第21話 池袋行きは、あの世行き?


 スバルはこの世界が自分の居た日本と全く違うと改めて感じていた。

 それは大した事ではないとも言えるし、大きな違いでもあるとも言えた。


「なあ、これって山手線じゃないよな?」


 乗り物の中からその風景を眺めながら、そんな問いを口にスバルだったが、左隣に居る黙っていれば可愛い少女がつれない返事をしてくる。


「山手線ってなに? というか、あなたは黙ってなさい。何度言わせるの?」


 そんなツンデレ、いや、ツンツンな台詞を口にしたのは、勿論、由夢の姉である由華なのだが、右隣に陣取った自称スバルの嫁を名乗る幼女姿のナナこと菜々子が質問に答えてきた。


「モノレールなのですね。知らないのですか?」


 ――いやいや、モノレールは知ってるが、東京池袋間のモノレールなんて聞いたことすらないからな。


「そうなのですね。その代わりに、向こうの世界は山手線というのがあるんですね」


 ――こいつの読心術は半端ないな......ここで、由華の乳を揉みたいな~なんて考えたら即バレか?


「いてっ!」


 思考を読む力を持つナナの異能に、今更ながら畏怖の念を持ちつつも、試しにとばかりに卑猥ひわいな思考をすると、ここ最近の定番となっている脛蹴すねげりを食らってしまう。


「そんなに巨乳がいいでのですか? ただの脂肪なのですが?」


「なになに? またスバルがエッチなことを考えたの? まさか、透視能力もあるんじゃないでしょうね!?」


 思考を読んだがナナが、不満タラタラの表情で苦言を口にすると、それを耳にした由華が慌てた様子で詰問してきた。

 ところが、スバルはその詰問でその事に気付いてしまう。


 ――そうか、壁を透過して向こうが見えるんだから、服も......


 今更ながらに、己の能力についての利便性に気付いたスバルだったが、それを利便性と呼んで良いのかには疑問だ。


「いてっ!」


「切り落として欲しいのですか? それに由華は余計なことを口にしないで貰えますかね」


「なに! まさか、今、透視しようとしたの? それって、私が透視なんて言った所為なの?」


「何もやってないって!」


「だから、喋らないの!」


 ――はぁ~、本当にりない奴等だよナ~。目立つなって言ってるのにナ~


 騒々しい三人を見遣りながら、ミケこと美香子が心中で愚痴を零しつつ、溜息を漏らす。


 そんな騒々しい三人とそれを見て呆れる一人は、チーマーとハンターメフィストを遣り過ごして池袋行のモノレールに乗っていた。

 まあ、チーマーに関しては、遣り過ごしというより、遣っちまってといった方が良いだろう。


「ところで、これって池袋行だが、そこからはどうするんだ?」


「だから、喋るなっていってるでしょ? 考えればナナが読み取ってくれるから、声に出さないの!」


 ――ちっ、本当にうるさい女だな。いつか犯してやるぞ! って、しまった!


 迂闊うかつなことを考えた処で、慌ててナナからの攻撃を防ごうとしたスバルだったが、なぜか脛蹴り幼女は満足そうにしていた。


「後半は許しませんが、前半は同意ですね」


 どうやら、由華がうるさい事に関しては同意らしい。


 ひょんなところでスバルに共感したナナは、彼の疑問に対する答えを口にした。


「池袋からは電車ですね。そこは格差があるのですね。それについては......まあ、行けば分かると思いますね」


 ――格差? まあいいか、行けば分かるという事だしな。それよりも気になる事があるんだが、東京から池袋に向かうモノレールって需要がないのか? 乗車している利用客が少ない気がするんだが......


 スバルが周囲を見渡しながら、まばらな利用客に目を止めてそんな事を考えていると、それを聞いたナナが慌ててジャンパの中から拳銃を取り出して叫んだ。


「敵! 客は全て敵ですなのですね!」


 その途端、疎らだった利用客が胸元から拳銃を取り出した。


「ちっ! 油断したナ~! 先に思考を探らせるんだったナ~」


 ミケがナナの言葉を聞いて愚痴を零すのと時を同じくして、まばらと言っても三十人以上は居る利用客が、こちらに見つかったことを悟って慌てて発砲してきた。


「うわっ! くそっ! 問答無用かよ! だったら、俺も容赦しね~ぞ! おら~~~クタバレや~~~~!」


 問答無用でなくても容赦する気が無い癖に、偉そうに向上を垂れたスバルがバッグの中から機関銃を取り出して凄い勢いで弾丸をばら撒き始めた。


「ちょ、行き成り銃撃戦とか勘弁してよ!」


「覚悟が足らないナ~」


 ――てか、お前等も撃ち捲れよ! 機関銃の補備はバッグに入ってるんだぞ!一体何やってるんだ!


