね」


「一瞬にして殲滅かよ。破壊力が桁違いだな」


「さすがは私のダーリンなのですね。人類最強なのですね」


「ほらみろ! 終わっちまったじゃね~か!」


 一瞬にして敵を一網打尽にしたスバルに、由華、サクラ、久美子、ナナの四人が感嘆の声をあげる。

 勿論、蘭に関しては、それが気に入らないのだろう。不満タラタラの様子だ。


「はいはい! 分かったから先に行くぞ」


「そうね。先に進みましょ」


 相手をするのに疲れたのか、スバルが御座なりの返事をすると、サクラもそれに同調してくる。


「お、おいっ! こらっ!」


 ぶつくさとうるさい蘭を放置して、スバル達はさっさと行くぞと言わんばかりに駆け出すのだった。







 皇居の敷地は、網の目状になっていて、割と太い縦の道と少し細い横道が何度も交差している。

 それを真っ直ぐ進むと、進行方向に一際大きな屋敷が鎮座していた。


「スバル、あれみたいよ!」


 恐らくは、誰もが気付いているはずなのだが、由華はそれを口にしないと気が済まないようだ。

 ただ、誰もがまたまた登場した敵に集中していて、返事をするどこか、それにツッコミを入れる者すらいない。


「おおっ! ゾロゾロきたな! 喰らえ! エアバレット! えっ!?」


 交差する脇道からゾロゾロと現れた黒服に向けて、嬉しそうな表情を作った蘭が得意のエア弾をぶちかます。

 ところが、その本人が一番初めに驚きの声を上げた。

 それを見て、サクラと由華が不思議そうな声色で続く。


「あれ? 今のって、不発なの?」


「誰も喰らってないわよね?」


「不発じゃね~~~~!」


 サクラの物言いにカチンときたのか、蘭がムキになって否定するが、すぐさま久美子とナナが追い打ちを掛ける。


「不発だってよ! 恥ずかしいぞ! 蘭子!」


「ププッ。不発......プププッ」


「ちげ~~! 不発じゃね~つ~の!」


 必死に反論する蘭だったが、心眼でエア弾を可視化することのできるスバルには、その出来事がありありと見えていた。

 そう、蘭が威勢よくぶっ放したエア弾は、黒服達に届くことなく緑色の壁にぶつかって霧散したのだ。

 オマケに黒服達がニヤリとしているのにも気付く。

 どうやら、蘭も黒服達の不敵な笑みに気付いたのだろう。地団太を踏まんばかりに悔しがる。


「ちくしょうーーーー! ぜって~ぶっ飛ばしてやる!」


 怒りを露にする蘭だったが、スバルはそれを無視して、敵が何をやったかを説明する。


「どうも向こうの能力者みたいだぞ。エアバレットは見えない障壁で打ち消されたんだ」


「ほ、ほら見ろ! 不発じゃないだろ~が!」


「蘭! 喜ぶことじゃないわよ!」


 唯一、その状況を見て取れるスバルがその時の状況を説明すると、まるで鬼の首を取ったかのように蘭が小さな胸を張る。

 しかし、サクラの言うことが尤もであろう。喜べる話ではないのだ。

 そして、その問題に逸早く気付いたサクラが、焦りの表情を見せつつ、問題の大きさを説明する。


「あの数の能力者......拙いですね。というか、アンナンバーズでは、蘭のエアバレットを防げる者は居なんですけど......初見で防いだことを考えると、かなりの能力者だと思います」


「ほう! それは厄介――障壁シールド!」


 サクラに頷くスバルだったが、黒服から放たれた緑色の攻撃を見て、即座に地を蹴って能力を発動させる。

 すると、物凄い構築速度で障壁が出来上がり、緑色の攻撃を霧散させてた。

 勿論、その攻撃が緑色出ることも、障壁で霧散したことも、スバルの心眼でしか見えない。


「どうやら、むこうも見えない攻撃があるぞ。多分......なんつったけ、久美子んとこの裏切り者と同じ能力じゃね~かな」


「カマイタチ?」


「そう、それ、多分それだ」


「そうなるとかなり厄介だね。というか、まさか他の力も......」


 久美子がスバルの問いに答えるが、続けて何かを口にしようとしたタイミングで、黒服から水の槍や炎の槍が飛んできた。


「うおっ! 障壁シールド! おいおい、こいつら魔法使いか?」


 黒服の攻撃を障壁で遮っているスバルは、まるで他人事のように驚く。

 ただ、他の面々から言わせれば、それこそ愚の骨頂なのだろう。

 なにせ、それを防いでいるスバルの能力も、どう考えても魔法としか例えようがないからだ。

 その証拠に、先程まで不敵な笑みを零していた黒服達が、一気に顔を引き攣らせている。

 更には身内からのツッコミまで入れられる始末だ。


「スバルが驚くのはおかしいわ」


「人の事は言えないと思いますよ?」


「いや、スバルの方が数段上だな」


「ダーリンは、魔法使いというより、錬金術師なのですね」


「どっちかっていうと、錬金術師の方が怪しいよな......」


 ――確かにそう言われると、反論できね~。


 由華、サクラ、久美子、ナナ、蘭の五人からツッコミを喰らって、スバルはタジタジになるが、直ぐに気持ちを入れ替えたようだ。


「それよりも、かなり厄介そうな相手だな。だが、俺には奴等の攻撃が見えるからな。攻撃は俺が封じるんで、お前等は好きなように戦え。由華は防御のフォローに回ってくれ。サクラは相手を殺さなくていいんで、戦闘不能にしてもらえるか?」


「分かったわ。みんなの防御を手伝えばいいのね」


「は、はい。それなら......いえ、甘っちょろいことを言ってる場合じゃないですよね。気合を入れます」


「いいぜ! あたいは好き放題やればいいんだね」


「了解なのですね。あたしも暴れるのですね」


「任せろや! オレが全部ぶっ飛ばしてやる」


 気合を着れ直したのか、由華、サクラ、久美子、ナナ、蘭の五人が思い思いの気持ちを口にする。

 ただ、そこで四人の少女からツッコミが入った。


「あなたの攻撃は防がれるみたいよ?」


「もう少し頭を使わないと、蘭の攻撃は無意味かもね」


「蘭子のエアバレットは完全に防がれたよな?」


「まあ、無駄玉でも数を撃てば当たるのですね」


「ぐほっ!」


 先程の返事と同じ順序で突っ込まれた蘭は、目を白黒させながら呻き声を上げるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る