第85話 皇居突入?
大小沢山のビルが犇めき合い、その間を立体的に造られた道路と線路が、まさに迷路の如く張り巡らされている。
ただ、その景色には緑の色彩が欠落している。
そう、緑を作り出す木々は申し訳ていどに見えるだけで、殆どがコンクリートやアスファルト、鉄、ガラスといった無機物で形成されていた。
「コンクリートジャングルとは上手く言ったものね......本当に人が蟻のようだわ」
高層マンションの一室から、東京の街並みを眺めていた
ただ、その表情からは、好きや嫌いといった感情は伺えず、ただ単に感じたままを口にしただけに見えた。
そんな楓に、落ち着いた男の声が掛けられた。
「どうしたんだ? 妙に黄昏てるじゃないか」
その男は窓から少し離れた場所に置かれたソファに座り、のんびりとテレビを眺めていた。
「別に......ただ、東京の景色について思ったことを口にしただけです。それよりも、今日はどうしたんですか? お父様」
楓からお父様と呼ばれた男は、ゆったりとソファに腰かけたまま一つ頷くと、彼女をここに呼び出した理由を告げた。
「どうやら、あいつ等は皇居に向かったようだな。少し様子を見てきてくれないか?」
「構いませんが......始末するのですか?」
父親から要件を聞かされた楓は、透かさず物騒なことを口にするが、男は首を横に振る。
「いや、まだ早いな。もう少し踊って貰いたいんだよ」
「その結果が帝都沈没ですが、本当に良いのですか?」
「ああ、さすがに帝都に関しては誤算だったが、まだまだ潰れて欲しい者達がいるからな。今は泳がす他ないだろう。ただ......」
楓の問いに、男は幾つかの条件を付けるが、楓はそれに黙って頷く。
ただ、楓には他にも気になる事があったのだろう。要件を聞き終わったところで、それを父親に問い掛ける。
「分かりました。それで、お父様は、皇主......帝から今後の事を任せて貰ったんですよね? やはり総理大臣になるのですか?」
「いや、表に出るつもりはないよ。裏から支配したいと思ってる。まあ、その前に邪魔者を片付ける必要があるがな......」
「娘達も片付けるのですか?」
「ん~、邪魔になればそうなるかな。いや、恐らくはそうなるだろう。ただ、私の娘はお前だけだよ」
「うふふ。ありがとう御座います。では、行ってきます。お父様」
男の返事に満足したのか、楓は微笑みを作ると、頭を下げた後に踵を返した。
「ああ、宜しく頼むよ。先程の条件が揃えば、私も顔を出すから、連絡を入れてくれ」
「はい」
玄関に向かう楓に父親が念を押すと、彼女は振り向くことなく声だけを返すのだった。
深い堀と石垣が美しい風景を作り出し、その一つ一つの傷、コケ、古めかしさ、そんなものが長い歴史を感じさせる。
ただ、強いて言うならば、スバルの居た日本における皇居とは幾分か雰囲気が違う。
というのも、スバルの居た日本の皇居は江戸城跡地であるのだが、この皇居には城があった事実はない。
それ故に、掘りの深さや石垣の雰囲気も全く異なっているのだ。
「ここが皇居か......俺の想像とはちょっと違うな。どちらかといえば、平安京みたいだな」
目の前に広がる皇居の様相から、画像で見たことのある古京を思い出したのだろう。それ故に、スバルは古い京都を例えに出した。
ただ、それを理解できる者が要る筈もなく、誰もが首を傾げていた。
「平安京ってなに?」
「いや、いいんだ。忘れてくれ」
説明が面倒だと考えたのか、由華の問い掛けに、スバルは首を横に振って自分の言葉を無に帰すと、集まった面々に視線を向けた。
そこには、由華、ナナ、サクラ、久美子、蘭の五人がスバルと同じように皇居を眺めていた。
さて、スバル達が帝都を沈めて、早くも二日が経っている。
というのも、出発が遅れた理由は、誰が行くかで色々と揉めたからだ。
結局は、うだうだと揉める少女達に業を煮やしたスバルが、勝手な判断で決めることで落ち着いた。
本来であれば、全員で来れば問題なかったのだが、由夢、ミケ、静香といった体調の万全でいない者、御堂岡や朋絵といった非戦闘員が居るの所為で、全員が皇居に突入という訳にはいかなかった。
それ故に、
「そろそろいくぞ。準備はいいか?」
「いつでもいいわよ」
「勿論なのですね」
「問題ありません」
「楽しくなりそうだね」
