After The BLACK Apocalypse
楽猿水菓子軍団(略称R.M.G)
サブエピソード「悪魔の箱」
霧の立ち込める小さな町の調査開始から3日。事前に聞かされた情報どおりにこの寂れた小さな町は最初の静かで住みよい印象とは違って危険な場所であった。我々がこの町の調査に抜擢されたのも頷ける。彼は正しい判断をした。
既に我々は4体ものミュータントに遭遇、戦闘を行いこれをなんとか全て撃破することが出来た。しかし我々はすっかりこの町の寒さと静けさに参っていた。寒さは確実に我々の体力を持っていき、あまりにもしんとした静けさはどんな些細な音も我々の耳に届け精神をすり減らす。まだミュータントがいる可能性がある限りほんの小さな音が我々の心をざわつかせる。
だが今日はほんの少しだけ良い日になりそうだ。なぜなら使えそうなオーパーツを発見したからだ。我々が今回発見したオーパーツのほとんどは長い年月が経ち故障しているものの方が多く何度もぬか喜びさせられたがようやくそれがほんの少しだけだが報われた。
この箱のようなオーパーツはまだ使い道が分からないがソーラーバッテリーで電気を流してやると動くのは確かなようだ。この箱が少しでも我々の役に立ってくれればいいのだが・・・
After The BLACK Apocalypse
サブエピソード「悪魔の箱」
遠い未来の地球。そこで「黒い終末」と呼ばれる事件を経て卓越した科学技術で事実上地球を支配していたと言える人類のほとんどは姿を消し文明は滅んだ。だがその高度に発達した科学遺産(オーパーツ)と共に残された僅かな人類はそれを手に取り生き残るための戦いに身を投じたのである。争いの時代が始まったのだ。ミュータントと呼ばれる恐ろしい全生命体の敵や、モヒカンのような無法者集団、時には手を取り合うべき人どうしで争い、生存圏を伸ばしゆき、吹き消されそうになった人類の歴史を繋ぎ止めたのであった。
その「黒い終末」から数百年後。かつての繁栄には遠く及ばないが人々の生活は少しだけ持ち直した。しかしあらゆる力が試される争いの時代の残り火は未だに燃え盛っている。そんな中目覚めた謎の記憶喪失超人少女マージィはタフな傭兵の男ライアンに一人で生きていく術を学びながら共に様々な依頼をこなし自分の記憶と家族を探してこの危険な世界を旅をしていた。
そんなライアンとマージィはかつての繁栄と平和を取り戻すため人類の生存圏の拡大などの活動をしている集団の一つ、「開拓団」から荷物の輸送の依頼を受け最北端活動拠点に赴く途中である。
バイクのサイドカーに乗っているボロい耳あてとマフラーを身に着けている黒い髪の少女マージィは流れる寒々しい風景をぼんやり見つめていた。その右腕にはボロ布が巻きつけられている。そして彼女はライアンにぼやいた「似たような場所ばっかで飽きてきたなぁ・・・」バイクを運転しているグラサンをかけ防寒着を着込んだ男ライアンは鼻をすすりながら言った「ズズッ!もう少しで着くから、ハ、ハクショイ!チクショウ!あっやべえぜこりゃ!大惨事だ!なんか拭くものくれ!」ライアンの顔に盛大に吹き出した鼻水が張り付いた。それを見たマージィは露骨に嫌そうな顔をして言う「うげぇ・・・汚い!」ライアンも凄く嫌そうな顔をして言った「そんなこたぁ分かってんだ!早くくれ!」鼻水を垂らしながらこっちを向いて喋るライアンにマージィは思わず身体を引いた「わ、分かったから喋らないでね。鼻水がこっちに飛ぶ・・・」マージィは手短なものを渡そうとサイドカーを探したが見当たらない「ライアン、こっちには無いから一回バイク止めよう!そっちの荷物にあるかも」
・・・そしてバイクを止め本格的に拭くものを探し始めたライアンだが結局手頃なものは無かった。それどころかライアンはもう一度豪快なくしゃみをしてさらに気の毒な顔になってしまったのである。このままライアンは鼻水を顔に貼り付けたまま開拓団の拠点へ向かうのだろうか?否、ライアンはマージィを見て一つ閃いた。「よぉマージィ。その、悪いけどな、そのマフラーくれ」「え・・・?」ライアンは困惑するマージィに手を差し出す「マフラー、くれ。ズズッ!」「や・・・ヤダヤダヤダー!私のだもん!」マージィはその手を払い除け後ろに下がる。「いや、俺も悪いと思ってるぜ?けどな、このまま仕事すんのはな、評判にだな・・・」
傭兵にとって評判は仕事量に直結する重要なことである。だが今回のライアンの場合はもっともらしい言い訳の意味合いが強い。それを見越してマージィはハッキリ言う「嫌だ!だったらあそこにいるイヌで拭けばいいじゃん!イヌが可哀想だけど!」「イヌ?」
ライアンは素早く振り返りマージィの指差す方を見る。確かに離れたところに犬がいた。「ずっとあそこで大人しくしてるから大丈夫だよ」「うーむ、そのようだが」ライアンは腰に吊るしてある拳銃から手を離し双眼鏡で観察する。「マージィ、ちゃんとあのイヌを見たか?」「ううん、ちらっとだけ。近づいてきたら音で分かるし大人しそうだから放っておいたけどマズかった?」マージィは自分の五感を人間より遥かに鋭く使うことが出来る。ついでに言えば感覚だけではなくその身体能力も人間から遠く離れているのだ。彼女にかかれば距離があったとしても犬の足音を聞き取ることぐらいは朝飯前だ。
ライアンは言った「マズイってことは無いが・・・まぁよく見てみるんだ」マージィは肉眼で見る「・・・なんか変な姿勢だね。それに大人しいって言うより元気が無いみたい。大丈夫かな?」犬は上半身だけ伏せて、まるで地面の音を伺っているような姿勢でジッとしている。ほどなくして犬は起き上がり目の前の岩を見つめてた「たぶん大丈夫じゃないぜありゃ。あれで鼻水は拭けん」ライアンは袖で鼻水を拭って腰の拳銃を抜きガチャリとスライドを引いた。
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「注意、この曲がり角の先に何かいるぞ」調査開始から6日目。先頭を歩いていた我々のリーダー、コーカサスが皆を止め曲がり角を覗きその何かを注視している。静かに待機しているとカキッ、カキッ、カッカッカッといった小さな音が我々の耳にも届いた。些細な音だがこの田舎町であったであろう場所ではよく響く。
他の2人に目を移すと彼らはまたミュータントか・・・といったうんざりした顔であった。そのとき私も同じ顔をしていたに違いない。そして彼らと目配せした結果、私がリーダーから悪いとニュースを聞き出す名誉ある役割をこなすことになった。
「リーダー、何がいるんです?」私はリーダーの後ろに付き静かに聞いた。答えは分かりきっている、ミュータントで間違いない。だが返ってきた答えは意外なものだった「イヌだったよ。しかしどうにも妙な動きをしている」「えっイヌ?犬型のミュータントですか?」「いや、少なくともミュータントではないイヌだ。見てみてくれ」リーダーに言われるまま私は曲がり角から顔を出した。確かに少し離れたところに犬がいた。しきりに地面から生えた錆びた電灯を噛み、足元の割れたコンクリートを掘ろうとしている。一心不乱にやっているのが少々不気味だが、なるほどこれで合点がいく。先程から聞こえていた音の正体はこれだったのか。
「一体あのイヌはなんであんなこと繰り返してるんでしょうか?」私は率直な疑問をリーダーに投げかけた。リーダーはうむと腕を組み答えた「俺の憶測だがあのイヌはなんらかの病気ではないだろうかと思う。昔に似たようなのを見たことがある。目つきも怪しいし、あのよだれをダラダラ垂らした口元なんかはそっくりだ。どれ、ここで一つ、あることをすればあのイヌは恐らく特徴的な反応を示すと思うがやってみるか?」
