古びた遊具に悲しき思念を
けねでぃ
第1話
久々にこの世界に戻ってきた。別の仕事が忙しく、顔を出す余裕すらなかった。特に呼び出されるような案件もなかったようだが、この世界はどうにも定期的に顔を出さないと心配になって仕方ない。地に足をつけ、現在地を確認する。あたしの予定ではいつもの高層ビルの屋上に着くはずだったのだが、どうも予定通りにはいかなかったらしい。右肩に止まる相棒も何か違和感を感じたらしく、声をかけて来る。
「ハルナ、この異様な雰囲気は一体何でしょうか? それに、ここは?」
「あたしの目に狂いがなければ、廃れた遊園地に見えるが、さぁお前はどうだ、ポコ」
「奇遇ですね、私もここが遊園地の類だと思っていました。しかし、いくら逢魔時とは言え、ここまで暗いものですか?」
「いや、もう少し日の光を感じるはずだが」
入場口と思われる、正面ゲートの奥に見える観覧車を照らす光は逢魔時だということを考えてもあまりに暗く、頼りないものであった。ここはどこだ?
「ポコ、ここはいつもの場所なのか?」
「はい、そうだと思いますが、一応空から確認しましょう」
そう言うと、彼は空高く舞い上がる。その様子を下から眺める。こちらも辺りを見回すが、見慣れない光景ばかりで、どうにも地上から見るだけでは何も分かりそうにはなかった。そうこうしていると、空からポコが戻って来る。
「遠くに残雪達の拠点が見えました。その奥にあるリリーが勤めている会社の影も見えました。おそらくちゃんといつもの世界に辿り着いています。少しだけ転移先が北にズレたようですね。初めてですね、このように転移先がズレるのは。何かあったのでしょうか?」
「久々にこの世界に戻ってきたというのに、早々トラブルに巻き込まれてしまったようだな。この場所に転移したということは、おそらく何か意味があるのだろう。残雪の所に顔を出して、態勢を整えてからもう一度調査をしに来よう」
そう言い、遊園地を後にしようと歩き出す。少し歩くとガツンと見えない壁にぶつかった。いてぇ。
「なんだ? 結界か?」
「かもしれませんね。この壁がある以上外には出られません。この壁を調べましょう。超えられないと分かればこのまま遊園地の調査に向かうしかないでしょう」
そうだな、と声をかけつつ壁を調べる。触ってみてもそこには冷たい壁があるだけで何かが反応するわけでもない。試しに蹴り飛ばしてみたが、ヒビが入る気配もない。ならばと鎌、金属バット、ベース、各種属性の魔法、魂喰の衝撃波、といろいろ繰り出して破壊を試みたが、どうにも壊れる気配もない。ポコの方が遊園地の周りを一周回ってきたようだが、ぐるりと一周壁ができているようだ。ラナンのいる世界への転移も考えたが、転移自体が封じられている。つまり、この遊園地の謎を解かなければこの謎の空間からは出られないというわけだ。
「ふむ、どうやらここに転移させられた挙句、出るためにこの壁をなくさなければならないときた」
「そうですね。まずは遊園地の中を探索しましょう。ここに転移させられた以上、この中に答えがあるはずです。その答えを見つけ出しましょう。なに、いつものことではありませんか。私達ならなんとかなります」
「まぁ、そうだな」
肩の相棒と共に雑談をしつつ、ゲートをくぐる。入場料を払っていないが、招待制のこの遊園地に入場料もへったくれもないだろう。
入場ゲートをくぐる。ようこそ! と様々な言語で歓迎を受ける。外国からの客も取り入れようと躍起になるのはいいが、一見さんお断りのこの遊園地に果たしてこのアナウンスはどれほどの意味があるのか。ゲートを抜け、真っ先に目に入ったのは豪華な装飾のメリーゴーランドであった。入場ゲートの目と鼻の先にメリーゴーランドがあるということは、ポコの報告通り、あまり大きい遊園地ではないのだろうか。ゲート近くに置いてあるパンフレットを手に取り、中身の概観を把握する。外周を囲むようにジェットコースターが走っており、右手には大きなお化け屋敷と思わしき建物がある。ゲートの外から見えた観覧車は左奥に居座っているらしい。観覧車の手前には売店とコーヒーカップがあった。先程から異様な雰囲気を放っている左手の子供遊園はゲートのすぐ近くにある。
「さてハルナ、どこから探索をしていきましょうか? 時計回りに一周回るのか、反時計回りに一周回るのか」
「とりあえず、反時計回りに行こうか。左手にある子供遊園は最後まで探索したくない」
「貴女にしては珍しく弱気ですね。私はああいう怖い雰囲気を放つ場所は最初に探索してしまいたいと思ったりもしますが」
「修羅場が想定される場所は最後に行かないとイベントが発生しないのが所謂お約束というやつだろう? ほら、メリーゴーランドを見てお化け屋敷を覗きに行くぞ」
そういいつつ、渋る彼を放置し、メリーゴーランドへ向かう。
メリーゴーランドについた。中に入る扉には鍵がかかっていた。鍵は三つついており、これらを解錠しないと中に入れそうにない。
「三つ、ということは鍵のあるアトラクションとないらアトラクションがあるようですね。つまり鍵のあるアトラクションを回り、鍵を回収しなければならない、ということでしょうか」
「そういうこと、だな」
よくあるホラー探索ゲームならそれがお約束だろう。しかし本当にそうだろうか。鍵の色とパンフレットを見る。青、緑、黒と、パンフレットのアトラクション紹介ページの色と鍵の色が一致している。これは決まりだろう。
「鍵の色とパンフレットの枠の色が同じだ。おそらく、色に対応した鍵を見つけてこい、という話だ。お前の予想通りだ、ポコ。このままお化け屋敷に向かおう」
「そうですね」
余計なものが出ないといいですが、と続けるポコ。死神とその眷属である以上、あたしたちの方がよっぽどその余計なものに近いと思うがな。
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