第15話 手とか繋ぎたい-2

 ショッピングモールはそれなりに込み合っていた。日曜日なので、当たり前といえば当たり前である。けれど不思議に思うのは、みんな休日に休んだりしないのだなあということだった。


 私だったら、こんなごみごみした場所なんか来ずに家でゆっくりするけれどな。


 なんて、現場に居ながら思う。それはなんだか自分のことを棚上げしているようにも思える。


 モール内店を漫然と見て回る。アパレルショップが多いように感じた。というか、殆どそれしかない。それ以外は、CDショップと飲食店が二三軒あるくらいだった。


 みんなそんなに服に飢えているのか。私はそうでもないのだけれど。

 というか、店先に出ている服の値段を見ただけでも、結構高いけれど、本当にこんなもの買っているのだろうか。


 「柏木さん、なんか気になったものある?」

 「特にないけれど…あ、でも、河原さんに似合いそうなのなら見つけた」


 女の子二人組とすれ違った。高校生くらいだろうか。片方は短めの茶髪で、もう一人はストレートの黒髪が綺麗な女の子だった。仲良さげだったが、茶髪の子の方がやや遠慮気味に見えた。


 その二人を見て、和泉さんのことを思い出す。


 彼女も今頃、こうして誰かと出かけているのだろうな。色んな店を回って、いろんな服を着て、いろんなものを買って、一緒の誰かにいろんな表情を見せているのだろう。

 まあ、私は彼女を振った立場だから、何とも言えないけれど、少し寂しい気がした。


 …キスしたいって思ったよなあ。


 私はまたも思いだす。確実に、和泉さんに告白された時、二度目に告白された時も、キスしたいと思ったのだ。

 私は、和泉さんのことが好きなのだろうか。気になる存在ではあったのだけれど、分からない。それは優秀な生徒として気になるのか、それとも、女性として和泉さんが気になるのか。

 女性として。

 いや、女性て。

 人周りも下の女の子を捕まえて女性て。

 何を言っているんだ私は。

 歩きながら、一人で恥じ入る。うう、という声が出た。


 「おっと」

 「あ…ごめ、ごめんなさい」


 思わず目を瞑っていたからか、思いっきり人にぶつかってしまう。反動で少し後ろに弾かれた。

 私はすぐに謝るが、その人の格好に少し怯んでしまった。

 詳しく言うなら、格好はジーンズにTシャツで大したことは無いのだけれど、髪が紫色だった。顔は私の上のあたりにあって、左耳にピアスをしていた。ギターらしきものを持っているので、バンドでもしているのだろうか。

 バンドマンといえば、不良である。


 「おねーさん、大丈夫?」

 「あ、はい。すみません」

 「いや、いいんだけど」


 お、なんか思ったより優しい人だ。良く見たら女の子で、私は少し安堵する。

 女性だと優しそう、ってあるよね。


 「休んだ方がいいよ、おねーさん」

 「え」

 「なんか疲れてるっしょ」

 「えっと…ええ、まあ」

 「ね」にこりと彼女は笑う。それから私の頭に手を載せ、「お大事に」と言って、もともと行こうとしていた方へ進んでいった。

 「……」


 ありがとうを言う暇もなく、彼女は人混みへ消えて行く。会ったばかりの人にまでわかってしまうほど、私は悩んでいるのだろうか。

 どちらかというと、今日は全然疲れていない。最近では珍しいくらいによく眠れたし。

 でもそうか、と思い直す。身体的疲労がなくなっても、精神が疲れていては、やっぱり参ってしまうよな。

 それなら、なおさらここで気分転換をしたいものだけれど。


 そのまま進んでいっても、やはりアパレルショップしか見当たらない。仕方がないので、その一つに入ってみることにした。

 店内のあちこちがピンク色だった。服がそうということでは無く、壁紙とか、照明がピンクがかっている。三十手前の私がこんなところにいていいのだろうか、という気分になる。


 適当に見ていく。当然ながら、私が着られそうな服はなかった。しかし、和泉さんに似あいそうな服なら結構見つかった。

 やはり若いって良いな。何着てもそれなりに見えそうだ。

 なんとなくだけれど、ワンピースとか似合いそうだなあ。白は少し狙いすぎだろうか。

 なんか、落ち着いた色合いの、スカートのやつが良いな。


 「何かお探しですか?」


 店員がそう話しかけてくる。


 「え、えっと」


 特にない、というのも気が引けるが、全然目的などない。何か言わなくてはと焦って、私はとっさに、


 「えっと、高校生くらいの女の子に似あう服ってありますか」


と言っていた。

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