第44話 俺は破壊ダー?
「さすがに、あれを倒壊させるのは、骨が折れそうだな」
食う、寝る、暴れる、壊す、エッチするを全うするスバルは見上げていた。
それは当初のターゲットである旧帝都タワーではない。
「市民の血税でこんなもの......その癖、市民を虐げるし......死ねばいいのに」
すっかり大人の女らしさと落ち着きを身に着けた由華が毒を吐き散らす。
どうやら思うところがあるようで、スバルの破壊発言に物申す気も無いらしい。
それどころか、すこぶる賛成の意を表明してるのだから手に負えない。
少なからず、由華がそんな発言をする悪い子ちゃんとなってしまったのは、間違いなくスバルに汚染された所為だ。しかし、その女らしさや落ち着きが、エッチで得た成果だとは、誰も考えたくないはずだ。
さて、帝国警察本庁に遣ってきたスバルだが、既に夕方になろうとしていた。
抑々、狩人を始末したのは昨日のことであり、今日の午前中に帝都デパートの襲撃及び倒壊に勤しんだのだ。
それがなにゆえ夕方となっているかと言うと、勿論、ホテルで愛し合っていた影響だ。
それも五回もやったようだ。それこそ、死ねばいいのにと言いたくなる。
それはそうと、本来であればお腹が空き始める頃合いだったが、帝国デパートで高級惣菜をしこたま腹に収めたお陰で、今の処は大丈夫そうだった。
ああ、勿論その高級惣菜のお金を払ったりはしていない。いや、逆に倒壊という恩を仇で返すような行いをしたのは言うまでも無いだろう。
ただ、別に従業員の善意で食べさせて貰った訳でもないので、その事を全く気にしていない二人だった。
「そういえば、スラムの方は大丈夫なの? アレに集中してたから、すっかり忘れていたけど......」
帝警本庁を見上げて考え込むスバルに、由華は最低な発言を投げかけた。
というか、エッチよりも大切なことがあると気付くべきだろう。
そんな無責任な台詞を聞きつけて、こちらも大人の階段を上って歳に見合わぬ落ち着きを見せるようになったスバルが、視線を由華に向けないまま答えてきた。
勿論、由華を見ていない訳ではない。心眼で捉えているのだ。
「連絡を取ってみたんだが、今の処問題ないらしい。というか、誰もがとても喜んでいたと感謝していたぞ」
「そう。それなら良かったわ」
心眼の事を理解している由華は、スバルが視線を向けてこないことに腹を立てる事も無く、彼の腕に己の腕を絡ませたまま安堵の息を吐いた。
ただ、一応は要求を投げかけることにしたようだ。
「スバル~。心眼でこちらを見ているのは解るんだけど、できたら視線も向けて欲しいな~」
「ん? おっ! すまんすまん。ついついやっちまった。この処、暗い場所で戦うことが多かったから、視線を向けなくなる癖が付いちまったようだな。悪い、今度からは気を付ける」
由華の要望にスバルは素直に謝る。
この辺りも大人になってきたと言えるところだろう。
そんなスバルに由華は疑問を投げかける。
「スバルはこの先どうするの? この世界を救うって由夢と約束したんでしょ?」
由華の名前を口にした処で少し表情を曇らせたが、彼女は疑問に思っていたことを口にしてきた。
――抑々、救うといってもその方法は定かじゃないし、自由の翼は帝国の打倒を目指してるけど、要人を始末してハイ終わりなんて訳にはいかないものね。スバルの力があっても、壊すだけじゃ帝国の崩壊にはならないだろうし......この先、どうするつもりなのかしら。
どうやら、エッチ以外にも考えることがあるようで、由華はスバルに問い掛けながらも、この先について思考していた。
すると、今度は視線を向けてきたスバルが首を横に振って答えてくる。
「あ~、あれな......あれは止めた!」
「えっ!? 由夢と約束したんじゃないの?」
「そうだけど......俺には無理だ。だって、その方法すら全く思いつかん」
由華の問いに、スバルはあっさりと降参の手を上げた。
「だ、だけど、大丈夫なの?」
「ん? 何がだ?」
「誓いの儀をしたんじゃないの?」
「うげっ! そうだった......」
スバルはその事を忘れていたようで、由華の言葉で驚きを露にする。
「契約破棄したらどうなるんだ?」
「不幸が訪れるわ」
「不幸って?」
「ん~、その人の一番嫌だと思うことが起こるはず」
「うぎゃーーーーーー!」
契約破棄の代償を聞いて、スバルが頭を両手で掻きむしる。
「俺の一番嫌なこと......まさか、エッチができなくなる?」
「いやーーーーっ! それはダメーーーー!」
どんな罰が下るかと、考え込んだスバルが口にした言葉を耳にして、由華が速攻で悲鳴を上げた。
