第5話 黒い化け物





死ぬのが・・・悲しいから・・・殺す者を殺せ・・・






目が覚めた・・・


ん・・・



あれ・・・刺されたはずなのになんともない・・・

ここは元の小屋だった・・・

なんださっきのは悪い夢でも見ていたんだな・・・

はぁ・・・良かった。




立ち上がってあたりを見回す。




玄関口で ゴブロウおじさん が血を流して横たわっていた。

目を反らしたかった、事実を現実を受け止めたくなかった・・・しかし、まぎれもなく それ はそこに横たわっていた。



「・・・ゴブロウおじさん」



おじさんの体は・・・既に冷たくなっていた・・・





少し離れた場所から火の手が上がっていた。

さっきの奴らがゴブリンの村を襲っているんだ・・・




村を・・・村を・・・




ゴブロウおじさんの最後に聞いた声がはっきりと耳に残っていた。





歩く、歩く

ただ歩いているだけなのにどんどん呼吸が荒くなる・・・

心に色々な映像が流れ込んでくる・・・






$$$






鎧と盾を装備したヒトの5人組は

次々とゴブリンたちを殺して村に火を放っていく。

彼らは笑う、ひたすらに笑う・・・




ふと、少年がゆっくりこちらに向かってきていることに気づく。



「なんだ?」

「ああ、こいつ、さっき小屋で倒した魔獣か?」

「まだ息があるじゃんかよ」




少年は虚ろな目で何かをつぶやいている・・・





(死ぬのが・・・悲しいから・・・殺す者を殺せ・・・)





少年の影から黒い魔力がどんどん染み出てくる・・・


5人のヒトは命の危険を感じ一斉に飛びかかったが・・・







既に遅かった・・・








あいまいな意識の中・・・少年は声を聴く・・・

優しそうな女性の声だった。


『シンカ・・・シンカ・・・生きていて良かった・・・』


なんだこの声?・・・

懐かしい気がするけど・・・

思い出せない・・・





$$$





夜が明けかけていた・・・

少年の周りにはズタズタに引き裂かれたヒトの死体が転がっていた・・・



「・・・」



ふと、大きな黒猫が少年の前に現れる。

黒猫「すごい音がしたから見に来てみれば・・・やっぱり君だったか・・・」


黒猫「やぁ・・・どうだい?・・・殺した後の感想は・・・」

「・・・」




「別に・・・どうということもないかな・・・」




黒猫「そうか・・・それは・・・何よりだ・・・」




「・・・シンカ」



「?」



「俺の・・・名前らしい」



「そうか・・・ちなみにボクの名前は『ノワール』だったらしい・・・これからもよろしく、シンカ」


「ああ・・・よろしく、ノワール」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る