世界は、あと一年で消える。
さーな
とある会社員の一年間。
「おい!これを見てくれ!!!」
「なんだ…これは…」
「これは本当なのか、正確か!?」
「ああ…。」
「合っているとすれば、地球は_______」
ヂリリリリ。チリンッ。
カーテンの隙間から、薄暗い空が見える。
妙に落ち着く水音が、部屋に響く。
ふと我に返り、時計を見る。
_________遅刻だ。
急いで、着慣れて色褪せたスーツを着て、家を飛び出す。
普段の電車は、8時5分発。
現在時刻、7時55分。
走って間に合うか間に合わないかくらいか。
急げ。急げ。
駅の近くに来ると、電車が着いたのが見える。
間に合わない、と確信したとき、私は歩き始めた。
ホームで息切れているのは私くらい。次の電車は8時12分発。
もうすぐ来るだろう。
言い訳、どうしようか…。
職場に着くと、息を整えてゆっくり扉を開ける。
「おい、早く原因を調べろ!」
「早く国に連絡を!!!」
開けると、いつもは静かな会社が、ザワザワと、落ち着かない様子だった。
すると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おい、桜!とりあえず遅刻したことはいいから来い!」
はい、と返事をし、上司の方に駆ける。
上司の目の前に来ると、上司が冷や汗を書きながら早口で話し始めた。
遅刻したことはいい、それ以上に大変なことが起きたんだ…。
この会社で、四次元空間と時間についてやっていたのは理解しているだろう?
時間を空間に表すことが出来たらって話だな。
今日の朝、早く来た奴が研究してたら、完成しちまったみたいなんだ。
彼が成功したのは、12時間毎の空間表示。
ただ、立方体の箱並んでいて日付が記してあるだけで、その箱の中には入れなかったらしい。
ここからが問題なんだが、
今日は2098年9月1日。
時間の箱があったのは、2099年6月15日午前までだった。
あと約300日だ。
ただ、彼の時空間が正確ではない可能性もないとは言いきれない。
桜、お前は時空間まであと一歩だっただろう?早く完成させて、見に行ってくれはしないか?
と。
急な話で、言葉が出ない。
いきなりすぎる。あと約300日?
一年を切っているなんて考えられない。
頭が真っ白になりそうだ。
だけど、
私の時空間が完成しないと本当かどうかも確かめられない。
もし完成した時空間に、6月15日までしかなかったら。本当の可能性は高くなるだろう。
急がなければいけない。
スタートが遅かったのなら、急いで間に合わせなければならない。
ゆっくりと、私は口を開ける。
「はい、完成させます。絶対に。」
騒々しい会社の中で、私はプログラムを打ち込む手を止めたことは無かった。
急がなかければならなかったから。
でも。なかなかうまく出来てくれない。
何十年か前は、スマートフォンで画期的な発明だと言われていたのに、もう既に、時空間の実現化にかかっているなんて。
…ここ、どうやってやるんだろう。
「そんな超スピードでプログラム打ち込めるの、お前くらいしかいないよな」
と、騒々しい中、声をかけてきたのは幼馴染の優。
タイミングバッチリだ。
「ここ、わかんないんだけどさ」
私は素直に言葉にするが、長時間喋っていなかったせいで声がガラガラになっていて、少し恥ずかしい。
「ここはこうだろ、何やってんだか。
ていうか、完成したら時空間に入って見てきてやるよ。
戻ってこれなくなることもあるんだから。
お前に行かせるわけには行かねぇもんな、会社的に。」
「いちいち最後の一言余計だよ…まあ、ありがとう」
私にコーヒーを持ってきた優は、私の言葉を聞いたら自分のデスクに帰っていった。
よし。頑張ろう。
私は再度、手を俊敏に動かし始める。
そして私はついに、完成させた。時空間への扉を。
私たちの会社の長年による研究により、時空間を作り出すことに成功したんだ。
第二空間。第一で開かれた時空への扉は、帰っては来れたが一度きりであり、ひとつひとつの箱を開けることは不可能だった。
まだ、私が作り上げた第二空間で箱を開けることが可能かも、帰ってこられるかもわからない。
そんな空間に自分から行くと言い出したのは、
他でもない優。
「ねえ、本当に行くの?帰ってこられるかもわからないんだよ?」
「大丈夫、奏が完成させた扉だろ?俺は信じてるから、大丈夫だって。
第一を作った萩野さんが見た箱は、嘘だったって証明する。
待ってて」
社長から通信機を手渡された優は、そう言った。
だけど。優は、自分の気持ちを殺している。
私にはそう感じる。
ボロボロと涙をこぼす優が、怖くないはずはないし、もう帰ってこられなくなるという覚悟を決めている最中のようで。
周りの社員からは、「信じてるぞ〜青木〜!」「しっかり見てくるんだぞ!!青木優!!!」
と大声援が飛んでいる。
私はその声援で消えてしまうような声で、
「ありがとう」
と言ったのだが、私まで涙が出てきてしまった。
帰ってこられない可能性があるだけだ。
だから、帰ってこられないってなるまで泣かないつもりだったのに。
今日は、12月5日。
もう、あと約7ヶ月に迫ったこの日に、私の幼馴染み、青木 優という男は、
第二空間の扉を開けて消えていく。
まず、無事着いて生きていれば、優が持っている通信機のボタンで、こっちの赤いライトが光る。
そこから、彼は見に行くんだ、
2099年、6月15日の午後からの地球が存在しているかを。
存在が確認できたら、ライトが3回点滅する。
最悪、帰ってこられない状態になった場合、ライトを5回点滅させる。
私は、優を信じていた。世界が終わる日の、午後からの時間を見つけてきてくれると。
あのボタンとライトはかなり特殊に出来ている。
絶対に、繋がらないということはない。
ぼーっとライトを見つめていると、ライトが一回、光った。
その突如、会社の中が歓声に溢れる。
正直、私も一安心だ。
「桜!良かったな!お前の扉はきちんと繋がったみたいだ!」
という社員の声で、私は感極まり、その場で号泣してしまった。
だが突然、ライトの方にいた社員たちが、私を呼んだ。
「ライトが、3回点滅した」
と言った。
世界はあと何ヶ月かで終わるの…?
やっぱり、なにかの間違いだ。
私のプログラムも、萩野さんのプログラムも、
絶対どこかでミスをして、違う星の空間に入ってしまったんだよ。そうだ。絶対に、そうだ。
いや、帰ってきた優に嘘だと言わせてやる。
私はライトをもう一度じっと見つめる。
何時間見つめたかわからない。まだ、反応がない。
私はもう、何も信じられなくなって、会社を飛び出した。
ああ、こんなことなら、優とこの会社に入るんじゃなかったな。
私が巻き込んだようなものなんだ。
私が、存在が確認されていない空間に、もし行けるとしたらと考えて優を誘ったのが悪かったんだよ。
ごめんね。優。
いま、優は生きていますか。
優、優。
私が落ち着いたのは、深夜だった。
この時間では電車もないので、仕方なく会社に戻って会社で寝よう、と思いつき、会社に入ると、暗闇で、赤いランプが点滅しているのが見えた。
1、2、3、4、5。
また、私の目から一気に大粒の涙が溢れ出した。
声が出ない。
口が閉まらない。
こんなあっけないことあるか。
体が震えている。
額から冷や汗が絶えず出てくる。
お願いだ、嘘と、嘘だと言ってくれ。
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
優、私は言ってないじゃないか。
君も言ってないじゃないか。
好きだって伝えられなかった。
ごめんね、ごめんね。
私のせいだった。
今まで簡単に言えたありがとうより、
今まで素直になれなくて言えなかったごめんなさいしか出てこない。
声を押し殺したように泣いていた私は、ふと窓の方を見た。
明るい。
ブラインドの隙間から、キラキラとした陽が射している。
何を思ったか、私はブラインドを開いた。
海に面していた丘の上にあった会社からは、
綺麗な海が見えていた。
私は、窓を開け、潮風を感じながら、自分のデスクに歩く。
扉を、扉をもう一つ作る。
第二と同じプログラムを改造して、帰ってこられるような扉を作る。優を連れて帰って、あとの数ヶ月一緒に生きる。
彼は、非常食を1週間分くらい持っていっているはずだ。
飲食不可の状態で生きられるのは約3日だと考えられている。
じゃあ、それまでに間に合わせるまでだ。
優。頑張るから、待ってて。お願い、生きてて。
私は、「青木優救出計画」を立てた。
社長にもお願いして、社員一同で取り組むことになったのだ。
期限は一週間と2日。
私は、第二の時より全力で、プログラムを打ち込んだ。
ランプは、きちんと1日ごとに光っていたため、社員の希望もあった。
計画を立ててから、8日目。
あと1日、という所で扉は完成。
私は息を飲んだ。
「開けます。行ってきます」
と会社に一言残して入る。
はじめて空間に入った私は、真っ白な空間に気味悪さを感じる。そして、「現在」と書かれた箱の近くに優が座って、こちらに手を振っていた。
私が優に駆け寄ると、彼は言う。
「俺を信じてくれてありがとう。
助けに来てくれてありがとう。
俺も信じてた。
あと数ヶ月だけど、言わせて。
俺と結婚してください。
この世界が終わるまでの数ヶ月だけだけどさ。
一緒にいてくれる?」
嬉しかった。とても。
というか、交際通り越しちゃったよ。
「ありがとう、ありがとう…!!
ゆう、ありがとう。ゆう…!
こちらこそ…よろしくお願いします!」
優は、昔からよく泣くなあ、って笑っている。
その後は、行き来ができる扉にちゃんとなっていたようで、無事に扉から元々の三次元に戻ってきた。
周りからすごい歓声だった。
私が、ただいまです、と言おうとした時。
「俺たち、結婚します」
と、隣から優の声が聞こえた。
世界は、あと一年で消える。 さーな @Saina
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