第5話

 アイラが起きて来たのは、09:30頃。因みにリュカの散歩に行ってきたのが朝の7時。アイラは2時間弱眠っていたことになる。

 起きてきたアイラになるだけまともな飯を、と思いご飯、味噌汁、目玉焼きという感じの朝食となった。

 我ながらいい出来ではあると思う。

 リビングのダイニングテーブルに座り、朝食が並べれられるのをみていたアイラは準備ができるまで何度もぐぅと腹を鳴らしていた。いざ食べるとなると、最初は少し遠慮していたらしいが、途中からはガツガツ食べはじめた。大分腹が減っていたらしい。

ちなみに、箸はやはりといっていいのか、使えなかった。かわりにスプーンとフォークは大丈夫だった。

「これはなんですか?」

「目玉焼。それは卵を焼いたヤツ。醤油かけてね。」

「たまごにそんなたべかたあったんだ…」

「美味しいか?」

「はい!」

 なんとも元気な返事で助かった。


 あの後、ご飯を作りながら考えた。もしも。もしもの話だけれど、俺はこうじゃないかと思っている。少女は異世界から転生転移してきたと思って間違いないんじゃないかと。外国人であった場合、言語が一緒というところからおかしい。あ、日本人じゃないって思ったのは、明らかに日本人でも知ってるような電化製品とか、色々を知らなかったからだし、第一見た目からして違う。でも、まぁアイラに聞かれるものも、海外でだって見たことあるはずだ。よっぽどの箱入り娘か、それとも…?

 話を戻して、言語の話だ。いや、異世界でも言語一緒なわけないじゃん、って思うけどさ。ほら、異世界転移系の小説って、大体そうでしょ?初期装備ほんやくこんにゃく的な。それに、アイラが言っていた、口の動きと言ってることがあってないってやつ。それ、これのことじゃないの。翻訳機能。文字も、一瞬理解できないけど、すぐわかるようになるって。これ明らかにそうでしょ。アイラが嘘をついているわけじゃないと信じたい。

 あとは、さらに見るものすべてに好奇心を抱き、これは?と聞く姿はからかっているようには見えないから。普通に生きていれば大体目にするはずのものすべてに少女は反応する。

 極めつけは、あの模様。入れ墨?でもあの年の子供に入れ墨ってヤバくないか。模様も、なんか、こう魔方陣とかに描かれてそうな感じだし。シールとかって思ったけど取れないし、聞けばどうやらその模様を叔母がつけたそうだ。それは何となく話の中で分かった。あと入れ墨でもないっぽい。

 ここで中二発言をするとすれば、何かの実験に巻き込まれた少女で、今まで実験室から出たことはなく、監禁されていた___んでそっから抜け出しておばあちゃんのもとで最近まで暮らしてたけどおばあちゃんが死んでしまって…とか。…うん、無理がある。

 

 でも、でも。俺は別に今まで異世界から転移してきた人と会ったこともないし、そんな話リアルで聞いたこともない。おかしいだろうか。こんな小さい子どもが言った、知らない地名を信じたり、口パクが違ってるとか。


 うん。

 多分、この子が異世界から来たなんて、きっと俺の願望とか妄想とかの塊なのかもしれない。怖ぇな。

 そう、そもそも国の名前聞いただけで判断してるのがあやふやなんじゃないか。もう少しアイラに色々聞かなきゃならない。


 あの後、抱きしめてからアイラの俺に対する態度の軟化は目を見張るものがある。ちょっと無理してない?ってくらいだ。もともと明るい少女なのだろうか。いや、にしてもさっきとは雰囲気が違う。にぱっと笑う顔は愛らしいし、途切れ途切れだった敬語もしっかりしている。語尾も、行動も元気!って感じだ。先ほどのアレは恐怖とか、そういうもののせいだったのだろうか。かわいい。かわいいけども。アイラにとって、安心していい人だと思ってもらえたのだろうか。


 テレビのほかにも電子レンジとかスマホとか知らないものに対して、これなに?っていう質問攻めだった。好奇心旺盛。まるで恐怖など忘れてしまったようで。特に電化製品辺りの興味がすごい。

「ここはどこですか?」

 ご飯を食べながら聞いてくる。さっきと同じ質問だけど、多分あのとき余裕なかったんだろうなぁ、って感じがする。この子、恐らくだけど頭が良い。一度言ったことはちゃんと覚えている。たくさん質問されるけど、同じ事は聞かれない。それだけじゃないけど、会話してて、あぁ頭いいんだろうなと感じるのだ。

 それだけど忘れたってことは、それだけ朝の挨拶の時動揺していたってことじゃないんだろうか。恐怖とか、驚きとかは感じたけど焦りなどはみていてくみ取れなかったからわからなかったけど、そうだよな、流石にてんぱるよな。あんな状況。

「ここは、日本って場所。」

「にほんってきいたことないです。」

「アイラちゃんがいたところって、えーっと。スロニ、だっけ」

「そうです。わたし、いいましたっけ。」

「さっきね」

「そですか。でも、なんでわたしにほんにいるんでしょう」

「それは俺もわからない。道路で倒れてたんだ。」

「どうろ・・・」

 ぱくり。アイラが目玉焼きの黄色い部分を食べた。朝食も残りわずかだった。

「アイラちゃん何かやりたいこと、ある?」

 朝食のあと、どうしようか。アイラと話したいことも多いが、朝の様子を見ていると、質問攻めもあんまりよくない気がする。

 あと、まあ、俺はぼっちなんで。予定なんかないんです。もともと。

「えっと……にほんってくにをみてみたいです!」

「ん。わかった。とりあえず、家の外、行ってみるか」

「はい!」

 まぁ多分大丈夫だよな。倒れていた道とか行ってみたら、何かわかるかも。もしかしたら、誰か迎えにきたりとか……いや。

「あ。あの、」

「ん?」

「わたしのこと、アイラってよんでください」

「アイラ?」

「はい!」

 にぱっ。花が咲いたような笑顔とはこのような笑顔のことを言う。

「わかった。じゃあ外に出て散歩でもしてみよう、アイラ。あ、じゃー俺も敬語はやめてもらえるかな?堅苦しいのは苦手だしね」

「はぁい!」

 はいはまぁ敬語だけどまぁ。笑ってから、朝食の片づけに取り掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る