第2話
手頃な獲物を求め、森の中を歩いていると、据えた臭いが鼻についた。近場に醜い小鬼の巣があるらしい。
小鬼は変わった特性を持っている。ヒトの雌を拐い、繁殖に使うようだ。もっとも、加減を知らない為に、すぐにヒトは死んでしまうようだったが。
ーちなみにヒトというのを実際に見たことはない。どうやら俺たちのような虫人から甲殻などを取り去った容姿をしているそうだが...小鬼程度に捕まるということはそれほど強くは無いのだろう。ヒト以外の種族で小鬼に捕まるという話はあまり聞かなかった。集落にいた大人達も、小鬼程度ならば逆に返り討ちにしてやれると言っていた。
その死体の処理もせずに、自分たちの糞尿と共に放って置くことが多い為に嫌に強烈な臭いが巣穴から漂ってくる事もしばしばある。
そういった理由があり、なかなかに見つけやすい獲物と言えた。
更に言うとこの小鬼達は、弱く、数が多いため安全にレベルをあげるには丁度良い
今のレベルとなっては、相当な数を狩らなければいけないだろうが、それでも無いよりはあった方が良い。
臭いを辿ていくと、岩山に削られた洞窟のような場所へと着いた。どうやらここが小鬼達の巣のようだ。
時折中からギャッギャッといった耳の底を引っ掻くような鳴き声も聴こえてくる。
今更小鬼達を警戒しても仕方が無いため、特に身を隠すこともなく巣穴であるらしい洞窟内へと入ることにする。
......?
小鬼達は入り口の警戒をすることなく、全てが洞窟の奥に意識を向けているようだった。
今まで狩ってきた他の巣穴であれば、入口のあたりに数匹、見張りが立っていた筈だ。
が、今回はそれが居ない。
こちらに気づいているのは小鬼の集団から僅かにはみ出している数匹のみ。気づかれていないうちに近づき、小鬼の胸に当たる部分に手刀をつき込む。元々自身の鎧とも言える甲殻に覆われた指先は、軽い抵抗と共に小鬼の胸に埋まっていく。
そうして小鬼の胸の内側にある小さな球状の塊、魔核を抜き取る。魔核は、俺たちが生きるために必須の部位で、これを抜かれる、もしくは壊されてしまうとどう足掻いても死ぬことになる。
「カッ...」
ろくな悲鳴をあげることすらせずに1匹目がおちる。
よほど熱狂しているようで、未だこちらに気づいている者の数は少ない。
...本当に、何が起きているのやら。
そうして着々と数を減らし、全体の三分の一程の小鬼を狩ったところでようやく小鬼達の意識がこちらに向けられてくる。
「ゲギャ」
「グギャ」
「ギャッ」
「ギャッ」
「「「「「ギャッ!!」」」」」
少しずつ鳴き声が連なっていき、最後には大合唱になる。普通に不快だ。
そうして俺の周囲にいた数匹が一斉に飛びかかってくる。数は、6匹。前後左右から隙間を埋めるような間隔だ。俺の頭にあたる部分には、頭部の上方をぐるりと囲うように8つの眼がついている。どれも小さいもので、殆どは髪の毛の中に埋もれているが。
そのため、全ての方位を同時に確認するのはさほど苦労しない。
どれも顔についている正面の2つ程完璧に見える訳では無いが。
今対応しなければならないのは6匹。そして俺の腕は2本。数は全然足りていない。同時に飛びかかってきているので薙ぎ払うにしても時間差が出てしまうため反撃される可能性もある。
ならどうするのか。
簡単な事だ。足りないなら増やせば良い。
俺の背からメキ...と音を立て、先端が槍のように尖り、貫くことに特化した節くれだった蜘蛛の脚が6本飛び出し、襲いかかってきた空中の小鬼全てを貫く。
「ガッ!?」
ごく短い悲鳴を上げ、力なく項垂れる小鬼達。正確に魔核を貫かれた彼らは、すぐに命を落とした。
6本の脚を振るい、小鬼の死骸を抜くついでにあたりに密集している他の小鬼達にぶつけるようにして投げる。
一瞬で仲間がやられた事に驚いているのか、未だに硬直している小鬼達に今度はこちらが飛びかかり、腕を増やした分先程よりも余程速いペースで小鬼達を殺していく。
仲間が簡単に死んでいく事でいよいよパニックとなった小鬼達は、統制も何も無い動きで狂ったように暴れ回るだけとなっていった。
このまま行けばかなり楽に終わりそうだ。
「ゴギャァァァァァッ!!」
―と思っていたんだが。
洞窟内に大きく響いた何かの雄叫び一つで、あれだけ狂乱していた小鬼達が静まり返った。
小鬼達は入れ替わり集まり、バラけ、一つ一つ集団を作り出していた。
妨害しようとするも、他の小鬼よりもひとわまり大きな盾を持った小鬼が十数匹がかりで逆にこちらの動きを阻害してくる。
邪魔な盾を弾き、がら空きになる胴体に脚を突きたてようとした瞬間、横から新たに盾が入り込んで俺の脚が止められる。連続で弾こうとすると、横合いから槍が突き込まれ回避行動を取らざるを得なくされてしまう。
堂々巡りで一向に状況が動かない。
体力的には小鬼の方が早いため、そのうち持たなくはなるだろうが...
未だに盾持ちの後ろではせわしなく小鬼達が動き、何かの集団を作っている。
早いところこの盾小鬼をどうにかしておきたい。
厄介なのは連携、連携だ。
喉の奥から何かがせり上がってくる感覚。それをそのまま口まで運んだ後で、少し上を向き、顔を下ろしながら吐き出す。以前見た竜のブレスのように。
盾小鬼の数匹を覆うように拡がりながら、粘性のある網目状の糸を吐き出す。急な攻撃に反応出来ない彼らは糸に絡めとられ、ろくに身動きが取れなくなる。
突然仲間が捕えられた事で警戒したのか、他の盾小鬼達は間隔を拡げながら大きく俺を取り囲むような形に並び直した。おかげで動きが阻害されることもなくなり、逃げる事も容易に出来そうだ。いや、それもそうだが...
1度に糸に絡められるのを防ぐために拡がったのか
おかしい、小鬼はここまで頭が良かっただろうか。
少なくとも今まではこんな事は無かった。
逃げた方が良いのか、そっちの方が確実だが......
仮に逃げたとして、今度また同じような状況になったらどうするのか。次も逃げられるという保証はない。
で、あるならば。
余裕があるうちに、ここで原因を把握した方が良い。
ひとまず糸に捕えられている盾小鬼にトドメを刺し、間隔を拡げた事でさっきのように互いのフォローが出来なくなった他の盾小鬼達を一体ずつ着実に殺す。
そうして幾らか時間を掛け、盾小鬼を殺しきった時には、小鬼達は完全に俺を包囲し、盾を全面に構えている小鬼達が全面に出るようにしてこちらを殺意の篭った目で睨みつけていた。
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