私はあることとはなんだろうと思ったが嫌な予感がしたので他の2人に任せることにした「いえ、リーダー。ここは自分よりも暇そうにしているやつが2人もいますからあいつらにやらせてはどうでしょうか?」私は後ろにいる2人を親指で示す。そこにはミュータントではないことが分かって少々気が抜けている2人がいた。リーダーはそれを見て少し口角を上げて言った「うむ、それもよかろう」リーダーが2人を呼びつける。
今にして思えばリーダーがあのような結果になると分かってイヌに意地の悪いことしたのは精神的に疲弊してきた我々に対するちょっとした息抜きのつもりだったのかもしれない。それを受け入れた我々もそして提案したリーダーもやはり疲れていたのだろう。
リーダーから命令を受けた2人はすぐに配置についた。外骨格スーツを着ているヘラクレスがイヌの前に行き、もう片方のカブトが建物の二階からアサルトライフルを構えて犬を狙っている。獰猛に吠える犬は向かってくるヘラクレスの腕に飛びつき噛み付く。さすがにヘラクレスの外骨格の鎧があればなんということはない。ヘラクレスは犬を振り払って落とす。すぐに犬はヘラクレスの足を噛み付いた。だがただの獰猛な犬ではミュータントの攻撃に耐える外骨格相手では傷一つ付けることは出来ない。だが犬は狂ったように何度も噛み付いた。
ヘラクレスはそんな犬を無視して水筒を取り出し、落ち着けよと言わんばかりに中身の水を上から犬の頭にかけてやった。するとどうだろう。あれほど獰猛な犬が噛むのを止めて後ずさったのである。突然頭に水をかけられてびっくりしたというわけではないようだ。「あれは・・・怯えているんですかね、水に」私にはそのようにしか見えない。リーダーが答える「うむ、あの反応で確定した。そういう病気なんだ、あれは。狂って水を怖がる」
リーダーはPDAを取り出し通信でカブトに指示を送った。「余興は終わりだ。撃ってくれ」「了解、リーダー」カブトは2階の窓から犬の胴体に狙いを定めて引き金を一度引いた。ターンッ!発砲音とともに犬は短い悲鳴を上げ地面に倒れる。リーダーと私は犬の元に行く。歩きながら私は少しだけため息をついた。どんなときでも犬を殺すのは嫌な気分になる。
犬に近づいたリーダーが言った「仕損じたな、カブト。まだ息があるぞかわいそうに」リーダーは拳銃でぜいぜいと苦しげに息を吐く犬の頭を狙う。犬が私を見つめている気がした「狂ってしまったのが運の尽きだったな。こうなっては殺すしか助けようがない」そう言うとリーダーは引き金を引いた。
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寒い風が吹く中、それに揺られる炎をマージィは悲しげに見つめていた。この炎の中では先程発見した犬、その死体が燃やされている。ライアンがマージィの肩に手を載せて言った「マージィ、仕方ないことなんだ。狂犬病の末期症状じゃどうにもならん。俺達にとってもマジで危険だからな。しかもとにかく苦しいらしいから早く楽にさせてやったほうが良いんだよ」マージィは言った「・・・うん、分かってる。行こう」マージィ達は燃え尽きた犬を背後にバイクへ歩き出した。
狂犬病、それは感染症の一つで人にも感染する。主な感染経路は感染した哺乳類からでこれらに噛まれ、感染し、発症すると現代の医学では治す手段がなくほぼ100%死に至る恐ろしい病である。ライアンはこの末期症状に苦しむ犬を助ける手段が無く、またこの場所が開拓団の拠点から近いことから犬を狙撃で一発射殺し、火葬したのだった。
バイクが動き始める前にマージィは最後にもう一度だけ振り返り燃え尽きた跡を眺めた。
その1終わり
その2
「ご苦労だった傭兵。確かに荷物を受け取った、とあっちに連絡を入れておく。報酬はあちらで受け取ってくれ」開拓団最北端拠点到着したライアン達は荷物の輸送を終えたところであった。彼らの目の前でPDAをいじって連絡をとっているのはこの最北端拠点長であるミヤマだ。ガッチリとした体格のおかげで両手でPDAを操作する様が妙に縮こまった姿勢で滑稽である。PDA操作より無法荒くれ者野郎のモヒカンと殴り合いをしているほうがとことん様になるタイプだ「ふぅ連絡終わり!このPDAはボタンが小さくて困る」
そしてミヤマがPDAから顔を上げるとニヤリとして言った「しかし傭兵ライアン、あんたの噂本当だったみたいだな」腕組みしてPDAを操作する様を見ていたライアンは片眉を釣り上げる「ん?噂?俺が真面目な働き者で最近成果も上げて儲けまくってることか?」ミヤマは笑いながら返す「バカ、違う!子連れ傭兵ってことだ!こんな辺境拠点まで噂が来てるぞ!マジでガキンチョ連れてやがるとはそういう性癖か?ああその、ペドフェリアとか・・・まぁ深くは聞かねぇし聞きたかねぇけどよ」ライアンが即座に言葉を返す「バカ、違う!本人に頼まれたんだよ!冗談キツイぜ!まったく俺にはちゃんと大人でレディなセクシーワイフがいるっての!」「・・・まぁそんなことより、だ。傭兵、仕事を頼めるか?」
ミヤマの顔が真面目になった。ライアンはまだ言い足りないがミヤマに合わせて真面目な顔を作る「ほほう?わざわざ拠点長様が荷物の受取に来やがると思ったらそういうことか。内容と報酬は?」ミヤマは懐からざっくりと手書きで描かれた地図を取り出し示す「俺達が一ヶ月前ほどに新たに発見したこの小さな町、このポイントで4人の調査隊の安否を確認していもらいたい。連絡が途絶えてから3日経っているんだ。報酬も弾ませるし、見つけたオーパーツも自由に持っていってくれて構わん。なんせまだ手付かずの町だから激レア物があるかもしれんぞ。悪くないだろう?」「なんでお前達が行かないんだ?」「そう言うと思ったよ。最近モヒカンの襲撃が激しくて人員が割けんのだ。お前がたった今運んできた物資も対モヒカン用ってわけだ」「更に一つ。いやに気前が良いのが怪しいぜ」「ま、その分危険ってこった。この町を発見した奴の報告によるとミュータントが数匹確認されている。さらにそこに送り込んだ4人の調査隊はこの拠点一の手練達だ。まぁ全員発見しろとは言わん。1人でも見つければ充分だ。危険だと思ったら逃げてくれたって文句も悪評も言わん。なんなら町の様子をちょっと見てくるだけでもいい。どうだ?」
ライアンは腕を組み直しわざとらしく悩む「でもよー、俺ペドフェリアとか言われたしやる気出ねーよなー。もうちょっと報酬上乗せしてくれたらやる気出るかもなー」「・・・ええい!先払いだ!持ってけ!」ミヤマは腕につけていたミドルグレードバリアシールドをライアンに投げ渡した。ミドルグレードのバリアシールドはエネルギー貯蓄量、シールドの硬さ、共に悪くないし高く売れる。ミュータントの攻撃も2、3発なら耐えられるだろう。ついでにソーラーパネル付きだ。ライアンはそれを受取り親指を立てて嬉しそうに言った「あんたが大将!乗ったぜ!」
ミヤマと話がつきライアンは軽い足取りで拠点の入り口に停めておいたバイクに乗り込みサイドカーで見張りをさせておいたマージィに言った「マージィ、仕事が終わってさっそくだが仕事だぜ」頬杖をついてぼんやり風景を眺めていたマージィは言った「ねぇペドフェリアってなに?」ライアンは内心ギクリとした!(こいつの耳の良さを侮っていた・・・聞こえていたか・・・!)だがそれを全く出さずにピシャリと言う「知らんでよし!さぁ行こうぜ!」ライアンはアクセルを吹かしバイクを発進させた!
