第37話 冬の中の再終列車-2

 帰りの電車ではみどりさんとは合わない。当たり前だが、彼女は企業に勤める会社員であるので、私とは生活時間が違うのだ。私が、学校が終わってからすぐに帰宅すれば、一緒になるわけはない。


 駅で友達と別れて、一人で帰りの電車に乗る。席が空いていたが、そうはせず、今朝、みどりさんと二人で並んで話していたのと同じような場所に、立つ。なんとなくみどりさんを感じられる気がしてそうしてみたものの、ただ虚しくなるだけだったので、やめた。


 適当な席に座って、自宅の最寄り駅まで待った。


 ぼーっとしながら帰路をたどっていると、気が付いたら、自室のベッドの上で寝ころんでいた。いつもこんな風なので今日が特別どうということでもないけれど。

 部屋の明かりがまぶしいので窓の外に目をやると、吸い込まれるような暗闇が広がっている。なんかやだなあ、と暗闇への漠然とした恐怖を感じた。


 「……」


 そこで、思い出す。いつか、みどりさんと神社に行ったとき、こんな風な暗闇に怯えていて、それがすごく、かわいかった。


 なんて。


 みどりさんと、そんなところに行ったことなどないにもかかわらず、私は懐かしく思った。


 「……妄想」


 かもしれないが、それにしては鮮明だった。

 私には正体不明の、みどりさんとの記憶がある。一つ目は、私とみどりさんは恋人同士で、二人で野良猫の世話をした記憶だ。みどりさんは虐待されていて、私が、自宅に泊めたのだっけ。それでもなんの解決もしないで、結局、みどりさんは眠ったままになってしまった。二つ目は、みどりさんと私は従姉妹同士で、今より年が離れていなかった。何もなかったけれど。結局、私がみどりさんに激怒して終わった。


 記憶はいずれも、ラストシーンは不幸せだった。


 「……みどりさん」


 それでも私は、記憶の中の、みどりさんと恋人同士になっているその自分が、ひどくうらやましかった。


 手を繋ぐのはもちろん、ハグや、キスや、もっと激しいキスや、やろうと思えば、それ以上のことでも、二人はできるのだ。いいな、と思う。私も、みどりさんもそんなことがしたかった。


 「みどりさん……みどりさん、好きだよ、私はみどりさんのこと、こんな風に好きだよ……」


 漫然とつぶやく声は、部屋に響くほどの大きさもなく、口から離れた瞬間に、すっと溶けていく。だからこそ、私は自分の思いを口に出せるのだった。


 「きすしたいなあ」


 なんて、そんなことばかりが頭を掠める。キスしたい、ハグしたい、もっと、深い関係になりたい。できるなら、みどりさんにもそう思っていてほしい。

 今日くれた、好き、という言葉は、いったいどういう意味なのだろう。みどりさんは果たして、どういう理由で私に好きと伝えたのだろう。


 もし、同じ気持ちだったら、私たちはもう一度、恋人同士になれるのだろうか。もう一度、お互いがお互いを絶対に好きだという、そんな関係になれるのだろうか。


 二人で一緒に、幸せになれるのだろうか。


 「……」


 何となく、現実味が感じられなかった。

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