第3話

10匹で1組なんだろうか。盾持ちが3匹、槍持ちが2匹、杖を持った小鬼が5匹の1組だ。

それが5組。俺を囲むようにしている。


―火球が全ての組から飛んでくる。20個はくだらないだろうそれは、杖小鬼が使ってくる術だ。俺が腕を生やし、糸を吐けるように彼らは火や水の玉を飛ばすことが出来る。

特に火球は当たってしまうと弾け、強烈な衝撃を与えて来る上に、燃える。


躱すしか選択肢はない。


が、これだけの数だと殆ど地上に逃げ道はない。

火球が中心にいる俺に目掛けて真っ直ぐに飛んでくる。すぐに直撃してもおかしくはない距離になってしまった。


当たる寸前で地面を蹴り飛ばし、空中に逃げる。

俺がいなくなった事で、火球同士がぶつかり合い、直前まで俺がいた場所で大きく爆ぜる。

その爆風に押されるようにして俺の正面にいた1組に突っ込んでいく。ただし、跳躍したため山なりだ。


幸い、結構な爆発があったおかげで俺がいたあたりは土煙が立ち込めているため、様子はわからないだろう。というより、俺を仕留めたとでも思っているんじゃないだろうか。


「「ギャッギャッ」」


その証拠に嬉しそうな鳴き声が響いている。

爆風の勢いそのまま、全面で形だけ盾や槍を構えているにやけ面の小鬼を跳び越し、杖小鬼達の背後に着地する。


そうやって確認も取らずに、油断して、喜ぶから、ほら


「簡単に死ぬことになる」


杖小鬼2匹に腕を突き立て、魔核を抜き取る。


「「カッ?!」」


「「「グギャ?」」」


仲間が貫かれてからようやく気づいた他の杖小鬼も、蜘蛛脚で魔核ごと貫いていく。魔核は少しが、ここで下手に時間をかけると危険に晒されるのは俺だ。小鬼の魔核程度で無駄に危険を侵す必要は、微塵もない。


土煙は、まだ晴れない。


この集団の杖小鬼以外は放置して、他の4組の杖小鬼だけを狙っていく。

そうして同じように二組分の杖小鬼達を殺したあたりでようやく他の小鬼達が異変に気づき始める。

杖小鬼がいない事に気づいたらしい。少し離れた場所からギャァギャァと騒ぐ鳴き声が聴こえる。


4、5組目の小鬼達はなぜ騒いでいるのかわからないようで互いをキョロキョロと見回しながら揃って首を傾げている。


特に問題は無い。むしろ少し順調すぎたくらいだ。

4組目の後方に着地し、杖小鬼達から魔核を抜き取る。貫く。


互を見回していたせいだろう。そこで他の小鬼に見つかってしまった。

こちらを見て驚いているのか、硬直していたので、その間に集まると厄介な盾持ちを殺す。3本の脚で盾を弾き、2本の腕ともう1本の脚で魔核を貫く。

残り2本で槍持ちの魔核を同じように貫きこの集団の小鬼を全滅させる。


そして最後の杖小鬼がいる5組目。同じように跳躍するものの、流石に気づかれてしまった。


盾持ちが固まってこちらを牽制しつつ、槍持ちが隙間からこちらの隙を伺っている。


...学習しない奴らだ。


盾持ちに向かって糸を吐く。固まっているために満足に動けない彼らは、やはりろくな抵抗もできずに糸に捕えられた。


そこで火球が飛んでくる。口から吐いている糸を切り、火球に糸が当たるように投げてやれば、糸ごと捕まっていた盾持ちたちにも被害が及ぶ。糸に引火した火は、そのまま盾持ち達を焼き始める。間近でそれを見ることになった槍持ちが慄いている間にその2匹の息の根を止める。


後は守ってくれるもののいなくなった杖小鬼を殺すだけの簡単な作業だ。

そうして5組目も潰した後で、他の杖小鬼だけを殺した集団の様子を見る為に振り返る。そろそろ襲いかかってくる頃だろう。


しかし彼らは、こちらに向かってくることも無く、残った小鬼達全てが1箇所に集まり、何かを待っているかのように、こちらを忌々しげに睨みながらも待機していた。


そうして互いに睨み合っていると、洞窟の奥からそれが現れた。


およそ「小鬼」と呼ぶに相応しくない全身を筋肉の鎧でおおった大きな鬼。額から1本の角が生えている。

他の特徴は殆ど小鬼達と一緒ではあるが、殺気立ってはいるものの、それ以上に悲愴な雰囲気が感じ取れた。


小鬼達は、そいつが出てきたあたりで盛大に騒ぎ始めている。


小鬼の王


そう呼ぶのが相応しいのだろう。

小鬼の王がこちらに話しかけてきた。

まさか話せるとは、意外だ。濁点の多い、お世辞にも聞き取り易いとは言えない程度の言葉ではあったが。


「ナゼ、我らヲおゾウ...?」


ある程度警戒しながらも、こちらに話しかけるだけで、今は襲いかかってくる。ということも無さそうだ。


―であるならば好都合だ。


出している蜘蛛の腕をしまい込む。その様子を見て、小鬼の王は少し警戒を解く。そして更に何かを話そうと、口を開き...


一息に飛び込み、そのまま小鬼の王の胸に腕を突き立てる。


「げギャッ...」


王と言ってもあくまで王だ。さほど抵抗もなく、他の小鬼達の時と同じように埋まっていく腕。比較的大きな魔核を握り、思い切り抜き取る。


穴の空いた胸からとめどなく、暗緑の血を流しながら、小鬼の王が倒れ、呆気なく命を落とす。


敵を前にして話をしようとするのは、およそ正気とは思えないかったな。結果として一番の脅威を楽に殺せたのだから文句はないが。


呆然とその光景を見ていた運良くも生き残っていた小鬼達は、我先にと洞窟から逃げ出していく。

そうして洞窟内に残ったのは、大量の小鬼の死体というその王であったものの死体だけとなった。


もぞり...


と、思っていたんだが。


初め、小鬼達が向いていた方、洞窟の奥の暗がりで何かが動く気配がした。


そちらに視線を向ける。

ビクリと震えるそのヒトは、こちらに向けて声を掛けてくる。


「え、と...襲わないで、くれませんか?」


この洞窟の中で良く響く、清音虫が奏でるような綺麗な声だった。

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