五つ星神社
柊木まもる
第1祈祷者:宮下たける 難易度:★★☆☆☆
<祈祷者情報>
氏名:宮下たける
性別:男性
年齢:18歳
祈願内容:大学への合格祈願
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楠木神社は神奈川県のある私鉄沿線にある、ごく一般的な神社です。読者のみなさんの近所にもあるような、普通の神社です。ですが、ここ最近たくさんの方が来られるようになったんです。
あ、申し遅れましたが、私はその楠木神社で巫女をやっています有谷かなえと申します。年齢は17歳。父は神主でのりお、母はすずこ、姉はまつりと言います。私と姉のまつりは、この神社の巫女をするために中学卒業後は学校には通っておりませんが、通信教育でお勉強はしております。
話を戻してなぜ最近私の神社に沢山の人が来るようになったのか。それは5年前に立ち上がったサイト「ミシュラン風神社ガイド」のおかげです。このサイトは、全国にある神社を、お願い事がかなう確率でランキングしたサイトなんです。サイト運営会社が、サイトユーザーにどの神社にお願いをしたら叶ったのか、それを調査しランキングにしたものなんです。そして、ミシュランの様に星を使って神社を評価するのです。そのサイトにおいて、楠木神社は日本で唯一五つ星を獲得したのです。
それからというもの、全国各地からたくさんの方がご祈祷に来るようになりました。
ふつうのお願い事もあれば、かなり変わったお願い事まで、たくさんのお願い事を神様に届けています。
楠木神社では、少し変わった流れでご祈祷の受付をします。
今回は、きっと読者の皆様なら一度はお願いしたことがあるであろう合格祈願のケースを例に、楠木神社のご祈祷の流れを説明したいと思います。
2
今回の祈祷者宮下たけるさんの祈願内容はいたって普通の「自分の志望大学への合格」です。
では、うちの神社ではどういった流れでご祈祷をするのかをご説明します。
まず、神社に来ていただきます。そして、社務所で用紙を記入してもらいます。用紙に書いてもらうのは、次の項目です。
・氏名
・年齢
・性別
・住所
・祈願内容
ここまでは、どこの神社とも変わらないと思います。うちの神社が変わっているのはこの先です。
用紙を記入してもらった後は、私たち巫女がその祈祷依頼者本人と面談を行います。この面談の内容はモニターで神主である父も見ています。
面談は次のような感じで行います。
「本日はご参拝ご苦労様です。ここから私巫女の有谷かなえが、あなたの御祈願内容についてお伺いさせていただきます。この場では必ず真実を話してください。もちろん、秘密はお守りいたします。」
「わかりました。」
「では、この祈願内容『志望大学への合格』について、できるだけ具体的にお話ししていただけますか?」
「僕は今高校3年生で、来年の2月に国立T京大学(ご依頼者のプライバシー保護のためこのように表記させていただきます)の理科3類に合格したいと思っています。この前の河○塾の模試では偏差値65を取ったんですが、A判定をまだとったことがないんです。最近はモチベーションも上がらなくて、勉強に集中できないんです。でも、頑張ってT京大学に受からないと親に怒られるし・・・そのことを考えているといてもたってもいられなくて・・・。ネットでこの神社はお願い事がかないやすいって見たので来たんです。」
「わかりました。モチベーションが上がらないとおっしゃっていますが、具体的にはどう上がらないのですか?」
「やる気が出ないというか、集中できないんです。すぐ漫画を読んだりしちゃって。」
「予備校などには通っているのですか?」
「通ってません。」
「勉強はどちらで?ご自宅ですか、学校ですか?」
「自宅でやっています。」
「学校でやろうと思ったことはないのですか?」
「一回学校でやったことはあるのですが、友達が茶々を入れてきて全然集中できなくて・・・。あれを教えてくれだとか、これを教えてくれだとか言ってきて、自分の勉強ができないんです。」
「図書館を利用しようとは思わなかったのですか?」
「図書館の机が自分に合わなくて、集中できませんでした。」
