第3祈祷者:本村たかし 難易度:★★★★☆
<祈祷者情報>
氏名:本村たかし
性別:男性
年齢:33歳
祈願内容:心願成就
1
神社にいらっしゃる方の目的は、人それぞれです。ただ訪れて境内を散策してお帰りになる方、境内にあるいちょうをずっと見ている方、絵馬を書きに来る方などなど。
そして、お願い事の種類も訪れる人の数だけあります。特に、祈祷申込書に「心願成就」なんて書かれたら、その具体的内容はまったくわかりません。祈祷を申し込まれる方で、自分の祈願内容にあてはまる項目がなければ、たいていの人が「心願成就」を選びます。心に願うことが成就することを願うのが心願成就です。心で願えることならなんでもいいんですから。
今回お話する方は、そんな心願成就を使った方の一人です。
早速、面談を始めました。
「ご参拝ご苦労様です。今回の祈願内容が心願成就とのことですが、具体的にどのようなお願いをされたいのか、伺ってもよろしいでしょうか?」
「痩せたいんです。そして、もてたいんです。」
痩せたい、とおっしゃっていたのですが、はっきり言って見た目にはそんなに太ってはいないんです。年齢相応の体型であり、痩せすぎでも太りすぎでもない、ちょうどいい体型なのです。
「痩せたいとおっしゃいますが、見た目には太っているようには見えないのですが・・・。」
「なら、なぜもてないのでしょうか?」
「女性に好かれないということですか?」
「俺にはこれまで彼女ができたことがない。これまで一度も。いわゆる、年齢=彼女いない歴です。」
「はあ。」
「彼女ができないのは、見た目が悪いから。俺は顔には問題がないと思っている。なら、問題は体型だ。」
「はあ。」
「君はどう思う?女性として?」
「はあ~。」
こう聞かれて、私はどう答えたらいいのかわからなくなってしまいました。
顔には問題がないとおっしゃっていたのですが、別にとり立ててイケメン顔なわけではありません。ごくごく普通の、何の変哲もない顔です。なぜそんなに自分の顔に自信があるのか、伺いたいくらいの。
ただ、男性にも女性にも、自分が好きだと思うタイプというのがあります。例えば、ロングヘアの女性がいいのか、ショートヘアの女性がいいのか、背が高いほうがいいのか低いほうがいいのか、茶髪がいいのか黒髪がいいのか、声は高いほうがいいのか低いほうがいいのかなどなど。この顔なら絶対、ということはまずありえません。アイドルだって、1人だけが人気が出ることはありません。複数の人が、それぞれに人気を獲得していきます。
だから、本村さんのような方が好みだと思う方もいれば、そう思わない方もいる。
まず、私はその事実を伝えてみようと思いました。
「私がどう思うのかはさておき、本村さんのような方を好む女性はきっといらっしゃると思いますよ。」
「俺が君に聞いているのはそういう事じゃない。この俺がどう見えるのか、と聞いているのだ。」
私は心の中では、次にように思っていました。
過剰な自信家、顔は普通のくせに妙に自信を持っている。自分のすごいところを押し付けてくる、一緒にいるとうっとうしいと思うようなタイプ。正直、一緒に暮らしたくない。仕事もしたくない。
だけど、これを伝えるわけにはいきません。なので、無難にこう伝えました。
「そうですね、ご自分をしっかりともってらして、伝えることができる方、と思いますよ。」
「それ以外には?」
「それ以外には・・・背が高い、とか」
「ほかには?」
「・・・声が大きい」
「ほかには?」
―――しつこいわ!
キレそうになるのを必死に抑えて、黙っているとこうおっしゃいました。
「それだけか。君は俺の一番の魅力に気が付いていない。それは、女性に優しいことだ。」
―――はあーーー!?何言っちゃってんの?頭大丈夫?
「俺は女性には優しく接しているんだ。食事に行けば必ず俺がおごる。俺はこれでも一流企業に勤めている。そして、席は必ず譲る。荷物は持ってあげる。」
―――カモにされるだけの男ってこと?
