第2話

 お化け屋敷の前に着く。見た目は、どちらかというと遊園地に近いお化け屋敷であった。遊園地の中で遊園地に近いお化け屋敷を体験できるとはこれはいかに。今の遊園地の方がよっぽどお化け屋敷してるだろう。

 入口の門をくぐる。周りの禍々しい雰囲気がより強くなる。やはりここも普通のお化け屋敷ではないのだろう。

「何かピリピリとした視線を感じるな」

「えぇ、そうですね。視線の数や禍々しい雰囲気、そして遊園地という舞台設定。以上から推測するにアニマトロニクスが襲ってきそうな気がしますね」

「愉快なロボットに襲われてはとても愉快な気持ちになれないな。気をつけて進むぞ」

「はい、私も羽を齧られて死ぬのは御免ですからね」

「気の利いた冗談だな」

 いつもの軽い会話をしつつ奥へ進む。まだ何も出てこない。うねうねと何度か曲がった時であった。大音量と共に犬のようなアニマトロニクスが大きな口を開けてこちらへ襲いかかってきた。肩の上のポコから振動が伝わってくる。こいつは本当に驚かされるのが苦手だな。動けないポコに代わりアニマトロニクスから距離をとる。口の中は幾多ものワイヤーが張り巡らされており、噛み付かれては堪ったものではないだろう。

「走るぞ!」

 肩の上のポコに合図を送り、姿勢を低くし、アニマトロニクスの脇を抜ける。後ろから奇怪な叫び声をあげつつ、機械の体は追いかけてくる。ポコが落ちないようにそのまま走り続ける。全力で走れば問題なく逃げ切れるような相手ではあるが、肩の相棒がこの調子なので流石に全力で走るわけにいかないだろう。犬のアニマトロニクスにばかり気を取られていたが、正面では兎のアニマトロニクスが口を大きく開けて両手を広げて待ち構えていた。横に飛び跳ね、なんとか兎の抱擁を避ける。ポコを影の中にしまうことができれば話は早いが、その一瞬の隙すら今は惜しい。前方に兎。後方に犬。さぁどうする。

 先に動いたのは後ろの犬だった。大きく口を開けてこちらに突撃してくる。肩の上のポコを抱きかかえ、そのまま跳躍する。犬の頭頂部に着地し、続けて前から突撃してきた兎の頭頂部に着地し、そのまま兎と距離を取りつつ、兎の後ろへ跳躍する。なんとか包囲網は抜けた。このまま逃げつつ順路を進むべきだろう。動けるようになった相棒を肩に戻し、全力で走り抜ける。

 犬と兎から大きく距離を離しつつ走り抜ける。ゴールと思われる扉が見えてくる。あと少しで扉、というタイミングで扉を防ぐように熊のアニマトロニクスが降ってきた。

「くそっ。あと少しだったのに」

「落ち着きましょう。後ろから犬と兎も来ます」

「そうだな。とりあえず偵察を出そう」

 ポケットから一枚のカードを取り出し、元来た道の方へ投げる。投げたカードは烏の形となり、入り口を眺め続ける。これでとりあえず犬と兎から奇襲されることはないだろう。ガチガチ音を鳴らしつつ、熊がこちらににじり寄ってくる。同じ間隔で距離を取る。このままでは拉致があかない。脇を抜けるか、それとも……。

「ハルナ! 上です!」

 ポコの呼びかけで上を見る。照明。なるほど、照明か。ポケットからもう一枚カードを取り出し、照明を固定する金具めがけ投げる。照明が熊めがけて落ちる。今がチャンスだろう。脇を抜けるべく走り出す。しかし、熊は自分が潰れることも御構い無しにあたしの脚を掴んできた。時を同じくして偵察の烏が鳴きながらこちらに戻ってくる。犬と兎が追いついてきたようだ。くそっ。時間がない。脚を掴む力は思いの外強く、あたしの腕力では振り解けそうにない。魔法か魂喰か。

 犬と兎の影が見えてきた。時間がない。消費は荒いが、魔法で全員薙ぎ払った方が早いだろう。

「冷たき遺志よ、今、吹き荒ぶ嵐となり、現世に轟け! 疾れ! アサルトブリザード!」

 足元から暴風雪が巻き起こる。そのまま熊、犬、兎と順に巻き込むように暴風雪は大きくなる。脚を掴む力が弱まった。今のうちだろう。振りほどき、出口の方へ走り出す。

 三体のアニマトロニクスの猛攻を凌ぎきった。出口の扉を閉める。これでしばらく心配ないだろう。扉の先は遊園地の退園ゲートのような構造だった。ここのどこかに鍵があるのだろう。鍵を探す。ゲートの裏に小さな箱があり、どうやらこの中に鍵が入れられているようだ。箱を開け、鍵を手に取る。その時だった。何かの記憶が頭に入り込んでくる。


「今日もママ、こないね。ねーねー、クマさん、ウサギさん、ライオンさん、ママはいつ来るの?」

「あ、おねーさん! ママはいつお見舞いに来るの?」

「明日には来るって連絡があったよ。明日までの辛抱だね」

「うん!」

「よし! それじゃ、お姉さんとお人形さんで遊ぼう!」

「おねーさんはライオンさんのお人形ね!」


「……ハルナ!ハルナ!」

 ……今のは?

「ハルナ!しっかりしてください。鍵を取ったと思ったら突然ぼんやりし始めて」

「あぁ、すまない。突然頭に誰かの記憶が流れてきてな」

 一瞬の記憶ではあったが、確実に流れてきた、その光景をポコに伝える。

「ふむ、鍵を取った瞬間にハルナの記憶に流れ込んできたのが気になりますね。この施設にハルナを呼んだ何者かと関係があるのでしょうか」

「あるはずなんだけどな。あたしの記憶ではあのような記憶もない。しかしここで意味もなくあのような記憶が頭に入って来るわけがないだろう」

 考えていても仕方なさそうだ。次に行こうとポコに提案し、ゲートをくぐり外に出る。

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