第20話 ハンターメフィスト?
異能とは――
それは、人よりすぐれた才能。一風変わった独特な能力。異才。
ちょっと調べれば、様々な説明が出てくる。
ただ、その定義は
それでも、何もないところから火や水を作り出すようなものは異能とは呼ばないだろう。
それは、魔法と呼んで
そんな異能だが、この異世界ではそれが当たり前の存在となっていた。
では、その異能がどんなものかというと、文字通り普通の人間には持ち得ない力だ。
例えば、心眼であったり、夜目であったり、百メートルを二秒で走る速力であったり、一トンもの重量を軽々と抱える力であったりする。
ただ、その異能を全ての異能者が持っている訳ではなく、それぞれが固有な力を持っている。
それでも、殆どの異能者に共通する能力があった。
それは、人間の基礎能力の向上であり、百メートルを二秒で走ることはできないが、人の倍に近い速さで走ることができたり、一トンの重量物を抱えることはできなくとも、二百キロの物体を動かすことができる力だった。
それ故に、能力者が固有能力を使わずとも、素の人間では全く勝負にならないのだ。
まさにそれを証明すかのような光景が、そこにはできあがっていた。
「ねえ、死んでないわよね?」
怒りのあまり、やや
しかし、スバルにとってはそんなことなど如何でも良いのだ。
「お、おい! いつの間に俺の裸を撮ったんだ!」
「し、しつこいわね。冗談よ! 冗談!」
「嘘つけ! お前の携帯見せてみろよ!」
「い、嫌よ! なんで見せなきゃいけないのよ!」
由華の捨て台詞を看過できなかったスバルは、
ところが、そこで爆弾マン――失礼、爆弾ウーマンであるナナこと菜々子が
「ダーリンの裸なら、私も沢山撮ったのですね。まあ、妻としての
「何が嗜みで、どこが嗜みなんだ? 速攻でデータを消去しろ! 今すぐ消去しろ! じゃないとお前等の裸を覗くぞ! いや、携帯ごと燃やそう。うむ。それがいい」
爆弾に怒り狂ってデータの消去を命じるが、由華とナナはサラリと
「だ、だから、冗談だって言ってるじゃない! スバルの裸なんて撮る訳ないでしょ!?」
「私の事ならいつでも覗いて貰っても構わないのですね。だって夫婦なのですからね」
――だめだこりゃ......由華の奴、あの焦りようは絶対に嘘のはずだ。くそっ、隙を見て携帯を叩き折ってやる。
チーマーが地面に転がる東京駅の近くで、そんな事を考えていたスバルだったが、すぐさま横槍がは入った。
「そんなことはどうでもいいナ~! さっさと行くナ~。派手に暴れ過ぎたナ~。ここで職質されるのは拙いナ~」
そう、一瞬の戦いだったとはいえ、そろそろ警察が遣ってきてもおかしくない。
それ故に、ミケは慌てた様子で如何でも良い争い事を続ける三人に告げたのだが、それは少し遅かったようだった。
「ちょっとまって欲しいんだよね」
そう言って、転がるチーマーを足蹴に近寄ってきたのは野球帽を被った小柄な少年達だった。
「あらあら、こんなに散らかして」
「ちぇっ、僕たちの獲物が台無しだよ」
「だから、もっと早く来ようって言ったじゃんか」
「だってさ、レミがクレープを食べたいとか言い出すからだよ」
五人の少年は、よくよく見ると可愛らしい顔をした者達であり、その声からして少女だと感じられた。
それを知ったミケが眉間に
「ちっ、こんなところでハンターメフィストの登場かナ~。こりゃ参ったナ~」
スバルはそのハンターメフィストなる存在が気になったのだが、口を挟む間もなく少女達が苦言を述べてきた。
「困っちゃったな~。あたい達の獲物を横取りしてさ~」
黒髪をポニーテールにした少女がそう言うと、隣に居た髪の長い少女がその後を受け持った。
「そうですね。依頼者になんと報告すればよいのやら」
腕を組んだロングヘアの少女がそう言うと、次々と残りの少女達が思い思いの言葉を告げてきた。
「いいじゃん。うちらが遣ったことにすれば」
「そうですよね。というか、この人達を始末してしまえば、私達がやったことになりませんか?」
「それよりも、お腹が空いた~~」
茶髪の少女が適当な意見を述べると、何を考えてそうしたのか、紫の髪色をした少女が訳の分からない理屈を
まあ、最後のケバケバしいピンク頭の発言は放置で良いだろう。
――何を言ってるんだ? この子娘達......といっても、俺と大して変わらない年齢か......というか、こういう場合はシカトが鉄則だろ!?
スバルの割には真面な事を考えていたのだが、それを否定するかのようにミケが頭を掻きながら彼女達に話し掛けた。
「すまなかったナ~。悪気はなかったんだけどナ~。絡まれてしまったんで、仕方なかったんだナ~。それで、ウチ等はちょっと急いでるんで行かせて貰うナ~」
どうやら、ミケは事を
ところが、世の中とは上手くいかないものだ。大人しく頭を下げて先へ進もうとしたミケの行く手を茶髪の少女が遮った。
「おっと、まだ話は終わっとらんよ。てか、あんた達、異能者だよね? じゃなきゃ、これだけの人数をこうも簡単に
両手を腰に当てたボーイッシュな恰好の茶髪少女がそう言うと、ポニーテール少女が後を追うように話し掛けてきた。
「悪いけどさ~、ちょっと付き合ってくんない? このままじゃあたい等も収まりがつかないんだよね」
その台詞に、ミケはヤレヤレといった風に首を横に振るが、どうやら沸点の低い由華は、その少女達の態度に我慢ができなかったようだ。
「いい加減にしなさいよ。唯の言い掛かりじゃない。あなた達とそこに転がってるチーマーなんて似たようなものだわ。さっさとどこかへ消えないと始末するわよ」
そう、由華は見事なほどに
――おお! いいじゃん。その調子だ! やれ由華!
いつもは由華を煙たがっているスバルだったが、この時ばかりは彼女に賛同していた。
しかし、その横ではミケが「あっちゃ~」という具合に片手で顔を覆っている。
そんな彼女の態度の理由を知りたいと考えたスバルだったが、それを読み取ったナナがコソコソと告げてきた。
「ハンターメフィストって有名な異能者五人組で、お金を貰ってゴミを
――ぐはっ! なんてことを言うんだ! 由華! 直ぐに謝れ!
ナナの説明を聞いたスバルは、風見鶏よろしく瞬時に態度を変えて由華を責め立てた。まあ、心中でだが――
それでも、思考を読むナナはその
どうやら、それが意図せず火に油を注いだらしい。
「何がおかしいんですか? お嬢ちゃん!」
彼女達から言わせれば、ナナを見ればそう言いたくもなるだろう。しかし、紫頭が放ったその一言はナナの
「誰がお嬢ちゃんなのですか? オシメが取れたばかりのひよっ子は黙ってるのですね。というか、あなた、本当はビビっているのですね。それに、そっちのワンレン娘は内心でヤバいと思ってますよね。てか、あなた達の力も読めてるのですね。初めから勝負にならないのですね」
その言葉で五人の少女達は一瞬で顔色を変えた。
それも致し方ない事だろう。なにせ思考を読まれてしまうと、
「ちっ! 読心かよ! 厄介な相手と
「どうしますか?」
「どうしますかって、シズ。やるに決まってるじゃん」
「私もやります。幼女からオシメが取れたばかりだなんて言われて黙ってられません」
「お腹空いた~~」
ポニーテールの少女が舌打ちと共に愚痴を零すと、黒いロングヘアのお淑やかそうな少女がこれからについて尋ねた。
すると、茶髪ボーイッシュな少女が意気込んで両手の掌と拳をぶつける。
それに続くように、紫頭の少女が
あとは......ピンク頭は放置で良いだろう。
少女達は何方かというと、やる気になっている者が二人、悩んでいる者が二人、お腹を空かせて棄権しそうな者が一人となっており、このままなんとか遣り過ごしたいと考えたミケが彼女達に告げる。
「ウチ等は別に手柄も要らないし、金も要らないからナ~。このチーマーのゴミもそっちが遣ったことにしてくれても何の問題もないんだナ~。そんな事よりも、先を急いでるんで道を開けて欲しいナ~。それに、いつまでもここにると帝警がくるナ~」
それを聞いたポニーテールが顔を
「分かったよ! 今回は見逃してやるさ。ただ、あたい等にあれだけの啖呵を切ったんだ。次は無いよ」
「ちょっ、ちょっ、クミ~~~」
「うるさいよ! カオル! さっさと遣ることを済ませな」
「ちぇっ!」
結局、ポニーテールはミケの言葉を受け入れて、捨て台詞を口にしたものの、争いになることなくその場を後にすることができたのだが、カオルと呼ばれた茶髪ボーイッシュは、不満タラタラといった態度で両腕を振るった。
「うぎゃ!」
「ぐぎゃ!」
「あがっ! いて~、いて~よ~!」
「あ~ぐっ、手がオレの手が......」
「......」
そのカオルという少女が両手を振ると、地面に転がっていたチーマーの手が次々に切り落とされて鮮血を撒き散らす。いや、それだけではなかった。男達は股間も赤く染めていた。
その行動に恐怖を感じて脚を止めたスバルへ、不満げな表情をしたカオルが罵声を放ってきた。
「なんだよ! さっさといけよ! うぜ~! てか、お前の首も斬り落としてやろうか?」
カオルはそう言うと片手を振りかぶる。
すると、そこでクミと呼ばれた少女の声が響き渡った。
「やめな! そんなことしてると、それこそあたい達が狩られる番が来るよ」
「なんだよクミ! ビビってんのかよ!」
「好きに言え! それより、さっさと済ませろ! 帝警がくるよ」
「ちっ! 運が良かったな! だけど、次は唯じゃすませないからな!」
クミに
「なんで、そんな事をするんだ?」
すると、少し首を傾げたクミが口を開く。
「こいつらは女とみれば、どこでも犯しやがる。だから、依頼者からそういう指示が出てるのさ」
それを聞いて、なるほどと思うスバルに、クミは続けて話し掛けてきた。
「残酷だと思うか?」
その言葉に、スバルは即答するかのように首を横に振る。
――やっぱり、強姦は良くないよな。俺も気を付けよう。
そんなスバルを見たクミは、ここで初めて柔らかな表情でニヤリとしかたかと思うと、彼の耳元に顔を寄せて囁いた。
「あんた。名前は? 本当は男なんだろ?」
その行動があまりにも自然だったことから、瞬時に避けることのできなかったスバルは、男だと見抜かれていることに冷や汗をかきつつも、ゆっくりと頷くと自分の名前を口にする。
「スバルだ」
「そっか! 次は容赦しないからな。じゃあな」
スバルの名前を聞いたクミは満足そうな表情を作ると、そう言ってその場から離れていく。
その様子を見ていた由華達が慌ててスバルの腕を引っ張る。
「ちょっと目を離すと直ぐに他の女とイチャイチャするんだから」
「これは向こうに着いたらお仕置きなのですね」
「さあ、騒ぎが大きくなる前に行くナ~」
由華、ナナ、ミケの声を聞きながら、クミの事を考えるスバルは即座にナナから
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