読者の中に女性がいらっしゃればわかると思いますが、こういった男性というのは大抵いいように利用されます。女性全員がそうではありませんが、多くの場合、こういった男がいれば、『まあ一緒に食事行けば食事代を出してくれるし、買い物とかいけば荷物も持ってくれるし、普段から一緒にいられるとうっとうしいけど、こき使えるから一応それっぽく対応して図に乗らせていいように使うか』と考えるのではないでしょうか。程度の差はあるにしても、こう考える女性はいると思います。
「俺の周りには女性がたくさんいる。だが、なぜか交際を申し込もうとすると、離れてしまうのだ。ということはだ、女性は付き合う段階になると相手の見た目を判断する。友達づきあいをしてくれるってことは、性格面では問題ないはずなんだ。だから見た目に問題がある。そうなったら、俺にできるのは痩せることぐらいだろ?」
「はあ。」
自信過剰な男性は多々お見掛けしますが、ここまでのレヴェルはなかなかいません。
―――どうしよ~手に負えないよ~
もうさっさと本殿に通して、父に何か言ってもらうのを期待するしかないのかな~とか思いました。
だけど、もうちょっと頑張ってみようと思い、本村様の過去を尋ねることにしました。
「本村様は幼少期からそういった感じなのですか?」
「俺の幼少期は黒歴史だよ。同性の友達は少なくて」
―――だろうな。
「いじめられたこともあった。でも俺は屈することはしなかった。」
―――へえ~
「大人になったら挽回してやろうと頑張った。高校の時には同性の友達より異性の友達を作ろうと思い、女子が話題にしそうなことを勉強した。そうすることで、女子集団に入ることができた。でも、彼女は作れなかった。同じように女子の集団にいるやつもいるのに!なぜか俺は同じようにはならなかった。挙句の果てにはきもいキャラにされた!」
―――納得。
「会社に入ってからだ、まともに女子に扱われるようになったのは。」
「今の会社でも、女性の知り合いのほうが多いのですか?」
「そうだ。男と一緒に群れていてももてんだろ?」
―――同性に嫌われているだけじゃないの?
「なるほど。」
「どうだ?俺のこの努力はすごいと思わないか?」
―――いいえ、まったく。むしろ逆効果なのでは?
とは言えないので
「そうですね。いろいろ苦労されたのですね。」
と無難なセリフを言っておきました。
「で、俺の願いはかないそうか?」
「ええっと、少々お待ちくださいね。」
そういって私は社務所の父のいるところに行きました。
「かなえおつ~。よくあんなの相手にできるね。私だったらぶん殴ってるわ。」
「そんなんだから、まつり姉さんは面談できないんでしょ」
「わかってるわよ」
「大丈夫だかなえ。彼を本殿にお通しして。」
父はどんな手段を用いて彼に話をするのか、すごく気になりました。
2
本村様を本殿にお通しすると、さっそく祈祷が始まりました。
祈祷が終わると、父は本村様にこういったのです。
「神様にお願いをお伝えいたしました。するとですね、あなたのお願いを聞くことができないといわれまして。」
「どういうことだ!詐欺か、この神社は!」
「いや、本村様に限らず、こういったことはままあります。神様とて、すべてのお願いをかなえられるわけではありませんので。」
「何と言っているんだ?」
「まつり、例のものを」
そういってまつり姉さんが持ってきたのは、先ほどの面談を録画していた映像でした。
「当神社では、ここでの面談の内容をこうして録画して神様にお見せしています。これをみて、まずご自身の態度を振りかえよ、と神様は言っていますので。」
「はあ?特に問題のある行動なんかしていないだろ?」
「まあ、まずは落ち着いてごらんになってください。神様がそうおっしゃっているのですから。」
そういって本村様に面談の様子を見てもらいました。すると本村様はこういったのです。
「おい、これ編集とかしてねえよな?」
「いいえ、一切しておりませんよ。」
「なんだよ、俺に喧嘩売ってんのか?」
「と申しますと?」
「俺がこんな嫌な態度とるわけねえだろ?こんなやつに女の友達ができるわけねえだろ?」
「そう見えましたか?」
「ただの自信家じゃねえか。俺がこんな自信満々な態度をとったつもりは・・・」
「神社がご家庭などに販売しているものに、丸い金属でできた円状のものがあります。まるで鏡のようなものです。お祈りをすると、その中に自分が写ります。お祈りするとき、実はその人は自分自身を見つめてお祈りをしているのです。鏡があって初めて人間は自分を見つめることができます。自分で自分を見つめることはできないのです。何か自分の願望をかなえたいとき、まずは自分自身を見つめなおす必要がある。なぜ自分にはかなわないのか。なぜ自分にはできないのか。その原因を探るには自分を見つめなおす必要があります。他人が言ってくれる自分像は、必ずしも正しいとは限りません。もちろん、他人からの評価も重要です。ですが、それがすべてじゃない。他人から言われる自分、そして自分自身で見た自分。この二つを重ね合わせて初めて、本当の自分の姿が見えてきます。神様はこうおっしゃっています。あなたが本当に女性にもてたいと思っているのなら、まずはありのままの自分をしっかりと見つめなさいと。そして、態度を改めよと。そうすれば、あなたの願いがかなう日も近いと。」
本村様はしばらく黙ってうつむいておりました。しばらくすると、父からお札を受け取りました。
「さっきは悪かったな。」
そう短く私に言って、そのまま帰られました。
その後、本村様からは何の連絡はありません。ただ、1年後私の友人で別の神社の巫女をやっている子から、その神社で本村様と思われる男性が、ある女性を連れて安産祈願をしていたという話を聞きました。彼はうちの神社に、ありがとうと伝えてほしいと言っていたということです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます