第2祈祷者:上原美絵 難易度:★★★☆☆
<祈祷者情報>
氏名:上原美絵
性別:女性
年齢:24歳
祈願内容:恋愛成就
1
最近うちの神社を訪れる人が増えたと申しましたが、ラーメン屋さんの様に行列ができることはなく、一日に20人来るか来ないかくらいです。
インターネットでの情報を見る限り、本当に願いたいことができたらうちに来る、という流れになっているようです。
まあ、祈祷料だけでもうちの神社は最低でも一回3千円はかかります。お札が大きくなれば5千円、1万円と金額が大きくなっていきます。上限はありませんので、人によってはお気持ちといって5万円お納めされるかたもいらっしゃいます。
それだけのお金をかけて祈祷するわけですから、いらっしゃる方は本当に心からのお願い事を祈願していきます。
ただ、本当にお願いしたいことというのは、その個人の人生のステージや価値観によって異なってきます。
学生とかならやはりその後の人生を左右する受験での成功をお祈りしますし、就職活動中であれば内定を得るためのお祈り、20代後半から30代前半の方なら、結婚・出産に関する祈願、お年を召してきますと健康・長寿に関する祈願と、こう変わってくるわけです。
その内容もやはり人によって異なってきます。例えば合格祈願や就職祈願だと、「○○大学合格!」とか「株式会社▲▲に就職したい!」と具体的なことを書く方もいれば、「絶対国立大学合格!」とか「商社に受かりたい!」といった幅を設ける方もいらっしゃいます。
だけれども、今回の上原様の様なお願いをされた方は初めてでした。
上原様は長崎県に在住のOLさんです。うちの神社に来て、「祈祷申込書をください」と社務所に言いに来た時には、「あ、普通の女性の方だな」と思いました。
祈祷申込書を受け取った時、祈願内容は「恋愛成就」と書かれていました。年齢から考えても、おそらく現在お付き合いしている方がいるか、あるいは結婚願望がありそれを叶えたいと思っているかだなと思ったのです。
この私の予想は、半分はあっていたといっていいでしょう。ですが、半分は予想だにしなかった内容でした。
「では、祈祷を行うにあたって予め面談をさせていただきますが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
「ありがとうございます。では、今回祈願内容が恋愛成就とのことでしたが、現在お付き合いされている方はいらっしゃいますか?」
「いいえ、おりません。」
「では、どなたか、縁に恵まれた方との結婚をしたいということでよろしいでしょうか?」
「まあそうですね。縁に恵まれたいといいますか、結婚したいといいますか・・・。」
「といいますと?」
「私はこの方との結婚を祈願したくて来たんです。」
そういって裏向きに差し出された写真には、この方が結婚したいと思っている男性の顔が写っているのだと思いました。
「こちらを裏返してみてもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
表向きにしてその写真を見た瞬間、私は驚きました。・・・現実世界の方ではなかったのです。
「えっと、これは・・・。」
「知らないんですか?今女性の間で大人気の?」
「すいません、私高校とか通っていないもので・・・。」
「『アイドル育成ゲーム~ゴールデンボーイズ~』に出てくる西園寺俊太郎です。」
「・・・はい?」
「だから、『アイドル育成ゲーム~ゴールデンボーイズ~』に出てくる西園寺俊太郎です。」
「・・・この方との結婚を?」
「そうです。」
「この方は、現実に存在しない・・・」
「できないんですか?」
「できるできないじゃなくて、現実世界に存在しない・・・」
「みんなそういうんです。2次元なんだから結婚できないって。でも、私は彼のためにすべての愛情を注いできたんです!」
「あ、はい」
「彼のために、何万も使ったんです。なのに、私は彼からの見返りを求めてはいけないのですか!」
「・・・」
「私は、その見返りとして彼との結婚を望んでいるんです。それを祈願したいんです。かなうんですよね、この神社で祈願すれば。」
「かなうかどうかについては保証できません。“かないやすい”だけですから。うちの神社に来て、成就しなかった方もいらっしゃいます。」
「そんな・・・。」
上原様はかなりのショックを受けられていたようで、しばらく黙り込んでしまいました。
15分ほど経った後、私は尋ねました。
「どうしますか、祈祷されますか?」
「します。かなう可能性があるのですよね?」
「ええ、ご祈祷してみないと何とも言えませんがね。」
私は彼女を本殿へとお通ししました。
2
祈祷が始まりました。
祈祷を執り行うのは神主である父のりおです。父はモニター越しに上原様のお話を聞いておりました。
祈祷が終わり、お札を上原様にお渡しするとき、父はこういったのでした。
「ご祈祷を済ませました。するとですね、神様の方からお返事が返ってきました。」
「返事、ですか。」
「ええ、この神社は日本で一番神様と会話が交わせる神社でしてね、こうして返事が返ってくることがあるんですよ。」
「で、なんといっていたのですか?」
「神様が、上原様の代わりにこの西園寺様にお尋ねしたのです。上原様が結婚を望まれているが、西園寺様はそれを受け入れられるかと。すると、西園寺様はこうおっしゃったようです。『私はアイドルであり、誰か特定の肩と結ばれるわけにはいかないと。みんなから平等に愛される存在でなければならない。それに、お互いが生きている世界にはお互い馴染めない』と。そして、加えてこうおっしゃったようです。『自分よりもあなたをもっと幸せにしてくれる存在があなたの世界にいる。だから、あなたはその人と結ばれなければならない』と。」
「そんな・・・最初から祈願内容がかなわないと否定するなんて・・・!」
「しかし、相手の方が望んでいないのであれば、いくら祈願しても叶うことはありませんよ。」
「本当に彼がそう言ったんですか?」
「ええ、神様が尋ねて、そういう返事をもらったのです。」
上原様はその場で泣き崩れてしまいました。
父も厳しい現実を突きつけるなと思いました。面談をしていた時点で、どれだけ願っても決してかなうはずのないお願い事でしたから。仮にこの神社で何十回もお願いをしても、どれだけの大金を払おうとも、決してかなうことはないだろうと思っておりました。だけれど、何も祈祷が終わった直後にそんな厳しい現実を突きつけなくても、とそう思いました。
どのくらい経ったでしょうか、30分くらいだったような気がします。
「そうですか。でも、本人がそういうのであれば仕方ありません。新しい出会いを探します。」
「では、新しい良き出会いがあるよう、もう一度祈祷いたしますね。」
そういって、父はもう一度、祈祷を行いました。
祈祷を終えると父はお札を上原様にお渡ししました。
「神様は、なんといっていましたか?」
「特に何もおっしゃっておりませんでした。あなたに、良き出会いと幸せが訪れますようお祈りしております。」
彼女の訪問から5か月後、神社に手紙が届きました。それによると、上原様はゲームを通じてある男性と知り合い、お付き合いした後、結婚されたということでした。
その手紙には、こう書かれていました。
『あの日神主さんに言われた言葉で、私は目が覚めました。現実から逃げることなく、きちんと自分に向き合うことができました。そして、お願いしたことがかないました。本当に、ありがとうございました。』
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