「うひょ~! 暴れるぞ~~~!」
スバルの問いに、由華、ナナ、サクラ、久美子、蘭の五人が頷きながら返事をするのだが、久美子と蘭に至っては、気色を表しつつ不敵な笑みを浮かべていた。
――なんとも血気盛んな奴等だな......まあ、クラッシャーズとしてはこれくらい方がいいのかもな。
自分のことを思いっきり棚上げし、久美子と蘭の表情を見て苦笑を漏らしたスバルだったが、クラッシャーズにとって彼女達の性格は好ましいものだと考え直したようだ。
そして、一つ頷いたスバルは、いつもの軽い調子で脚を踏みだした。
「いくぞ!」
五人の少女はまるで映画撮影のように横一列になってスバルの後に続く。
その様は、人数こそ少ないが、まるで忠臣蔵の討ち入りを思い起こさせるような雰囲気を醸し出していた。
そんなスバル達が正面突破とばかりに正門の前まで来ると、そこには詰め所があり、二人の警備員が即座に出てきた。
「ここは一般人の立ち入り禁止区域だぞ。さっさと出ていけ」
「ここはお前達のようなガキが来る場所じゃなんだよ! とっとと消えろ!」
二人の警備員は、スバル達が年若いと見て、頭ごなしに追い返そうとする。
しかし、スバルはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべると、高らかに破壊宣言を下した。
「ん? ああ、俺の進む先に立ち入り禁止区域なんてね~よ。それよりも、今からここを叩き潰すんで、命が惜しければさっさと逃げるんだな」
「このクソガキ! ここが何処だか知ってほざいてるのか!?」
「ああ、勿論そうだけど? あと十秒だけ待ってやる。それで逃げないのなら、遠慮なく潰すぞ?」
「このガキが! ふざけやがって!」
スバルのとことん生意気な口ぶりに、警備兵の二人は頭に血が上ったのか、すぐさま銃を抜く。
「ここに来た不審者は射殺していいことになってるからな。死ね! ああ、女は少し遊んでからだな」
「おおっ! いいね、ちょっと青いが発育も良さそうだし、くくくっ、楽しめそう......うごっ!」
「お、おいっ! がっ!」
スバルではなく、後ろの五人の少女をチラリと見遣り、嫌らしい笑みを浮かべた警備員は、銃を持つ右手の人差し指を引き絞ることなく、独りはスイカのように頭を割られ、もう一人はそのニヤついた顔に穴を穿たれた。
「この世界に、ゲスは必要ね~よ」
「ゴミは世のために消えるのですね」
冷血な表情を向けた久美子が銃を掲げたまま毒を吐くと、両手に銃を持ったナナも引導を警備員に引導を渡した。
ただ、先を越されて出番の無くなった蘭が、不服そうな面持ちで愚痴を零し始める。
「ちょっ、オレの出番が無くなったぞ! 次はオレだからな!」
「心配しなくても、これから嫌っていうほど敵が出てくるわよ」
「そうだぞ! そんなことに拘ってる場合じゃないぞ! さあ、いくぞ!
呆れた様子のサクラが、不機嫌な様相で苦言を述べる蘭を窘めると、スバルもそれに同意しつつ、目の前の門を軽く蹴り付けながら融解を発動させる。
すると、見るからに厚そうな木材で造られた門が、まるで砂となったかのように、瞬時に溶け落ちる。
「なんか、前よりも溶ける速度が上がってない?」
「す、凄いっ! 一瞬で......」
「まさに破壊の申し子だな」
「さすがは私のダーリンなのですね」
「す、スバル! オレの出番がまたなくなったぞ! ここはオレがぶち破るところだろ!?」
スバルの所業に、由華が呆気にとられ、サクラが感嘆の声を漏らし、久美子は楽しそうに頷く。
それに続いて、ナナが自慢げに自分の旦那だと主張するのだが、またもや蘭が出番消失だと苦言を漏らす。
「だから、これからが本番だっつ~の! 蘭! 少しうるさいぞ!」
あまりにも愚痴の多い蘭に向けて、スバルがクレームを入れるのだが、丁度そのタイミングでぞろぞろと警備員が集まってきた。
「ほらっ! 蘭、沢山きたわよ! 好きなだけやりなさい」
「ほんとだな。めっちゃ集まってきたぞ! 俺は手を出さんから、満足するまで暴れろ」
「よっしゃ! やっとオレの出番だ! おらっ! 喰らえ! エアバレット!」
まるで蜂の巣を突いたように湧いて出る警備員に、蘭は嬉々としてエア弾をぶち込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます