季節食堂
日向 諒
第1話 春の味【ふきのとうの天ぷら】
「春野菜の天ぷらです」
カウンターに四角い皿が置かれる。澄んだ湖の深いところの青と緑が混じったような青い皿に敷かれた真っ白な紙の真ん中で、春野菜が小さな音を立てている。じゅじゅ、とか、ちりちり、とか、揚げ立ての音。
一番手前に、開いた花のような形の天ぷら。ふきのとうだ。真ん中のふっくらと丸い蕾のまわりを、ひらいた花弁がとりかこんでいる。これは、ふきのとう。
そっと箸でつまみあげて、明るい湖の皿に添えられた菜の花色の御手塩皿の塩をつける。はなびらの部分をそっとかじる。とたんに口の中にひろがるほのかな苦み。ああ、春だ、と体が言う。体の中に春の息吹が駆け巡る。ああ、春。
もっと春を味わいたくて、ガラス細工のように扱っていたふきのとうを、一転、強引に口の中へ放り込む。外側の衣がさくっとここちよい音を立てた後、中身のしっかり詰まったつぼみがざくっと歯を押し返してくる。同時に溢れるほろ苦さ。春の香り。その後を油の甘さがゆっくりと覆っていき、ふきのとうは香りだけを残して消えてゆく。
立春を過ぎたけれど、今夜は雪が烈しく舞っている。けれど、もう春は来ているのだ。
季節食堂 日向 諒 @kazenichiruhanatatibanawo
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