そして町へ赴くその道中、またしても風景眺めるのに飽きたマージィがポツリと言う「そういえばライアン奥さんいたんだね。どんな人?」ライアンは即答する「美人でボインだ!」「・・・今回はなんかライアン下品。それで今はどこに居るの?そんないい人放ったらかして仕事ばっかりじゃ逃げられるんじゃない?」僅かだがライアンの眉がピクリと動いたのがマージィには分かった。だがティアドロップサングラスの下でライアンがどういう目をしているのかまでは分からない「この目で確かめてはいないが、今はもう死んでいるはずだ」思わぬ解答にマージィは気まずくなる。今までなぜ話してくれなかったのかが分かった「あ・・・ごめん」「気にするな!さぁそろそろ町が見えてきたぜ!」
彼らの前にある霧がかった町並みが近づくにつれその輪郭が鮮明になっていった。新たな獲物を歓迎するかのように。
その2終わり
その3
調査開始から13日目。8日目の犬型ミュータントを殲滅して以来、パッタリと奴らに出会うことが無くなった。今は只々静かだ。あと数日ほどでひとまず帰ることになるだろう。今日もこの新たな拠点となる場所で一足先にゆっくりと火を囲み、温かい飯を食うことにしよう。
調査開始から14日目。特記項目なし、というのは悲しいものだ。良いこともなければ悪いこともない。0か1かの状況の方が多い生活でこういう場合は不慣れで退屈なものだ。
あえて無理やり特記するならばこの町が最初に比べて安全だということを発見したということと、ヘラクレスが昨日箱を使えないのが原因で少し不機嫌だったことぐらいだ。
調査開始から15日目。どうにもこの町は霧が深くソーラーバッテリーの充電が貯まりづらい、ということが分かった。連日天気が悪いのも影響しているだろう。
そのおかげで1人分しか箱を使うことができなくなった。ヘラクレスやカブトには辛いことなのだろうか、箱の使用権を取り合いしている。私はというとどうしようもなく雪を食べていた頃に比べれば今のままでもマシなので取り合う彼らを傍観している。もう少し我慢すればいいのに元気なものだ。
調査開始から16日目。箱のせいで皆が狂った。ささいなことで喧嘩して、リーダーも様子がおかしい気がする。とにかく私はこの箱を皆が寝ているうちに処分しよう。こんなものがなくたって我々は乗り越えられる。
「このPDAに残された日記によるとこの女、登録されている名前は・・・ミツノヒナ、は依頼の連絡がとれない調査員の1人ということは確かだぜ。いやはや町に着いていきなり美人に逢えるとは嬉しいぜ、・・・背中に穴ぼこが空いてなけりゃの話だが」町の入り口前、煙を上げ派手に壊れた車の横で乾いた血の上にうつ伏せに倒れているミツノヒナ、その前に立ちPDAを見ながらライアンは言った。
その隣から少し距離をとりながら気持ち悪いものを見る表情でマージィが言う「うげ、ライアンは背中に銃創がなかったら死体でもOKなんだ。そ、その、別に否定はしませんけど私ライアンと組むのやめて1人でやっていきます、さよなら!」去るマージィをライアンは即座に止めた「バカ違う!バカ!お前までそんなこと言って!下品だぞ!誰がこいつを育て・・・俺か!」クスクス笑いながらマージィはライアンの方へ振り返った「たまにはバカ言うのも楽しいね」マージィの意外な冗談にしてやられたライアンは口を突き出し肩をすくめてふと思った(冗談でも1人でやってくって言えるくらいには逞しくなってきたか。最初会った時とは見違えるぜ、マージィ)
ライアンは気を取り直して言う「ま、それじゃ行こうぜ」「うん、依頼完了ってことで帰ろうか。依頼主のミヤマが1人見つければいいって言ってたし。危険そうな町に入る必要は無い、よね?」マージィがライアンの顔を見た。不要な危険は余裕でも出来る限り避けろ、とはこのグラサン男から教わったことである。
ライアンがマージィの顔を見返して言った「え、町に行くぞ?」「え?どうして?」 確かにいつものライアンなら帰っていた。だが今回はたった一つ違う点があるのだ「馬鹿野郎マージィ!見知らぬ美人の無念と仇を取るのが男ってもんだぜ!さぁ行くぞ!」マージィが教わったことと違うと顔をしかめて無言の抗議を行ったが無視された。
しばらくして、町の中を耳を澄ませて歩いていたマージィがふと言った「そういえば勢いでこの町に入ってきたけど他の調査員を見つけるためだけに入ったわけじゃないよね?今のところはダラダラ歩いているだけだけど大丈夫?」ライアンは言った。
「あっ、それを今言おうと思ったところだ。さて今回の目的はご指摘どおり調査員を見つけるだけじゃなくて、ミツノヒナのPDAの日記に書かれていた箱オーパーツも見つけたい」マージィが率直に聞き返す「箱オーパーツって何?」「分からん」「・・・」ライアンの即答にマージィの肩の力が抜けた。
(そんな分からんもののためにこの町に・・・?)そういったマージィの心中を読み取ったのか慌ててライアンはさらに言葉を付け加えた「まあ待て、彼女の日記によるとその箱どうにも役立ちそうな感じなんだよ。そんで日記に書いてあった箱のせいで調査員らが狂った、というのも気になる。ひょっとしたら精神になんらかの作用を起こす装置なのかもしれん。そんなもの放置してモヒカンの手に渡ったら面倒くさくなる未来しか見えん。まぁオチはたぶん箱を巡って仲間割れしたんだろうと思うが」
マージィは足を止めて振り返り尋ねた「・・・じゃあ入り口のあの人は仲間に撃たれたってこと?」ライアンは顎に手をあてたまま歩き止まったマージィを避けて素通りする「今のところ一番それが可能性が高い。まぁ色々気になる点があるがな」ライアンは死体の横で派手に壊れた車を思い出していた。調査員らが乗ってきたのか他の勢力か。調査員らのものだとは踏んでいるがそれよりあの引きちぎられたような壊れ方、あれが出来るのは恐らく・・・
ライアンが沈黙思考しながら歩いていると急に後ろからベルトをグイと引っ張られた「むおっ!?」振り返るとマージィがベルトを掴んでいたようだった。マージィが声を潜めて喋る「ライアン!止まってってば!」ライアンは銃を抜きしゃがみ尋ねる「敵か?」マージィは進んできた道の奥を指差す「一番奥の角、動物かミュータントがいる」「やっぱりいたか。ひとまずあっちに行くぞ」
ライアンは手短にある小さな廃ビルの中に入りながらさらに続ける「マージィ、お前が見つけたそいつはミュータントで間違いないぜ」続いて廃ビルに入ったマージィがそれを聞いてあっと気づく「もしかして入り口の車を壊した犯人?」ライアンは廃ビルの階段を登りながら答える。
「その通りだぜ。しかしこの町、大きさの割にはミュータントが多すぎるな。日記の言及によると既に調査員らは最低でも5体は撃破している」これは驚異的な遭遇率とスコアだと思って差し支えない。今でもその名が残る荒くれ者どもモヒカンの始祖、伝説の大悪党モヒカンジャックが活躍した時代ならともかく、その時代と比べて今の時代はミュータントの数はかなり少ないのだ。
「その数は凄いね」マージィは人間の強さというものを改めて実感して思わず褒め言葉が口に出た。
