楽しかった大地

堀越葵

楽しかった大地

あの空き地に行ってみないかと言い出したのはガンちゃんだった。昔から腰巾着で変わらないマサオが応じる。懐かしいね!でもなんでまた? いや別に。ただなんとなく見たくなって。ポツリとガンちゃんは言う。お会計をしてください、と店員を呼んだのは僕だった。なら急いで行こうよ、と席を立つと、ガンちゃんもマサオも少し驚いた顔をしたけれど、すぐにめいめい、わずかに残ったビールを飲み干して立ち上がった。



僕たちは小学校来の友人で、出会ってからもう20年以上になる。今日は久々の集まりで、近況を聞いた。ガンちゃんには去年子どもが生まれて、マサオは海外転勤を控えているそうだ。僕も、もうじき結婚する予定でいることを報告した。なんだ、まどかちゃんじゃないのか、と、小学校時代に僕が憧れていた女の子の名前をあげて混ぜっ返してくれたのはマサオだったけれど、僕は苦笑で答えるしかなかった。僕とまどかちゃんはもう10年も会っていない。そのことをいちばん寂しがってくれているのは多分マサオだった。



電車を二回乗り換えて、駅からは歩いた。道中、皆なんとなく言葉は少なかった。

空き地、もう何年行ってないだろう。僕がつぶやくと、ガンちゃんは、俺は5年は来てない、と答えた。意外に昔のことではなくて驚く。ガンちゃんは言い訳のように言う。実家には帰るだろ、そのとき時間が余って、ついでに来たんだよ。

ユイちゃんが大きくなったら、連れてきたらいいじゃない、とマサオが言う。僕も大きくうなずいた。うちの子と遊ばせようよ。まだ影も形もないけれど。ガンちゃんは笑ってくれる。

今の子は空き地で何して遊ぶんだろうな。さあねえ。DSだって聞くけど。なんで空き地でわざわざゲームするんだろうね。どろけいでもしたらいいのに。俺たちみたいに?うん、僕たちみたいに。マサオ強かったよね。ユウタが弱すぎたんだろ。はは、違いないやーー。



そんなことを話して、少し心強い気持ちになりながら歩いた。でも、見慣れた懐かしい角を曲がったところには、見慣れぬ建物が立っていた。僕たちは建物の前に立ちつくす。


道間違えたのかな、と勇気を出して言ったけれど、そんなわけではないことはみんなわかっていた。今まで空き地だったほうが不思議だったんだよな。マサオが言って、それから沈黙が続いた。


ガンちゃんのほうを見た。いちばん長く空き地にいたのは彼だっただろう。ガキ大将の鑑みたいだったガンちゃん。その強さに僕はいつも怯えて、でも眩しかった。ガンちゃんは本当にスーツが似合わないな、と場違いに思った。


俺たち、楽しかったよな。ガンちゃんは小さな小さな声でそう言った。

さっきの店で、俺父親になったんだよ、と、見た夢の話みたいに言ったガンちゃん。



冷えたね。もう一軒どうだい、熱燗でも。できるだけ明るい声で僕は言った。

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