蟲人と少女
虫媒花
出逢いの日
第1話
暗がりの中で、ずぶりと肉を貫く音と、くぐもった悲鳴のような鳴き声が響く。
「げギャッ」
眼の前の敵から腕を引き抜く。穴の空いたその胸からはとめどなく血が溢れている。
どさり、と俺の眼の前で尖った耳と鷲鼻を持った醜い緑の
胸に穴の空いた死体の出来上がりだ。
周囲にはサイズを小さくしただけの同じような死体が無数に散らばっており、元々はここがこの小鬼達の巣であった事は、想像に難くはない。
もぞ...と暗がりの奥で動く気配がした。
端的に言ってしまえば、この状況をつくってくれた原因だ。
そちらに視線を向ける。
ビクリと震えるそのヒトは、こちらに向けて声を掛けてくる。
「え、と...襲わないで、くれませんか?」
この洞窟の中で良く響く、清音虫が奏でるような綺麗な声だ。
それが、初めて彼女と出会った時だった...筈だ。
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小さかった、本当に小さく、弱く、何があっても震えることしか出来ない生まれて数年ほどの、まだまだ身体が「まとも」だった頃の話だ。
虫人の集落の外に広がる森、正確には集落が森の中にあるんだが...ともかくその森で小さな兎などを追いかけ回し、存分に遊んだ後集落に帰る事にした。
存分にと言ってもまだまだ子供。せいぜい数刻ほど外で遊べば、自然と体力も尽きてしまっていた。
疲れた泥だらけの身体のまま、集落へ戻った時に見たのは、至るところから炎を上げる家々と、手脚のない集落の猛者達の死体。
身体中至るところがむしり取られたように抉れ、元がどのような姿出会ったのかわからない両親の死体だった。
その時に真っ先に感じたのは、親が殺されてしまった悲しみ、集落の皆を惨たらしく殺した者への怒り
...ではなく、恐怖だった。
あれほどに頼りがいのあった優しくも強い集落の男達、無条件にいつまでも変わらずにあるのだと思っていた日常...それが簡単に無くなってしまうと言うことに、簡単に転がっている死に真っ先に怯えた。
死にたくない
恐らくそれが、今の俺を形作っている最も単純な思いだろう。
死にたくないから強くなる。
強くなりたいからレベルを上げる。
強くなりたいから外法にすら手を染める。
単純な話だ。
これは、そんな俺の生き方を、いつか粉々に砕いてしまうだろう少女との出逢いだった。
...当時の俺は、露ほどもそんな考えは持っていなかったが。
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