ライアンは屋上の扉の前で立ち止まりドアノブをガチャガチャと回した。鍵がかかり開かない「拠点長のミヤマの言葉どおり調査員達は相当やり手だったようだ。マージィ頼む」「うん」ライアンは後ろからやってきたマージィと位置を入れ替えた。マージィはドアの前に立つとドアノブのやや上に右手を突っ込みドアを貫き、そのまま錠ケースごとバキャっと乾いた音と共にドアノブを引っこ抜いた。ご覧の通りマージィは普通の少女では無い。彼女の超人的怪力にかかればドアの鍵ごときでは足止めは不可能である。マージィは錠ケース付きドアノブを床に置いて言った「さぁ行こう」
屋上に出たライアンは双眼鏡を取り出し膝立ちで辺りを確認する「霧で見えづらいがあそこにいるようだな。恐らく調査員の1人がミュータント化したんだろう」ライアンはゆっくりと歩く人形の影を発見した。生前は大柄な人間だったらしくそのシルエットは大きい。マージィも肉眼で確認して言った「あれっあのミュータントなんかごついの着てる」ライアンはもう一度確認しそれが何なのか見当がついた「ありゃオーパーツの外骨格スーツだな。レア物だぜ。俺も数回しか見たこと無い」「じゃあすっごく凄いの?」「そこまででもない。確かにミュータントの攻撃に耐えられるほどめっぽう硬い。が、めっぽう重い。それならそこらにあるバリアシールドで充分ってわけだ。俺の会った奴のなかでは糞重いから大砲みたいなのでスーツごと飛んで人間砲弾じみたことをしていたやつがいたな」マージィは呆れた顔で言った「うげぇ・・・私でもそこまではしない」
ライアンは双眼鏡をしまってにやりとしながら言った「その人間砲弾に当たったモヒカンバギーは真っ二つになってたぜ。恐ろしいことにスーツも中に入ってたバカも無事だった。さてそんな硬くて重い奴だがいけるか?言っておくが俺の今の装備じゃちとキツイぜ。やりようはあるが 」マージィは人差し指を立てて言った「その前に一つ。重い足音が聞こえたからミュータントかなって思ったけど そんなに重いならあれミュータントじゃないかも」普通、わざわざドシドシと音を立てて歩く人はいないだろう。さらに危険な場所となればなおさら静かに歩こうとするのが人情だ。マージィはそういったところで何が音を立てているか判断しているのだ。
マージィの言葉を受けライアンは少し思案した後言った「なるほど。ならマージィ、やつの呼吸音は聞こえるか?ミュータントなら普段息はしていないはずだ」
ある生物が死んだ後、様々な感覚を失う代わりに異常な怪力を身につけて再び立ち上がる。そして生命体を殺すために彷徨う危険な動く死体となったのがミュータントである。彼らは生命維持をするための活動は全く行わず呼吸もそれに当てはまる。食事や呼吸を必要せず、最早生命体と言えない彼らが何故動くのか?黒い終末前の発達した科学であればそれも解明出来ていたかもしれないが今となってはまだまだ先の話になるだろう。
ライアンの指示を受けマージィは少しの間耳を澄ました後首を横に振った「ダメ。遠すぎて判別出来ない」そうこうしているうちに外骨格スーツを来た者はゆっくりとマージィ達がいた通りを進んでいく。まだ廃ビルから距離がある。ミュータントであればそのまま通り過ぎるのを待つのも一つの手だが人間、生き残りの調査員なら合流して事情を聞きたいところなのだ。
判別方法が思いつかずマージィがお手上げといった感じでライアンに言った「なんならもう私がぶん殴りに行ったほうが話が早いんじゃない?ミュータントならそのまま戦闘で人だったら頑張って謝ればなんとかなりそうな気がするけど。あのスーツ硬いんだったら死にはしないでしょ」だがその時!ライアンはアイデアを閃き中腰で姿勢を低くしながらこの屋上に入ってきた扉へ向かった!
そしてすぐに同じ姿勢でノコノコと帰ってきた。その手にはマージィが引っこ抜いた錠ケース付きドアノブ!マージィは渡された錠ケース付きドアノブを手に取り渡されても困るといった表情で言った「これでどうするの?」マージィから錠ケース付きドアノブを返してもらいながらライアン言った「まぁ単純なことだぜ。よしマージィ、念のため向こう側のビルに跳んでてくれ。霧も濃いしばれないだろう」「そこで私は何をすれば?」「合図があれば攻撃だ。無ければ成り行きを見守ってれば終わる。よし行ってくれ」
マージィは少し助走をつけ屋上から軽やかに霧に隠れたビルに跳び込み姿を消した。ライアンのPDAにマージィから連絡が入る。無事辿り着いたようだ。
そしてライアンは錠ケース付きドアノブをなるべく遠くに放り投げる!ライアンの居る屋上から放物線を描いて落ちていく錠ケース付きドアノブ!そして地面に着弾!静かな町の一角にガーンと金属音が鳴り響いた。すると下にいた外骨格スーツを来た者が音のした方向を向いて銃を構えて警戒をし始めた。
その様子を双眼鏡で観察していたライアンはニヤリと口角を上げて言った「よし、アイツは人間だったようだぜ」ミュータントは基本的に視界に映る生命体を殺すことにしか興味が無い。例え先程のように大きい音が聞こえたからといって警戒態勢に入ることはないのだろう。
ライアンは立ち上がり生きている人間と判明した外骨格スーツ男に手を振った「おーい!助けに来たぞー!!おーい!!!」外骨格スーツ男は素早く声が聞こえる方向、ライアンがいる廃ビル屋上に銃口を向ける。そしてライアン発見し、躊躇いなく引き金を引いた!「げっ!」ライアンは瞬時に伏せ身を隠す!そしてPDAを取り出した「なんてな。撃ってくるだろうなとは思ったぜ。マージィ、攻撃開始!奴を戦闘不能にして拘束するぞ!」
反対側のビルの屋上で見守っていたマージィはPDAからのライアン通信に即座に答える「了解!・・・なにあれ?」駆け出そうとしたマージィが止まる。外骨格スーツ男がグリップから先が円筒状のハンドガンを取り出し、隠れているライアンに向けて構えたのを見えた。そしてその円筒状部分がガシャっと三方向に展開。青く光り始める。
明らかにまずそうなオーパーツ!マージィは慌ててPDAに向かって叫び、屋上から跳んだ!「ライアン!なんかヤバイからそこから離れたほうがいい!」
マージィの警告を聞き何事かとライアンは少し姿勢を高くし外骨格スーツ男を覗いた。そこには先程より眩く輝く青い光を放つ円筒ガン!「うげっ!良いもん持ってんじゃん!」
ライアンは慌てて立ち上がり後ろに走り出しそして円筒ガンの引き金が引かれた!だがその瞬間外骨格スーツ男の肩に屋上から飛び出したマージィの急降下飛び蹴りが直撃!マージィはそのまま外骨格スーツ男の肩を足場にバク宙するように飛び離れる。
跳び蹴りの衝撃とバク宙の踏み込みで少し体勢を崩されながら円筒ガンから発射された球状のプラズマはビルをすり抜けながら進みライアンのすぐ横を通過していった。当たっていればライアンは丸焦げどころの話ではなかっただろう。
マージィは少しでも体勢が崩れたの機とし一気に背後に回り込み下からえぐこむドロップキック!手加減していた先程の急降下飛び蹴りとは違ってこちらは全力!外骨格スーツ男は少し浮き上がりそしてうつ伏せで地面を5m滑った!