「差し支えなければ、ご両親の出身大学を伺ってもよろしいですか?」
「両親は二人ともT京大学の出身です。父は法学部、母は理工学部の出身です。」
「なるほど。ご両親もエリートなわけですね。だから、プレッシャーが厳しい。」
「はい。僕には兄弟もいないので・・・。」
「自分ではT京大学に行きたい!という気持ちは強いですか?」
「そこに行けば親が喜んでくれるなら、という気持ちです。本当は文学部に行きたいんです。でも、母が医学部に行ってほしいという願望が強くて・・・。自分がいけなかったからなんだと思うのですが。」
「おそらくお母様は男の子だし、優秀なら高みを目指してほしい、そういったお気持ちが強いのかもしれませんね。」
「はい・・・それが重荷なんです。」
こういった面談を行い、祈祷者の性格を判断します。今回の宮下さんの場合、図書館の机があわないとか学校で勉強している時に茶々を入れられると集中できないという点から、比較的神経質なご性格であり、ご両親からのプレッシャーが強く、自分の意思で目指しているというよりも、両親の期待にこたえたいという気持ちからT京大学を目指しているということがわかりました。
お願い事というのは、本当に、自分が叶えたいという強い気持ちがないとかないません。本当に心から叶えたいと思えば、それをかなえるために人間は本気で努力をするものです。読者の皆さんにも、本気で恋をした相手には、様々な手段を用いて、なりふり構わずあらゆる手を尽くして相手の気を引こうとした経験はありませんか?それと同じなのです。もしかしたら、この受験ということでこれを経験された方や、就職活動でこれを経験された方もいらっしゃるかもしれません。その時の様な、強い強い意志がないと、どんなお願い事もかないません。
では、うちの神社では、宮下さんの様な方にはどうするのか?それは、本人が本気で叶えたいと思うお願い事を提示するのです。
宮下さんは合格祈願ということでいらっしゃったわけで、「T京大学への」合格祈願ではありません。
それは詐欺じゃないか!という厳しいご意見も聞こえてきそうですが、それは違います。本当にご本人が叶えたいこと、それを一緒に見つけ、そしてそれを本気で叶えたいのなら、宮下さんの場合であればきちんとご両親にお話をして、理解をしてもらおうとするはずです。そうした行動の後押しをするのが我々のお仕事なんです。
面談が終わると、お客様を本殿へご案内します。そして、父が祝詞を奏上し、ご祈祷をします。
最後、お札をお渡しするとき、父が神様からのお言葉として、モニター越しに見ていた面談内容からいえるアドバイスを送るのです。
宮下さんには、このように言っておりました。
「しっかりとあなたのお願い事、神様にお届けいたしました。するとですね、このお願い事をかなえるにはあなたにはやらなければならないことがあると神様がおっしゃいましてね、きちんとご両親とお話をなされと、おっしゃいましたよ。本当にあなたがやりたいことは何なのか、それをきちんと自分の中で整理して、納得する。あなたの人生はあなた自身でお決めにならなければならない。自分で意志を持ってね。大学受験というのは、ある程度の人生設計が決まってしまうステージなんです。あなたが通う学部で、その先の選択肢は限定されてきます。あとから変更はききません。後悔のない人生を送るためにも、今、目指そうとしている方向は本当に正しいのか、よくご自身で考えてやってください。いいですね?」
その後、宮下さんはご両親とお話をし、T京大学の文科3類を受験、見事合格をされました。
こんな感じで、うちの神社ではたくさんの方とお話をし、お願い事をお届けしております。
この後は、そんなたくさんのご祈祷者の中でも、変わった方、笑いそうになるお願いをされた方など様々な方のお願い事のお話をしていきたいと思います。
もし、読者の皆さんの中で、同じような悩みやお願い事をしている方がいれば、この中で出てくる父の言葉を参考にしてみてはいかがでしょうか?
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