第43話 結局はラブホ?
「ねえ、スバル。そろそろいいんじゃない?」
「そうだな。これくらいあれば暫くは大丈夫か」
「暫くはって......これ、どこに仕舞うつもりなの?」
由華は呆れていた。それも途方も無く呆れていた。
それも仕方ないかも知れない。
なぜなら、既に大型トラック十台分の荷物を送り出していたのだ。
「保冷や冷蔵用のトラックもあったから、暫くはトラックに入れておけば大丈夫じゃないか? いや、あの人数だ。直ぐに無くなるかもな。てか、このスルメ、美味いな。ほら、お前も食えよ!」
スバルは死屍累々となった帝国デパートの配送センターで、スルメ片手にぞろぞろと集まってくる警備員と帝警を相手に銃撃戦を繰り広げていた。
「にしても、あなたの射的、なんでそんなに正確なの? それも心眼のお陰?」
呆れていた由華が、必中と言っても良いほどの射的に関して尋ねる。
「フフフ。実はな。心眼が発展したみたいなんだ。相手を狙うと赤外線レーザー照準のようなものが見えるんだよな。てか、お前は下手過ぎだろ!」
「あうっ......でも、それって完全にインチキじゃない。てか、私にもできるかな? それを使えば少しは当たるようになるかも?」
由華は頬を膨らませながらも、直ぐに顔を赤らめて自分も遣りたいと言い始める。
ただ、その表情からすると、その『遣る』は、赤外線レーザー照準による射的ではなく、スバルにぶち込んで貰いたいという方の『遣る』だろう。
「ん~どうかな。でも、試してみる価値はあるかもな。いや、ダメでもいいからぶち込ましてくれ」
「んもう! バカ! でも......沢山ぶち込んで欲しいかも......てか、沢山して欲しい......だけど、ちゃんと下準備もしてね」
取り敢えず、このバカップルの会話はどうでもいい。
さて、その年中発情期のバカップルが何をしているかというと、簡単に言えば強奪だ。
スラムでパンに群がる人々を見たスバルは、旧帝都タワーの解体を後回しにして、帝国デパートを強襲することにしたのだ。
そんなスバルは車の運転ができる者を連れて帝国デパートの配送センターに赴き、食料品から衣類、生理用品に至るまで、何でもかんでも強奪しているのだ。
「そろそろ大部隊がきそうだけど、どうするの? スラムで戦うのは彼等に悪いし......」
確かに、由華が今後の展開を予測するように、このままで収まる筈がない。
「そうだな......このままスラムに戻ったら大変なことになりそうだな。ちょっとデパートでひと暴れしてくるか」
「そうね。その方がいいかも」
完全に壊れた由華は、スバルのとんでもない案に頷くと、スラムから遣ってきた者達に告げる。
「私達は少し暴れて戻るから、皆さんは先に帰ってください」
「だ、大丈夫なのか?」
「凄いのは分かったけど、二人だけで?」
「ああ、大丈夫だ。あんなデパートを崩壊させるなんてお茶の子さいさいだ」
「お茶の子さいさい? なんだそれ?」
由華の言葉に驚きの声を上げたスラムの住人だったが、スバルがそれを一蹴する。
ただ、スバルが口にした言葉は理解できなかったようだ。
それでも住人達は、二人が警備員や帝警官をバタバタと倒すのを横目で眺めつつも、素直にトラックに向かった。
「てか、あっちは大丈夫かしら。途中で止められてなんて事にならないのかな?」
「まあ、その時はその時だ。一応、帝警から奪った携帯を持たせてるから、何かあれば連絡してくるだろ」
スバルは弾の無くなった銃を放りながら軽いノリで答えるのだった。
こちらでは行き成りの出動要請に悪態を吐く存在がいた。
「畜生! せっかくいいところだったのに! くそっ! 誰だか知らないが、ぎったんぎったんにしてやるぜ!」
「はぁ、また乙女ゲームをやってたの? それって唯の八つ当たりよね?」
毒を吐く蘭に、サクラは溜息を吐きつつもツッコミを忘れたりしない。
「だってさ~! これからいいところで、パンツ脱いだ途端だったんだぞ! 誰でも怒るだろ?」
「ちょ、ちょっと、乙女ゲームで独りエッチなんて、何を考えてるのよ」
蘭の零す愚痴に、サクラはあからさまに動揺した様子を見せる。
それを見た蘭がニヤリとすると、サクラに探りを入れる。
「じゃあ、サクラはどうやって済ませてるんだ?」
「そんなことしません。だいたい、なんで独りエッチなんてする必要があるんですか!」
せっかく探りを入れた蘭だったが、サクラは物凄い勢いで反発してきた。
それを見て、蘭は驚きの表情を作る。
「ぐはっ! マジで純情派だったか......それは、快楽を知ったら狂うパターンだな」
「えっ!? なに?」
蘭はボソリとミケのようなことを口にしたのだが、その声が小さかった所為かサクラには聞こえていなかったようだ。
それに安堵した蘭は、別の事を口にして誤魔化す。
「いや、この出撃のターゲットは何かと思ってな」
「あら、それも知らないの? 先日取り逃がした内の二人よ」
「ん? あ~あれか! 猫耳と幼女だな」
「違うわ。男と蘭がエアバレットを叩き込んだ女の方よ」
「なに! くそっ! あの女、生きてたのか」
「みたいね」
ターゲットがスバルと由華だと聞いて、蘭が悔しそうな表情を作る。
どうやら、由華を始末できたと思っていたようだ。
「それで、何処に向かうんだ?」
「帝都デパートよ。どうやらあそこで暴れているらしいの」
「なんでまたデパートなんだ?」
「さあ!? まあ害虫の考えることは解らないわ」
「害虫ね~」
その害虫を見て固まったのは何方様だったかな?
サクラの吐いた毒を聞いて、蘭はあの時の事を思い出した。
――そういえば、すっかり聞き忘れていたが、あの時のサクラはかなりおかしかったよな。何があったんだ?
「なあ、サクラ」
「なに?」
「いや、なんでもない」
蘭はサクラにあの時の事を尋ねようとしたのだが、この前と同じ四人のアンナンバーズが近寄ってくるのを見て、それを断念する。
ただ、二人がデパートへ到着した頃には、そこに建物があった形跡はあるものの、既にデパートの形を保っていない残骸となっていたのであった。
――いい加減、ここに篭ってるのもウンザリしてきたのですね。というか、ここは汚染されていて空気が悪いのですね。というか、肺が腐る気がしてきたのですね。
ナナはここが
そこには数々のBL本が並んでおり、一部欠けている辺りは、現在進行形でミケのオカズになっている筈なのだ。
「あ~すっきりしたナ~」
「盛りでなくても欲求は溜まるのですね」
寝室から現れたミケが、清々しい表情で声を放つと、透かさずナナがツッコミを入れる。
「幼児体のナナには解らないだろうけど、成熟した身体は欲求が溜まるんだナ~。だから偶には吐き出す必要があるナ~」
ミケは恥ずかしがることも無く、性的欲求について語る。
ただ、彼女の言葉からすると、由華の溜まる頻度は半端ない気がする。
まあ、そんな下ネタは置いておいて、冷たい視線を向けているナナを他所に、ミケは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、ソファーに座りながらテレビを付けた。
「ぶふーーーーーー!」
「汚いのですね。吐き出すのは性的欲求だけにして欲しいのですね」
ミネラルウォーターを口にしていたのが拙かったのだろう。
ニュースを見た途端、ミケは口に入れていた水を噴き出した。
ただ、ミケはその事を気にすることなく、勢いよく立ち上がると声を張り上げる。
「お、おい。直ぐに出かけるナ~」
「どうしたのですか?」
「あれを見るナ~」
問い掛けられたミケは、テレビに向かって指を突いつける。
「あっ、帝国デパートが全壊? またまた陥没事故か? 死傷者は運よく居ないと......ああ、これはダーリンの仕業ですね」
そう、スバルはひと暴れではなく、完全破壊を行ったのだ。
「私が苦痛に塗れている時に、あんな楽しそうなことを......許せませんね」
ナナは勢いよく立ち上がると、即座にマンションの玄関に向かう。
「てか、どんだけ壊せば気が済むんだナ~。由華は一体何をしてるんだナ~」
現在の由華を知らないミケは、溜息混じりに呆れた声を吐き出すのだった。
「スバル、こっちはスラム方向じゃないわよ? どこに向かってるの?」
スバルと並走している由華が問い掛けると、スバルはいつものニヤリとした表情を作った。
由華はその顔を見て、スバルが何か企んでいると考える。
――あの顔は......絶対に良からぬことを企んでるわ。まあ、相手が一般市民でなければ問題ないけどね。
既に散々と一般市民に迷惑を掛けているのだが、それすらも気付かない由華は、素直にスバルの答えを待つ。
すると、直ぐにスバルはその返事をしてきた。
「帝警の本庁だ」
「えっ!?」
その返事は由華の予想を遥かに超えたものであり、思わず驚きの声を上げてしまう。
――帝警の本庁で......まさか......でも、何のために?
スバルの一言で、何をやるか察した由華だったが、その理由に首を傾げる。
「ねえ、なんで帝警の本庁を倒壊させるの?」
「ん? ああ、本庁が潰れたらスラムどころじゃないと思ってな」
「ああ、なるほど」
――一応は色々と考えてるのね......エッチのことしか考えてないのかと思ってたわ......てか、それは今の私か......だって、気持ちいいんだもん。
「ねえ、スバル。あとでまたしようね」
完全にスバルの虜となった由華は、笑顔でおねだりする。
――くはっ! こいつ、めっちゃ可愛いわ。だめだ、こりゃ本庁壊滅作戦どころじゃねぇ!
可愛らしさ全開の由華を見て、スバルは思わず胸を熱くする。
「ああ、いいぜ。てか、直ぐにでもしたいな」
「きゃは! 私も!」
早くもその気になったスバルが返事をすると、由華はとても嬉しそうに答えてきた。
それを見たスバルは横を走る由華を素早く抱き上げると、本庁襲撃を棚上げして、そのまま近くにあったラブホテルに突入するのだった。
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