外骨格スーツ男は何が起こったか全く分からなかった。何故地面に倒れいている?起き上がろうとすると急に背中が重くなり誰かに右腕を後ろに回された。まず何かしてきた相手がミュータントではないことに安心した。そして屋上のおかしな男に仲間がいたことを理解した。
背後からまだ幼い少女の声が聞こえた「そのスーツ、ほんとに重くて硬い」その声を聞いてヘラクレスを殺しその外骨格スーツを奪っていた調査隊のリーダー、コーカサスは思い出していた。モヒカンに故郷を滅ぼされ追われていた幼いミツノヒナをミヤマと一緒に発見した時のことを。
その3終わり
その4
「名前は?」「・・・」「何があった?両親は?」「・・・分からない」雪が降る寒さの中焚き火の横で若きコーカサスは俯いている金髪の少女にいくつか質問を行っていた。少し離れたところでミヤマが岩にもたれ腕を組んで見守っている。
若きコーカサスとミヤマは開拓団の掲げる人類の再興という使命感に燃え皆には内緒でこっそりと北上し未発見の町、村を雪が降る中探索している途中気を失って倒れいていた少女を保護し、低体温症の応急処置をし現在に至る。
白い息を吐きながらさらにコーカサスは質問を続けたが憔悴した顔で少女が質問に返す答えは結局無言か分からないの二つのみであった。その様子を見かねたミヤマが言った「コーカサス、お前のその怖い顔で質問されたら誰でも縮み上がる。悪いな嬢ちゃん、怖かったろう?今日はもうゆっくり寝てくれ。俺達がバッチリ守るから安心してな」ミヤマが袖をまくり右腕の力こぶを強調させながら屈託のない笑顔を少女に向ける。少女は虚ろな目でそれを見返した。
その後、彼らは少女が寝た頃を見計らって話し合っていた「ミヤマ、これはどういうことだろうか。自分の名前も分からないとはな」ミヤマは腕を組み思い出すように言った「あの子、思い出そうとする度になんかつらそうな顔をしてた気がするな。あっ、そういえば俺ジーサンからそういう話を聞いたことがあるぞ」
コーカサスはミヤマの焦れったい物言いを急かした。「わざとらしいな。そうもったいぶるなよ」「まぁ落ち着け。確かだ、人間は強いショック、例えば家族が殺されたとか恥かいたとか、そういうのを受けると勝手にそれを忘れようとするらしい。名前まで忘れるとなると相当なショックを受けたんだと思うぞ。治すには時間はかかる。とにかく俺達は一旦この子を連れて帰ったほうがいい」
コーカサスは少し下を向いてから言った「やはりなんとか探索を続けることは難しいか。ここまで来たけど仕方があるまい、そうしよう」
その後当時の最北端拠点に帰還を果たした二人は危険で命知らずな探索を彼らの師や先輩にこっぴどく叱られることになった。しかし若い二人が保護した少女が持つ、開拓団の知らない場所にまだ人が居るという事実が最北端拠点の人員を大きく動かすことになり大探索の結果一つの村を発見するに至った。
だが最北端拠点の開拓団員達を歓迎したのは物言わぬ死体となった村人達と無茶苦茶に荒らされた村であった。その酷い有様は寒さのお陰であまり死体の腐敗が進んでいなかったのが唯一の幸いとしか言えなかった。
「ミヤマ、この世界でここまでするのは奴らしかおらんぞ」コーカサスが隣のミヤマに言った。ミヤマは静かに怒りを込めた声で返す「ああモヒカンだ・・・!あの畜生共めが・・・!」ミヤマの肩が怒りで震えていた。コーカサスも気がつくと拳を強く握りしめていた。
モヒカンへの怒りを燃やす二人の後ろで金髪の少女、ミツノヒナ(ミヤマが名付けた)が村を確かめるように見渡すと震えた声でポツリと言った「お父さん、お母さん、みんな・・・」その声を聞いてコーカサスとミヤマが振り返る。このモヒカンに荒らされた村こそがミツノヒナの故郷であったということは間違いないことが分かった。
彼女の住む場所がモヒカンに荒らされそこから逃げてきたのだろうということは予想していたことだが、それでも村を転々と移動しながらキョロキョロと何かを探そうとするミツノヒナの姿を見て二人にやるせなさが襲った。少しの間二人は立ち尽くしていたがコーカサスが先に沈黙を破った「ミヤマ、俺はあの子を育てようと思う。放ってはおけないだろう」ミヤマが言った「はっ!お前だけじゃ無理だ!俺も混ぜろ!」
──────────────────
「それで何があったんだお前らは?」ライアンはマージィに背中を踏んづけられ拘束されている外骨格スーツを着た男、コーカサスに聞いた。頭全体を覆うフルフェイスヘルメットを脱がされたコーカサスが頭を上げて言った「寝静まった夜、調査員の一人が発見したオーパーツを持って逃げ出した。それに気づいた俺は部下二人にその奪還に行かせたが少ししたあと、銃声が聞こえて俺もその方へ向かった。まず奪還に向かわせた一人カブトが喉を切られて死んでいた。さらに銃声が聞こえる方へ向かうと町の入口でオーパーツを持って逃げ出した調査員、ミツノヒナが銃撃を受け死んでいた。入り口に停めてあった車の中に奪還に向かわせたもう一人、ヘラクレスが逃げ出そうとしていたので俺は頭を撃って殺害した」
話し終えたコーカサスは上げた顔を下げ地面に顔をつけた。ライアンは言った「どうしてそのヘラクレスとやらに事情を聞かなかったんだ?殺す必要はあったのか」コーカサスがそのままの姿勢で言った「分からん。ヘラクレスが車に乗っているのに気がつくと俺はいつのまにか車の窓越しに奴の頭に狙いを定めて、撃っていた」それを聞いてライアンは右手で顔を覆った「なんてこった!色々言いたいことがあるがお前はヘラクレスとやらが実際逃げ出そうとしてたのをちゃんと確認したわけでもないのに撃ったのか馬鹿野郎!」コーカサスは無感情に言った「そうだ。俺は気でも狂ったのかもしれないな」
そこでマージィが思い出したように口を開いた「ひょっとして箱のオーパーツのせい・・・?」ライアンは即座に否定した「まさか!マジで精神に影響を与えるモンがこんなちっこい町にあるわけがないぜ!」それを聞いてマージィはムッとして言い返す「じゃあ町に入った時に真面目くさって”精神に影響があって危険かもしれん”とか言ってたのは何?」ライアンは頭を掻いて言った「ありゃ冗談だ。見つけられるオーパーツは結構その場所の発展具合に影響するって前に言わなかったか?武器すら無いこの町にそんな大層なモンがあるとは思えんだろ」
ライアンの言葉を信じていたマージィは怒りで思わずコーカサスを踏みつけている足に力が入った。ミシミシとコーカサスの外骨格スーツが軋み圧迫!「ぐわっ・・・!」その様子を見たライアンは頭を下げて慌てて上ずった声で謝った「はぁ!!すまん!許してくれ!頼む!」マージィはライアンの頭頂部をじっと見つめながら踏みつける足の力を緩めた「・・・分かった。許した」
ホッとしたライアンは気が抜けたのか顔だけ上げて余計なことを口走る「でもちゃんと頭使わないと騙されるってことが分かって良い経験になったろ?」マージィは驚くべき力でコーカサスを頭上に持ち上げて言った 「その通りだけどむかつく!」そしてライアンにぶつけた。
「そんで最後に一つ。どうして拠点に連絡をしなかったんだ?どう考えてももう調査は無理だろ」背中を擦りながらライアンは再びマージィに踏みつけられているコーカサスに尋ねた「ミュータントに襲われてPDAを失くしてしまった。ヘラクレスが死んだ時にミュータント化したんだ。車がめちゃくちゃだっただろう?そういうことだ」ライアンは顎に手を当てた「なるほど。それでそのミュータントは?倒したのか?」「いや、逃げるのが精一杯だった。装備が整ってなかったからな」「逃げれるだけでも大したもんだぜ、アンタ。こんなことになっちまって残念だ」
一通り聞きたいことは聞いたライアンは懐からPDAを取り出したマージィを見た「マージィ、これから俺達の依頼主にこのこと報告していくるぜ」そう言ってどこかに歩きだすライアンにマージィは尋ねる「どこ行くの?」「ついでにションベンだ。しっかり見張っとけよ」マージィは呆れた顔でぞんざいに何度か頷きシッシッと手を振った。
ライアンが去って少ししたあと、コーカサスがマージィにふと尋ねた「君達は親子か?あんまり似てないが」マージィが首を降る「違う。でも育ての親、みたいなもの。あんなだけど」マージィのうんざりといった顔にコーカサスは少し笑って言った「君はうっとおしいと思っているかもしれないが彼がちゃんと大切に思っているということは分かってやってくれ。外骨格スーツを投げられるほど力が出るオーパーツを貰えるなんてその証拠だ。俺もそれぐらい出来れば変わったかもな。俺が・・・」
自分の怪力は自前である。マージィはそう思って複雑な顔をしたが説明がややこしくなるので特に訂正しなかった。なにより自分でもよく分かっていない。
「そうなんだ。そういえばあなた達が見つけた箱のオーパーツってどう使ってたの?」「それは・・・」コーカサスが箱について答えようとした。しかし路地に小便しに消えた突然ライアンが壁を突き破りマージィとコーカサスの目の前に吹っ飛んできた!地面に転がったライアンは素早く立ち上がり叫ぶ!「ミューターント!」
その4終わり
その5
ライアンが壁を突き破り瓦礫が飛び散っている瞬間マージィはその奥にいる人型のミュータントの姿を捉えていた。身長は高く大柄でその両腕はミュータント化の影響か丸太のように巨大だ。そして側頭部には銃創。コーカサスが射殺した部下の一人ヘラクレスで間違い無し!