 頭を屈めて椅子の陰に隠れた由華が苦言を漏らすと、透かさずミケがツッコミを入れたのだが、そんな二人を見てスバルが不満を抱いていた。しかし、両手で拳銃をぶっ放すナナが彼女達が戦闘に参加しない理由を告げてきた。


「彼女達は肉弾戦専門ですからね。銃は苦手なんですね。てか、撃たせても当たらないので、弾が勿体ないのですね。ハッキリ言うならお荷物という奴なのですね」


「なるほどな。まあ、二人が居なくても俺だけで始末してやるさ! おら~~! 逝っちまいな! うひょ~~! 最高~~~~!」


 ナナから座り込む二人について教えて貰うと、スバルは更に左手にも機関銃を持って両手で雨のような弾丸を襲撃者に喰らわすのだが、完全にトリガーハッピーとなっていた。


「凄いわ。この二人、めっちゃ息が合ってるわよね。次々に襲撃者が倒れていくわよ」


「秘密基地の有様は、こうやって生まれたんだナ~。由華も少し見習わないとナ~」


「あぅ......」


「それにしても、スバルの敵に容赦しない姿は、ナナでなくても惚れこみそうだナ~」


「えっ! ミケまで? ダメよ! スバルは由夢の彼氏なんだからね」


「ミケいうな~! 美香子ナ~! てか、大丈夫ナ~。別に嫁になるとか考えてないナ~。まあ、さかりりの時期ならヤバいけどナ~」


「ちょ、ちょ、ちょっと! マジで!? 盛りが来たらヤバいじゃない!」


「まあ、その時はその時だナ~」


「だめよ! ダメダメ! そんなことは私が許さないわ」


「なんで由華の承諾しょうだくが要るナ~?」


「えっ!? だ、だ、だって......だって、由夢の彼氏だし、私は由夢の姉なんだから、当然とことだわ」


 襲撃者が次々と呻き声を上げて倒れる中、まるで他人事のように由華とミケが会話をしている。

 というか、挙句の果てには、恋愛の話にまで発展していた。

 まあ、ある意味、この状況が銃撃戦をしている最中さなかであることを考えれば、肝がわっていると褒め称えるべきかもしれない。


 そんな二人を他所に、スバルとナナは夫婦ハンターのように敵を殲滅せんめつしていく。


「ナナ、予備の弾はバッグに入ってるからな!」


「了解なのですね。てか、よく弾切れだと気付きましたね」


「この前の戦いで、タイミングはつかんだからな」


「さすがは私の旦那様なのですね。最高なのですね!」


 気遣いに感動したナナが喜びの声を上げるが、その間もスバルは情けを掛けることなく敵を葬っていく。

 そう、敵を倒している訳ではない。確実にあの世へ送っているのだ。

 というのも、倒れた敵が致命傷ではないと判断すると、横たわる敵にも容赦なく弾をぶち込んでいるのだ。


「そ、そこまでやる必要があるの? あの人達にも生活があって家族が居るでしょうに」


 鬼のようなスバルの所業に、由華が温い性格を露呈ろていさせる。

 その言葉が耳に入ったのだろう。スバルは銃撃を止めることなく発砲音に負けない声を発した。


「そんなの知らね~よ! だが、奴等は俺達を殺そうとしてるんだ。それだけで殺されても文句は言えんだろ? 殺される覚悟が無い奴が人を殺すなんて以ての外だ。嫌ならそんな仕事なんて止めればいい。こいつらは、上から命令されたら女子供でも容赦なく殺すんだろ? そんな奴等に情けを掛ける必要があるのか? いや、そんな外道は俺が確実に葬ってやる」


「で、でも......」


 スバルの発言に由華が口籠くちごもる。しかし、すぐさまミケがそれに答えた。


「スバルの言う通りナ~。由華も見習うナ~。奴等の遣りようは知ってるはずナ~」


 その言葉に頷きながらスバルは容赦なく弾を放っていたのだが、違う車両からも敵が続々と現れたのを見て愚痴を零す。


「ちっ! 利用客が少ないと思ったが、違う車両には結構いたんだな。ぞろぞろと出てくるぞ! これじゃキリがないんだが、何とかならんのか? そろそろ弾も心許こころもとないぞ」


 未だ「うぐっ!」「うぎゃ!」「ぐおっ!」という呻き声が聞こえてくる中、スバルから問われてミケが考え込む。


 ――さっさと決めてくんね~かな。これじゃジリ貧になるぞ! てか、早くしね~とそのデカい乳を揉むぞ!? いいのか? 本当に揉んじゃうぞ?


 黙考するミケの大きな胸をチラリと見遣りながらスバルが邪な事を考えていると、拳銃で的確に相手のひたいを撃ち抜いているナナが脛蹴りを入れてきた。


「いてっ! こんな時まで蹴るなよな!」


「それを言うなら、こんな時にまでそんな邪な事を考える方がおかしいのですね」


 スバルがナナの脛蹴りに苦言を漏らすと、即座に蹴りを放った幼女から否定の言葉を頂戴ちょうだいする。


 ――ちぇっ! これじゃ、妄想すらできないじゃないか!? 想像するくらいは許して欲しいよな......


 スバルは顔を顰めながら、ナナの読心能力にウンザリとする。

 すると、それすらも読んだ彼女が眉を下げた。


「考えておきますね。それより今は始末しましょう! グッバイ!」


「そうだな! アディオス!」


 無駄口を叩きながらも、エロ神スバルと永遠の幼女ナナは他の車両から現れる敵を始末していく。


 そういう意味では、最後尾車両に乗っていたのは幸いだった。

 というのも、前後の車両から同時に攻撃されては堪ったものではないからだ。

 しかし、そこで不運が襲ってくる。


「や、やべ! やつらグレネードを投げ込んできたぞ!」


「スバル、機関銃で窓を破るナ~」


 スバルが危機を知らせる言葉を放つと、思考のために暫く沈黙していたミケが即座に反応した。


「了解! でも、大丈夫か?」


 ミケの言葉を聞いた瞬間、スバルは彼女の考えを悟った。そう、それは最悪の展開ではあるものの、この状況から逃れる唯一の手だった。


「何とかなるナ~」


 そんな言葉と同時に、ナナを脇に抱えたスバルは、異世界の宙へと飛び立つのだった。

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