第163話 内通者との戦い

 俺達は、反対派達をかく乱するための行動に出た。


 これまでは、陛下のスケジュールに空きが出そうな時は十分前もって親衛隊にも屋敷へ行く事を伝えていたんだが、これを廃止して、直前になって伝えるように徹底した。


 これまで屋敷へ行くことは予定表に書いていたようだけど、それを廃止。あくまでも空き時間に突然行くことにしたようだ。


 その結果、内通者は伝令役にその事を伝える暇も無かったのか、陛下がこちらへいらっしゃる時に反対派が大挙して押し寄せてくることは無くなった。


「やはり親衛隊の中に造反者がいるって事がはっきりしましたね」


 難しい顔をしながらエレオノーレさんがそう呟いた。それに対しティルデは苦い表情を見せている。


 今日もオルガ女王は、いつも通りの仕事をこなした後、時間の空きを利用して急遽屋敷に来ている。


 そのせいか、反対派の人間も少数しかおらず、無事陛下も屋敷の中へと入る事が出来た。


 もちろん毎日人海戦術を駆使して総動員されたらお手上げだけど、彼らだって自分たちの生活の為に仕事をしなければならないだろうし、いつ来るかわからない陛下の為に毎日出張ってくるわけにはいかないだろう。


「反対派に対する対処が出来たのは良かったけど、これまで陛下の行く先々にあんなにも多くの反対が都合よく何故現れたのか、その原因がはっきりして正直気落ちしているわ・・・」


 ティルデは少し唇を嚙みながら、悔しそうにしている。


「これまで内部にスパイがいるという話は出なかったんですか?」


「いえ、一応捜査はしていたんです。でも、誰が内通者か分からない状態では、闇雲に兵士に協力を仰ぐわけにもいかず・・・」


 今度はアリーナが俺に答えてくれた。


 あー、そりゃそうだよな。相談した相手がスパイって事もあり得るのか・・・。


「とは言え、私達も本気で親衛隊にスパイがいるとは考えていなかったかも・・・」


 もっと真剣に捜査していればと、今度はアリーナも悔しそうな顔をしている。


 まあ、二人ともオルガ陛下の事は心から尊敬しているようだし、そんな陛下を裏切るような奴が親衛隊にいるとは考えたくなかっただろう。


 むしろ、部外者の俺達だからこそ、そう言う考えに至ったわけで。


「それは仕方ないですよ。私達にとってはそうではありませんが、お二人にとっては信頼できる仲間達じゃないですか。彼らを疑えないという気持ちはわかります」


 落ち込む二人にエレオノーレさんが励ましの言葉をかけていた。


 そっか、エレオノーレさんも軍隊出身だから、そういった仲間意識みたいなものへの気持ちはわかるのかもしれないな。


「まあ、とりあえず第一段階は突破、という事で。今後対策された場合、第二段階へ移行、そういう事で良いでしょうか?」


 俺の言葉に、陛下も含めたその場の全員が頷いた。


 そしてしばらくすると、再び女王陛下の屋敷への訪問に合わせ、反対派の人間が集まる事態が増えてきた。最近ではほぼ100%に近い的中率を誇られている。


「やはり相手も対策してきましたね」


「そうね。でもこれは想定内だし、これからが本番ね」


 俺の言葉にティルデが答える。そう、これは予想されていた事だ。何しろ内部にスパイがいるんだ。遅かれ早かれ対応はされると思っていた。


 とは言っても、そう言ってきたのはエレオノーレさんとユリアーナであって、俺じゃないんだけど。


 俺なんか対策できた事で完全に安心してたわ。


「これで一安心ですね」


 なんてユリアーナに言ったら「は?そんなわけないじゃん」て渋い顔されたし、エレオノーレさんには苦笑いされた。


 それ以来俺はあまり口を挟まないようにしている。はいはい、どーせ俺なんか何もわかってませんよ。


 それでユリアーナとエレオノーレさんが考えた対策というのが、陛下の情報を反対派達に流しているスパイを炙り出すことだ。


 内通者が分からない状態だと、延々と対策を考え続けなければいけないが、もちろんそんな事は出来るわけがない。


 なので秘密裏にスパイを特定し、間違った情報を流し続けようという事になったんだ。


 方法は、陛下の予定を知る事が出来る隊員に本当の予定を公開する。そして、陛下、ティルデ、アリーナの3人でそれぞれ監視を行う。


 そしてある程度候補が絞られたら、嘘の情報を流し、それに乗っかってきたらそいつがスパイという事になるだろう。


 かなり地道でつらい作業になるが、それしか方法は無いと思う。


 ただ、陛下の予定を知る事の出来る立場にいる人員は限られているので、不特定多数を監視する必要が無いのが唯一の救いかもしれないな。


 ただ、信頼する仲間をそう言った目で見なければいけない3人の気持ちを考えると、ちょっとつらいものはあるよな・・・。


 あとこれは、俺とユリアーナとエレオノーレさん、そして陛下とティルデとアリーナの6人だけで共有している事だ。


 ユリアーナ曰く、屋敷の人間にも用心するに越したことはない・・・との事だ。


 メイドのルーナ嬢が実はスパイでした、なんて事は夢にも思ってないが、最近は色んな人が出入りしている。そう考えるとこの6人だけで情報共有していたほうが良いとは思う。


 あと、俺としては屋敷に来る陛下の安全を考えたうえでの作戦としか考えてなかったんだけど、陛下のスケジュールを完全に把握させないことで、暗殺の可能性を下げる効果もあるだろうって事だった。


 特に護衛が手薄になりがちな状態は、スパイが見つかるまではティルデやアリーナ以外には漏らさないようにするらしい。


 そして俺達は作戦を実行することにした。

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