そしてマージィの横を通過していくライアンを横目で見るとその左腕に装着されたバリアシールド装置に起動中の文字が点灯していた。ライアンはミヤマに貰ったものを咄嗟に起動させたらしい。そしてライアンが地面を転がり立ち上がる「ミューターント!」それと同時に背中に吊るしてある大型ライフルを構え射撃!これは弾丸の代わりに衝撃を飛ばすオーパーツ、ショックガンだ!その威力、車も空にぶっ飛ぶ衝撃!
マージィは何度か射撃するライアンに向かって言った「ライアン!私がミュータントをやるからコーカサスを!」「分かった!頼むぞ!」ライアンは伏せているコーカサスに駆け寄り、マージィはミュータントヘラクレスに向かおうとした。だがマージィの足がコーカサスの背中から離れたその時!コーカサスの外骨格スーツから多量の煙が吹き出し瞬く間にその周囲を覆った!
「げほっ!?なんだ!?」ライアンが煙にむせ、振り払おうと手を振る!何も見えない!だがマージィがいち早く駆けつけそのままライアンを担いで跳んだ!二人が煙から抜けた瞬間、地面が砕ける破砕音!ライアンの居た位置に巨大な拳を地面に叩きつけるミュータントヘラクレスの影が煙に浮かんだ。
「助かったぜマージィ!」「それよりコーカサスが!」マージィの指差す方向をライアンが見ると曲がり角を駆け建物の影に消えるコーカサスが!「野郎!スーツを捨てて身軽になったってか!急に逃げ出して何をしやがるつもりなんだ!マージィ!ミュータントは頼んだぜ!俺は奴を追う!」「ガッチャ!(分かった!)」
そう言うとマージィは再びライアンを担ぐ。ライアンはたじろき手足をばたつかせる「おいおいおい!なんだ!?降ろせバカ!」マージィは喚くライアンを無視してコーカサスが逃げたした方向へライアンぶん投げ、自身は煙の中へ突入した!「だはあああああ!!」飛ばされながら叫ぶライアンは着地瞬間に回転受け身で素早く立ち上がった。ライアンに怪我が無いのはライアン自身の実力とマージィがうまいことやった証拠だ。一気に曲がり角まで飛ばされたライアンはマージィの方へ振り向いて一人悪態をつく「心臓に悪い!投げるなら言ってくれよ!」そして走り出してコーカサスを追った。
「止まれ!止まらんと撃つぞ!」ライアンは路地に逃げ込むコーカサスに警告!だがコーカサスは無視!「これっぽっちも止まる気なしだな!恨むなよ、警告はしたぜ!」ライアンはコーカサスに狙いを定めてショックガンのトリガーを引く!バウン!強いノックバックと共に射出された衝撃は惜しくもコーカサスでは無く建物の角を粉砕した「こりゃ威力が高すぎる!」ライアンは走りながらショックガンに付いている小さなダイアルを回し威力を調整。
そして路地に向かうライアンへお返しとばかりのコーカサスのプラズマ球が建物の中から飛び出す!「危ねえ!やりやがったな!」ライアンはすんでのところで横に転がり回避!
「物体を無視して飛んでくるこいつはやっかいだが速度が人間に反応出来る程度なのが救いだぜ!」ライアンはそう言うと路地の入り口にある大型のゴミ箱を踏み台に建物に付いている梯子に飛び移り登り始めた。その下でプラズマ球がさらに数発通過!「だからと言ってバカ正直に後ろを追わねーけどな!」
ライアンは梯子の途中で窓から建物内部に侵入し邪魔な壁をショックガンで粉砕しながら走る!粉砕音を聞いたコーカサスが発射した何発かのプラズマ球が室内を通過していく。当てずっぽうとはいえその半径1.5mはあろうかというプラズマ球のプレッシャーは大きい。だがライアンはそれを無視して走る!そしてライアンはショックガンのダイアルをMAXに回しトリガーを引く!建物内部の壁を何枚もぶち破り一番奥のぽっかり空いた穴から外の光が差し込む。
コーカサスは建物三階に開いた穴にめがけて3発のプラズマ球を発射し走る!だがライアンが居るのはもう三階ではない。派手な音を響かせ壁に穴を空けたのは囮だ。既に三階の地面を粉砕し二階に降りたライアンは窓からコーカサスが三階に向かってプラズマ球を撃つ姿を捉えた。「これで安全に狙えるぜ」ショックガンの威力を調整するとライアンはコーカサスの背中を狙ってトリガーを引いた!
バウン!コーカサスは後ろから来た衝撃に直撃し斜めに吹っ飛び壁に衝突!プラズマガンを取り落とし悶絶するコーカサス!だが二階からパイプを伝って降りてくるライアンを見ると苦痛をこらえて立ち上がりまた駆け出した。ライアンは降りながら何度かショックガンを撃つ。さすがに当たることは期待していないがそれでも一発当てられるのはライアンの腕前の高さだ。再び壁に叩きつけられ倒れたコーカサスは少ししたあと両手を使って立ち上がり、走る。プラズマガンすら拾うのを忘れて、すがるように走る。そんなコーカサスの姿にライアンは薄気味悪さすら感じた「一体お前はどこに行くんだ・・・」
ライアンがコーカサスに追いつくとそこは広場であった。中央には上半身を失った石像が立つ噴水がありそこで調査員らは野営を行っていたようである。小さな町にしては充分立派な広場でありかつてはこの場所には町に住む人々の笑い声が溢れていただろう。文明が滅び数百年経った今では苔や植物が生え、老朽化でボロボロとなっている。
ライアンは広場の入り口に立ち止まり、左腕を押さえ足を引きずり干からびた噴水の横を通ろうとするコーカサスを呼び止めた「もうそこらで終わりにしようぜ」
コーカサスは足を止めずに言った「俺もお前があの子に上げたやつみたいにオーパーツを・・・箱をミツノヒナとミヤマに届けなくてはいけないんだ。きっと喜んでくれるからな。それくらいしか出来ないんだ」ライアンは言った「・・・ミツノヒナ、入り口のやつはもう死んでいるじゃないか」コーカサスは言った「そうだとも。ミツノヒナは死んだ。彼女だけじゃない。カブト、ヘラクレスも死んだ。俺は調査隊の生き残りとしてせめて彼らが見つけた箱を届ける義務がある」
言っていることが無茶苦茶だ、とライアンは戦慄した。だがそれを言う代わりに別の言葉を放つ「それならどうして俺達に言わなかった?わざわざ争う必要なんてなかったんだぜ?」コーカサスが立ち止まり言った「金やオーパーツに目が眩んでいる傭兵を、信用しろって言うのか?俺達の成果を、誇りを横取りしに来たんじゃないか?俺達開拓団が犠牲を払ってまで見つけ出した町や村のオーパーツをハゲタカのように掠め取っていくお前らを!賊め!お前らはモヒカンとなんら変わらん!」コーカサスは開拓団としての誇りと栄光を燃料に口を動かし今までの苦悩や挫折をにじませた言葉を生産する「ミヤマめ!娘が死んだというのに寄越すのはこの薄汚いハゲタカか!あの時も貴様は誇りを忘れて帰ろうなどとほざいていたな!」
支離滅裂に怒りを爆発させるコーカサスにライアンは心底思った(やばいぜ、これはやばい。何がやつをここまでさせたんだ?ありえんと考えてたがやっぱり精神汚染箱、実在するのか?)