というか、この二人はどれだけエッチが好きなのだろうか。
思わずそんな疑問を投げかけたくなるのだが、スバルに続いて由華が両手で頭を抱えた。
そんな二人は、暫くの間、どうすればエッチ不能を回避できるかの遣り取りに時間を費やしたのだが、結局は公衆トイレで何の問題もない事を確かめるのだった。
「ふ~っ、良かったわ。まだ契約破棄の罰は下ってないようね」
「ああ、とっても良かったぞ」
安堵する由華の言葉にスバルが反応したのだが、二人の良かったには大きな違いがあった。
ただ、由華は直ぐに気付いたようで、スバルに抱き着きながら答えた。
「うん。スリル満点だったし、やっぱり後ろからというのが最高かも......」
「そうだな。あれをやると、お前も声が大きくなるから直ぐに分かるぞ」
「えっ!? そんな大きな声を出してた?」
「ああ、でも、問題ないだろ!?」
「ちょっと恥ずかしいわ」
すっかり獣染みた行為の虜になった由華は、少し恥じらいながらスバルに軽い口付けをするのだが、トイレで三回もやって恥ずかしいもへったくれもないものだ。
さて、トイレで不能になっていないことを確かめた二人だったが、気を取り直して帝警本庁ビルの前に遣ってきた。
すると、またまた由華が問い掛けてくる。
「ところで、話の続きなんだけど」
「ん? なんだ、こんどは?」
エッチができることを確認して、再び落ち着きを取り戻したスバルが首を傾げる。
「この国を救うのを止めるのは分かったけど、だったら、これからどうするの?」
「ああ、それか。それなら簡単だ」
首を傾げていたスバルはにこやかに頷くと、胸を張って宣言した。
「この国をぶっ壊す!」
「えっ!?」
スバルに抱き着いたままの由華は、その言葉に思わず驚くのだが、彼は気にすることなく続きを口にした。
「この世界に召喚されてこれまでの間に、見て、聞いて、体験して、俺は感じたんだ。確かに俺の居た日本も虐めや差別とかあったし、決して平等とは言えなかったが、この国ほど狂ってなかったぞ。だから、この国を潰したいと思ったんだ。勿論、俺が受けた苦痛の恨みもあるけど、それを置いておいてもなんか許せないんだ。生まれながらにして階級が決まってるとか在り得んだろ! 俺にはこの国を救うことも、新たな秩序を作ることもできないけど、壊すことはできる。この力があれば何でも壊せるような気がする。それに、全てを壊せば何かが変わるかもしれないだろ? だから、全てを壊す。俺は破壊者になる」
スバルは己の両手を眺めながら、この国で感じたことを口にしていく。そして、この国を壊すべきだと断言する。
それをスバルの胸の中で聞いていた由華は、驚きよりも感動が勝ったようだ。
「凄いわ。スバル! 多分、あなたはそれでいいのよ。そう思う。私も全力で協力するわ。勿論、妻としてね。てか......めっちゃ、カッコイイわ。私の旦那様」
彼女はとても嬉しそうな表情でスバルの言葉に同意した。
その様子からすると、どうやらエッチ以外でも完全にスバルの虜となったようだ。
こうして『何処でもクラッシャーズ』が結成された。
勿論、リーダーは新藤スバルである。
ただ、スバルはそこで由華に選択させた。
「ああ、それと、俺は自由の翼とやらと行動を共にするつもりはない。勿論、利害が一致すれば共闘することもあるかもしれんが、基本的には我が道を行くつもりだ」
「そ、そうなんだ......」
「由華、お前はどうする?」
「わ、私は......勿論、スバルに付いていく! 絶対に離れないわ」
「だが、父親と敵対するかも知れんぞ?」
「そ、それでも! 私も知事である父も、結局は何もできなかった。だけど、あなたは弱い者に
スバルの問いに、由華は悩むことなくあっさりと答えた。そう、彼と共に歩むと。
という訳で、東条由華はクラッシャーズ構成員第一号となった。
その事を誇らしげにする由華がおずおずと尋ねてくる。
「ミケとナナはどうするの?」
「さあ!? 奴等が俺に同調するなら一緒に行動するし、違うのなら自由の翼に戻ってもらうさ」
「美香子は怪しいけど、菜々子は間違いなくこちらに参入しそうね」
スバルの返事を聞いた由華は、ナナの名前を口にして少しだけ不満気な表情を作る。
そんな由華を抱きしめながら、スバルは声を大にする。
「さあ、手始めに帝警本庁を破壊するか!」
「そうね。木っ端微塵にしましょう」
決意新たに、バカップルもとい『何処でもクラッシャーズ』は力強い足取りで帝警本庁へと歩み寄るのだった。
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