変われない私と、進んでしまう彼女の時間。
第14話 手とか繋ぎたい-1
『…私じゃ駄目ですか、やっぱり』
そう言った、和泉さんの涙が頭をかすめる。いや、詳細に言うなら実際は泣いていないのだ。私の前で、和泉さんは泣いていない。ぐっと堪えて、笑ってすらいた。
しかし、解っている。あの子は泣いていた。過去に引っ張られて、手痛く拒絶したことに、あの子は深く傷ついた。
「……」
朝起きて、陽光に目を細めた。珍しく、今日の目覚めはさわやかだった。
理由は簡単だ。昨夜は、悪夢に起こされなかったのだ。
悪夢、といったら被害者面が過ぎるだろうか。
まあともかく、昔の夢は見ずに、深夜に目覚めることは無かった。その代りというのか、和泉さんと交際している夢を見た。見た目は全然違った。中身もぜんぜん違った。けれど、確かに和泉さんと私だった。
どういうことだよ、と自分でも思う。
まあ、夢だもんな。
「ふあ…」
漫然と欠伸が出る。今日は日曜日だった。部活もやっていないし、重役でもない私は完全に休みの日である。時計を見ると、午前九時を回っていた。
「……」
これ、だらだらして休日を消化しちゃう日の起床時間だな。このままベッドの上で一時間、朝ごはんも摂らずにさらに一時間が過ぎて、めんどくさくて着替えずに一日が終わっていくこと請け合いである。
「んー…とりあえずまあ」
勿体ないので顔を洗って、着替えることにした。わりと小奇麗な服を着て、まあ、街にでも繰り出そうかしら。
買うものなんてなにも無いけれど、気晴らしくらいにはなるだろう。
「…ううう」
あの時私、キスしてもいいかな、とか思っていたよなあ。
完全にキスしたかったよなあ。
教え子に。
うわあああああああああ。
「うああ、うああ…」
何を考えていたんだろう、私は。一度キスしているんだから二度も同じだろう、とかそういうことですか?
いいわけあるか。
というか、いよいよもって、本当に私は和泉さんのことが好きなんだろうな。昨日だって交際している夢なんか見ちゃっているし、その中でだって手を繋いで、キスしていた。
「………うぁうぇうぁああ」
歯を磨きながら、感極まってそう叫ぶ。
洗面所のあちこちから反響音が聞こえてきて、情けない声だなと思った。ついでに鏡は情けない顔を写しだしている。
こんな私の、どの辺りを好きになったのだろうか。
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