怒り狂うコーカサスのその後ろの建物の屋根に一つの人影が現れた。とにかくコーカサスの罵倒にそこまで言われる筋合いは無いとでも言い返そうとしていたライアンはそれに気がつき目を細めて屋根を見た「ん・・・?マージィ・・・じゃねぇ!おい!コーカサス!後ろだ!」
ライアンはコーカサスに向かって走り出した!コーカサスが後ろに振り向くと屋根から飛びかかってくる金髪のミュータント!肌が赤く変質し筋繊維のようになっているのはミュータントの特徴的な変化の一つだ。その手は人より数段長く鋭い爪を持っている!それを振りかぶりコーカサスを切断しようとするのを直前、ライアンはバリアシールドを起動させ阻止する!金髪のミュータント、ミュータントミツノヒナは飛び離れ再び屋根へ!着地を狙ってライアンはショックガンを乱射しミュータントミツノヒナを奥へ吹き飛ばす。これで時間は稼いだ。
ライアンは振り向いてコーカサスに言った「おい大丈夫か!?」逆光で黒いシルエットになったライアンの左腕に装着されているバリアシールド装置が点灯している。それを見てコーカサスは言った「そのバリアシールド・・・ミヤマか。すまんミツノヒナが死んだ」ライアンはあんぐりと口を開けた「あ・・・?バカ、違う!あのハゲと一緒にすんな!しっかりしろ!」コーカサスが立ち上がり奥にある野営キャンプを指差す「動揺するのは分かるが本当だ。見ろ、あそこに俺達がたった一つ見つけた箱のオーパーツがある。彼らが遺してくれたものだ。それでミツノヒナに温かい飯を食わせてやってくれ。さぁそれを持って逃げるんだ。あのミュータントは任せろ」「あ~あの、俺は・・・」話が通じず困惑してまごまごしているライアンにコーカサスは怒鳴りつける「さっさと行かんかミヤマ!奴がすぐ来るぞ!」
「クソ!分かったよ!クソ!もう訳分からんぞ!」ライアンは走り出し野営キャンプの中を探した。そこには確かにあったのだ、箱が。それを見たライアンはこの短時間で何度も訪れた困惑を再び味わった「これは・・・ただの電子レンジじゃ、ねえのか・・・?」
ライアンはもう一度しっかり確認した。蓋の取ってを引いて開けると中には回転しそうな皿が置いてあった。蓋の横を見るとタイマーをセットできるボタンが付いている。ライアンは視界がグニャリと曲がる思いをした。もちろんこの電子レンジが毒電波を飛ばしているせいではなく(コンセントは電源に刺さっていない)畳み掛けてくる混乱のせいである。ライアンは電子レンジを開けたり閉めたりしながら言った「なんだ・・・?電子レンジのせいだっていうのか?何故入り口の奴がミュータント化してここまで来てるんだ?この町のミュータント化率はどうなってやがる。地理に影響するなんて聞いたこと無いぞ・・・?」
それからガチャガチャと蓋を開け閉めしながら考え込んでいると外からコーカサスの呼ぶ声が聞こえた「ミヤマ!もう一体来たぞ!早くしろ!」ライアンはハッとするように立ち上がり思わず言った「何!?もう一体だと!?ということは・・・!!」ライアンは仕方なく電子レンジを抱え野営キャンプから飛び出す。そこにはライアンの予想通り喉に切られた傷があるミュータントカブトがライアン達が来た道からやってきているところであった。
ライアンの傭兵歴は長い。少なくとも10年は危ない橋を渡ってきた。しかし多数で一つの個とする群生型ミュータントを相手をしたことはあっても単体型ミュータントを二体同時に相手した経験は無い。絶望的状況だ「この電子レンジを思いっきりアイツの頭にぶつけてぶっ壊してやりたい気分だぜ・・・やったらアイツに俺をぶっ壊されそうだけどな」ぶつぶつ呟いているライアンにコーカサスが怒鳴りつける「ミヤマ!何をやっている!早く来い!まずいぞ!」ライアンが怒鳴り返す「分かっとるわ!!それでどうすんだよこの状況をよおお!!ええ!?」「お前は手が塞がっているからそのショックガンを貸すんだ。それで時間を稼ぐからお前はとにかく走れ」「それは完璧な作戦だなぁ!!」皮肉をぶつけながらライアンは電子レンジを置きショックガンを手に取る。だがこの狂った男に渡すか迷った「ミヤマ!早く!奴が気づいたぞ!」ミュータントカブトが二つの生命体を発見し走り出す。
基本的にミュータントは元となった生き物関係なく異常な筋力を身につける。走り出したが最後、彼らをバラバラにするのはもう次の瞬間だ。
バウン!ライアンは急いでショックガンをミュータントカブトに発射して吹き飛ばしコーカサスに渡した「失くしたり、壊したりすんなよ!結構レアモノだからな!」コーカサスはショックガンを受取り、再び屋根の上に登ってきたミュータントミツノヒナを撃つ!
「任せろ!さぁ行けライアン!ミヤマにそれをちゃんと渡せよ!」さっさと走り出していたライアンは自分の名を聞いて立ち止まり振り返った「お前・・・!戻ったのか・・」「・・・行け!生きろミヤマ!ミツノヒナの分まで!」ライアンは頷き電子レンジを抱えて走り出した。
広場を抜け道路に出た直後、ライアンに二つの影が覆った。何かが落ちてきている。だがライアンはそれを無視して走り抜け吐き捨てた「何が落ちてこようが知らん!走るぞ俺は!」するとライアンの後ろからドンと何かが落下した音がした後、最早懐かしさすら感じる相棒の幼い声が聞こえた「ちょっとそれは酷いんじゃない!?」「屋根から降ってきやがったか!マージィ!」
ライアンが振り返るとまずミュータントヘラクレスの背中が見え、その奥にマージィの足がちょっと見えた。ミュータントヘラクレスは巨大な両腕をハンマーのように振り下ろし、マージィが空の外骨格スーツで受け止める!そしてマージィは外骨格スーツを振り回し横からぶつける!さすがのミュータントでも遠心力と外骨格スーツの質量の合わせ技に体勢を崩しす!だがさらに追撃しようとしたマージィだがミュータントヘラクレスの様子がおかしい「・・・?まぁいっか!」構わずスーツをぶつける!
