第23回 窓にぐちゃ〜〜っと顔の脂を付着させる氏

 私が常々霊的現象は所詮幻視幻聴の類いだと思う理由の一つは、誰しも想像するような現象が多々起きるからだ。


 その一つが、掲題の『窓にぐちゃ~~っと顔の脂を付着させる氏』(今考えた名称)である。

 私は窓の外側を掃除するのが大嫌いだった。

 大きな理由は特にない。すぐに汚れてしまうのに、何度も掃除するのが嫌という程度だ。

 だが、そんな私が窓掃除をする日が年に何度かあった。

 その代表的な理由は手を押しつけた痕や顔を押しつけた痕が付いている時という、どこかで聞いたことがあるテンプレートな状況が発生した時である。


 特に多かったのは、第6回、第11回、第12回の頃に住んでいた家である。3LLDKにトイレとシンクが二つあるというやたらと広大なマンションだった。LLとはラージ・リビングのことである(らしい)。

 当時はアメリカなどというだだっ広い場所から帰ってきたばかりだったのでその120平米のマンションの一室を私は「狭っ」と思っていた。都内のわりと良い住宅街でそんな良いマンションに住まわせてくれた父には感謝すべき話なのにだ。

 しかしそのマンションは三度も登場するだけあって、本当に酷い家だった。


 私の部屋の窓はどう頑張っても登れる場所にはなかった。エアコンの室外機をおける程度のベランダらしき物はあったが、登ってこれるような足場はない。

 そもそもセキュリティは万全な上に、代議士、アナウンサー、かなり有名な芸能人という豪華な布陣の住民の中で最底辺の更に下といえるデブガキの部屋の窓にリスクを犯して上ってくるド変態など存在しないだろう。

 そもそも私の部屋の窓の外にはベランダなどなく、エアコンの室外機を置くちょっとしたスペースがあるだけだ。ロープでも引っかけるか、5m以上の脚立を用意しない限り登っては来れない。


 それに、『付着させる氏』が残していく痕は、明らかに人が付けられるような顔の痕ではなかった。

 ぐちゃっと顔が潰れたように付着していたのだ。

 つまり、頭蓋骨や鼻の軟骨も何もなく、皮膚と肉だけの顔が押し付けられたような痕の付き方だったのだ。

 それに気付いた瞬間から、私は自分から部屋のカーテンを開かなくなってしまった。


 今は当時のことを少し悔やんでいる。

 もし私にもう少し勇気があれば、そのべたっと付いていた顔の脂とおぼしき何かを綿棒などで採取してオカルト番組にでも送りつけるくらいのことが出来れば、科学的に分析してもらい、何か新事実が発覚したかもしれない。


 その残留物が人間の物なのか、また別の何かなのか。

 知りたいような知りたくないような複雑な気分が、今この話を書いている私の中に渦巻いている。

 


 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る