ミュータントヘラクレスもまたスーツをぶつけられたのに構わずマージィの奥、広場を見つめているようであった。そこには二体のミュータントに奮闘するコーカサス。それを認識したのかミュータントヘラクレスはマージィを無視して広場へと走り出した!マージィは困惑「あれ?なんで?」走り出そうとしていたライアンは言った「あっちに普通の人間がいるからそっちを優先したのかもな」
マージィがひとっ飛びでライアンの横につく「色々言いたいことあるけどそれってあっちの人がマズイんじゃない!?」走りながらライアンは言った「分からん。だが、そのスーツぐらいはくれてやってくれ。広場まで投げ飛ばせるか?」マージィは少しためらいがちに言った「んーその、出来るけど右腕使わないと無理かも。さすがに重いし」そんなマージィにライアンは止まり意外なほどシリアスな声で言った「頼む」
さすがにマージィでもいつもと違うライアンの真剣さが伝わる。マージィはやれやれといった感じで返答した「りょーかーい。先に行ってて」「恩に着るぜ」
走っていくライアンを背後にマージィは広場に向き右腕に巻きつけたボロ布を解く。すると肌が赤く変質し筋繊維がむき出しになっているような右腕が顕になった。
ミュータント化している右腕だ。何故こうなったか、いつこうなったのかは彼女自身分からない。目が覚めたときにはこうなっていたものだ。
先程ミュータントヘラクレスが彼女無視してコーカサスに向かっていった理由もこれにある。ミュータントにとっても彼女は生命体であるかないか曖昧な存在なのだ。それにより、よりハッキリとした生命体であったコーカサスに矛先が変わった。
彼女の右腕の付け根からバキバキと何本もの触手が生え手の先まで覆っていく。それが何層も重なり彼女の右腕は巨大化した。確かめるように右手をグーパーするとその手で外骨格スーツを鷲掴みし砲丸投げ選手のように構えた。そして彼女は目標を見据えると一気に踏み込み地面を砕きながらぶん投げる!「ッフン゛ン゛ン゛ン゛!!」あたかも戦車の主砲から打ち出したような速度で外骨格スーツが水平に飛ぶ!そして射線上にいたミュータントヘラクレスの巨大な右腕を吹き飛ばし広場に着弾!広場に煙が上がった!「ハァー、これで、いいよね・・・?」彼女は右腕に折り重なり巨大化させていた触手をぞぞっと戻し右腕を元のサイズにすると手慣れた手つきでボロ布を巻き少しふらつきながらライアンの方へ走り出した。
ライアンに追いついたマージィがだるそうに言った「ライアーン、投げてきた」ライアンはせっせと汗を流し呼吸を乱しながら労う「よく、やった!おんぶ、してやるぜ!」マージィはライアンを追い抜き後ろ走りで言った「私よりつらそうだけどだいじょぶ?」「いや、ならいいんだぜぇ!別に乗らなくても!」それを聞いて慌ててマージィはライアンの後ろに周り背中に飛びついた「そうとはいってない。ありがと。いがいと投げるの、つかれた」飛びかかれられたライアンはバランスを崩しそうになったがなんとか持ち直しマージィに言う「膝、膝にくるぜこれ!あと、電子レンジ持ってろ!」「あい」「あとナビ頼む!」「あい」
ライアンはマージィを背負いながら必死に霧が覆う町を駆けていく。後ろで低い音で響いていたショックガンの音もやがては遠ざかり、聞こえなくなる。町に安らかに漂おうとする静寂を彼の走る音だけがやかましく邪魔をした。
ライアンは走りながらふと思う。結局なにがなんだか、だ。この町で死んだ生き物は必ずミュータント化するのか?奴は本当に狂っていたのか?彼らが死んだ真相は?そして、電子レンジ。自分すら混乱させたこの電子レンジを見てライアンは呟く「お前のせいで少なくとも三人は死んだっぽいぞ。悪魔の箱め」
だがその箱を必死に届けようとした奴もいた。言っていることは無茶苦茶に変わっていったがこの箱を届けるという意思は自らを犠牲にすることになっても決して変わることは無かった。
そしてマージィの的確なナビのおかげで壊れた車と乗ってきたサイドカー付きバイクが見えてきた。入り口で死んでいた調査員ミツノヒナの死体はやはり無い。
ライアンはぐっでりしているマージィをサイドカーに乗せ少し彼女の倒れていた場所を見つめた(ミツノヒナ、彼女の顔は俺の妻の面影があった。だから思わず首を突っ込んだがえらい目にあっちまったな。これは過去の事なんて吹っ切れて未来を進めってことか?サリー?)
ライアンは古びた写真を取り出し、両手で破ろうとした。だが思い直してもう一度しまった。破り捨てる必要は無いと思ったからだ。それでいいんだ。ライアンは一人満足したように空を見上げる。同じ空だが違う空だ。その空に誓う。もう見ることはなくなるだろうが大切にしまっておくぜ、サリー。
その5終わり
その6
「ご苦労だった傭兵。いや、ライアン。お前に頼んで本当によかった。報酬はあっちの俺の部下に用意させておく。ちょっと待ってろ」大柄な体格を縮こませてPDAを操作し始めたのは開拓団最北端拠点長のミヤマだ。両手でPDAを操作する様は会った時よりもずっと小さく見える気がした。
彼は最北端拠点に襲い来るモヒカンをあらかた片付けた後、残りは部下に任せて単身ライアン達に向かわせたあの町に行こうしていたところだった。途中で帰ってきているライアンと鉢合わせしこうして雪降る寒々とした平野で報告を聞いたところである。
ライアンはPDAを操作し終わり顔を上げたミヤマに言った「・・・残念だったな。俺なんか助けに来たのに逆に助けられちまった」ミヤマはフッと少し淋しげに笑って言った「良いんだ。この世は、生き抜くほうが難しいんだ。お前も分かってるだろう?」「ああ、散々思い知らされる。・・・そうだ、渡すもんがある」ライアンはバイクから箱を取り出すとミヤマに渡した。
ミヤマは急に渡された得たいの知れない箱のことを聞いた「これは?」「電子レンジだ。どんな食いもんでも温められるぜ」ミヤマは物珍しげに電子レンジを持ち上げ裏を見たりして呟いた「なるほど、これは電気がいるな。ありがたい、俺の部下達も喜びそうだ」ライアンはミヤマの肩をポンと叩く「確かに渡したぜ。さぁ帰ろう!俺の報酬が待っている!弾むんだろ!?楽しみだぜダハハ!」ミヤマはニッと笑った「がめついぞ傭兵!」笑いながら二人は各々の乗り物に向かっていく。
ライアンはバイクに乗り込む前サイドカーに待たせていたマージィが居ないのに気がついた。周囲を見渡すと少し離れたところで地面をじっと見ているマージィがいた「おい何見てんだ?」ライアンはマージィに駆け寄る。マージィの視線の先、そこには焼け焦げた跡があった。あの狂犬病の犬を燃やした場所だ。灰は風に乗って散り、僅かな残骸が残るのみ。
マージィは顔を上げてライアンに言う「あの残していった人、コーカサスはやっぱり死んだのかな・・・?」ライアンは言った「もしかしたら生きて帰ってくるかもな。相当実力はある」無論、狂った頭では無理だが。
その6終わり
エピローグ
一週間後、開拓団最北端拠点。そこでは怒号を上げ殴り合う若者がいた!「テメー!!次は俺の番だろうが!」「ならよそ見すんな!紛らわしい!」隣の部屋で部下達と作戦を立てていたミヤマはうんざりした顔でまたか、と呟き立ち上がった。ここ最近電子レンジを巡って争いが絶えない。便利なのはいいが困ったものだ。
若者が相手の鼻にパンチを入れる。倒れたところを追撃しようとしたが腹を蹴られてたたらを踏んだ「いいぞ!やれ!そこだ!」喧嘩をしている若者二人を中心に人だかりが出来、思い思いに野次を飛ばす。騒がしい喧騒からから少し離れた所で暗い影が落ちる台に鎮座している電子レンジがその様子をあざ笑うかのように静かにチーンと音をたてた。
それ同時に電子レンジにスレッジハンマーが振り下ろされその破壊音で場が静まりかえった。ミヤマがスレッジハンマーを手に怒鳴った「お前ら!!バカな真似やってんじゃないぞ!!次やってみろお前らもこうだぞ!」喧嘩していた若者の一人が喚いた「だからって壊すことはないでしょう拠点長!それは大切にしようって・・・」ミヤマはその若者を殴りつけて言った「うるせー!!こうなるんだったら無い方がマシだ!!元々俺達はこんなもん無くてもやっていけたんだ!それで問題ないだろう!!」その場に居た者はざわつき始める「確かに」「なんかムキになってたよな」喧嘩していた若者達もお互いに謝り始めた「すまん」「こちらこそ」
ミヤマはその様子を見てフーとため息をつき言った「確かに俺達の仲間が命を懸けて持ってきたモノだが、争うぐらいなら壊してくれとあの世で思うはずだ!そうだろう!?」
この場にいた誰かが言葉を返した「そうだ、ミヤマ。俺ももっと早くそうするべきだったんだ」
After The BLACK Apocalypse
サブエピソード「悪魔の箱」 終わり
After The BLACK Apocalypse 楽猿水菓子軍団(略称R.M.G) @RAKUENMG
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